JR目黒駅西口、目の前の横断歩道を渡ってすぐの所にある、立ち食いそば「田舎」。戸も、仕切りも何もない、ただ短い暖簾(のれん)でのみ空間を隔てられた、吹きさらしの"ザ・路麺店"である。黄色い庇がよく目立っているので、目黒駅ユーザーなら誰もが目にしていると思うが、入ったことはあるだろうか。
気取らないおいしさがここに
店内はL字のカウンターで、5人も並べば窮屈なスペース。カウンターのケースには揚げおきされた天ぷらが並んでいる。携帯型の小さなテレビからはニュースが流れ、水は体育会系の部活動で使われていそうな巨大な水筒型のサーバーからセルフ。
壁には短冊で10種類以上のメニューがぶら下がっており、「サービス品」として「アジ天そば・うどん」が大きくプッシュされている。だが筆者は、この店が常にアジ天をサービス品にしていることを知っている。注文はもちろん、「アジ天そば」(税込390円)。代金はそばと引き換えに払う。
丼に浮かぶアジ天は、どんどんふやけていく。衣は分厚く、アジ以上に存在感を放っている。白く、やや太めの麺にコシなどない。多めに盛られた小口切りのネギと一緒に、この柔らかい麺をズルズルとすする。チープな味と言ってしまえばそれまでだが、むしろ親しみを感じる好きな味だ。立ち食いそばはこれでいい。気取らない、ならではのおいしさがここにはある。
食通が推薦する有名蕎麦屋で酒を飲むのも悪くない。でも、「田舎」で味わう5分間も、十分に満足できる時間だ。
※記事中の情報は2016年2月取材時のもの
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。