経済キャスターの鈴木ともみです。連載『経済キャスター・鈴木ともみが惚れた、"珠玉"の一冊』では、私が読んで"これは"と思った、経済・投資・お金に関連する書籍を、著者の方へのインタビューを交えながら、紹介しています。第9回の今回は、鈴木一之さんの『きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ』(日本経済新聞出版社)を紹介します。
鈴木一之さんプロフィール
株式アナリスト。千葉大学人文学部卒業後、大和証券に入社。株式トレーディング室配属となり、以後一貫して株式トレードの職務に従事。現在、フィスコプレイス客員アナリスト。株式中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・STOVO-TV)キャスターほか、ラジオNIKKEIなど多くのメディアに出演中。
2012年。年が明けました。このお正月はおそらく誰もが、今年こそは笑顔に満ちた一年にしたいと願って過ごされたことでしょう。昨年は、未曽有の大災害である東日本大震災が日本国内を襲い、海外では、欧州債務危機が世界経済を揺るがすという、まさに激動の一年となりました。そうした中、我々に求められたのは、困難を打破する「突破力」と、復興を地道に行うための「持久力」だったように思います。
この「突破力」と「持久力」は、私たち一人ひとりが日々生きていく上でも必要とされる力でもあります。まずは、「突破力」により困難を克服することで、新たな道が切り拓かれます。同時に、「持久力」で地道にコツコツ今すべきことを続けることで、その先に結果が生まれてきます。
具体的に「突破力」をイメージするとすれば、サッカーの試合で素早いドリブルからシュートを決めるような力ではないでしょうか。一方の「持久力」は、試合中に安定したディフェンスで守り、かつチームの点につなげるアシストを試合終了まで続ける力といえるでしょう。「突破力」を発揮する選手は華やかで、一方の「持久力」を発揮する選手は地味な面もあります。ですが、「持久力」のある選手がいなければ、相手に点を取られてしまう、つまり負けてしまうわけです。「持久力」がなくては、試合に勝つことはできません。
前置きが長くなりましたが、この「持久力」は、株式投資においても勝利につながる力だと思います。今回ご紹介する『きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ』で解説されている「中期投資」とはまさに、その「持久力」で勝負する投資手法といえるかもしれません。
「中期投資」とは、日々の生活を守りながら行う投資手法
「中期投資」とは、「いかにして損をしないか」を主眼としながら、スローペースで利益を重ねることを狙いとしています。デイトレードのように一日のうちに何度も売買する技法が求められるものとも違うため、日々の仕事を続けながら、日々の生活を守りながら取り組むことのできる投資手法と言えます。
「中期投資は上げ相場だろうと下げ相場だろうと、どんな状況でも縦横無尽に戦える株式投資のノウハウです。この万能細胞のような投資術の正体は、製品市況の動きを通じて現在の景気動向を把握し、それに沿って自由自在に株式投資のポジションを変えてゆくという考え方を採用します。景気動向を把握するとは言うものの、これから起こりうる未来の動きを的確に見通すような天才的な洞察力が求められるというものではありません。(中略)
短期売買ほど短くはなく、かといって長期投資というほど長くもない。数カ月に一回のタイミングで売買をするという意味で「中期投資」と名付けました。(中略)
株式投資は教科書的に語られる「企業の部分所有権を手に入れる行為」ととらえるよりも、企業の発行する株式を売買することを通じて、その背後にある世の中の質的な変化を売買していると理解した方がしっくりきます。中期投資が売買の対象としているものは「世の中」そのものなのです。(「まえがき」より抜粋)
地味なはずの中期投資が「世の中そのものを売買する」とは、スケールが大きすぎるのではないか、世の中の流れを予想することこそ、最も難しいのではないか、上記を読んで、そんなふうに思われた方も多いことでしょう。実はそうでもない、というのです。その答えが、第四章「中期投資を成功させるポイント」に記されています。
中期投資を実践する上で、まず最初に述べておくべきポイントは、株式投資を行う際に将来の見通しを立てる必要はない、という点です。その代わりに、エネルギーの大部分を経済と株価の現状認識に注ぎます。大事なのは将来ではなく現在という考え方です。景気で言えば今は上向きなのか下向きなのか、株価で言えば上昇途中なのか下落の途中なのか。(中略)
将来の世の中を見通して将来を見切るのではなく、ただ現実に起きている世の中の動きを製品市況の動きから類推し把握して、それに自分の運用資金の方向を合わせていくのです。「世の中の好不況を類推する」というところが中核部分です。(中略)
目に見えない景気の動きを、素材産業が供給している製品市況の値動きを使って類推し、そこから好景気・不景気を判断する「目で張る相場」を実践するのです。(第四章「中期投資を成功させるポイント 1 将来の予測は不要」より)
このように解説されると、将来の景気を見通す眼力がなくとも、好不況の判断ができそうな気がしてきます。では、製品市況の値動きから景気の好不況を判断するという「目で張る相場」を実践するには、具体的にどのような観察をしていけばよいのでしょうか? その答えも第四章に記されていました。
景気を知るには…実際に何をどのように観察すればよいのでしょうか。それはそれぞれの市況関連株が供給している製品や原料価格の値動きです。(中略)データ元としては日本経済新聞の商品市況欄が最も便利です。それぞれの市況製品の価格を毎日、あるいは週単位で数値データとして拾い、それを手書きでノートや手帳に記録してゆくのです。鉄鋼なら代表的な建設資材である棒鋼、山形鋼、あるいは自動車や白物家電のボディ材となる冷延鋼板、造船向けの熱延鋼板。非鉄セクターなら基礎的な素材である銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛の市況。化学なら原油価格とナフサ、ポリエチレン、塩化ビニール樹脂など。エレクトロ二クスの業界は半導体のDRAM、フラッシュメモリや液晶パネルの価格、海運業界はタンカー運賃や用船料、バルチックドライ指数などが該当します。これらの数値データを日々書き取って、それに対応する業界の株価の動きと対比させます。すると2つの価格間の連動性や特徴的な動きがいつの間にか自然と身についてゆきます。」(第四章「中期投資を成功させるポイント 2 予測ではなく観察を重視」より)
製品市況の値動きをチェックして、市況関連株の動きを把握
いよいよ具体化してきました。製品市況の値動きをチェックして、それに対応する業界の株価、つまり市況関連株の動きを把握すること。それが中期投資の中核となるわけです。ここで、その市況関連株について今一度、整理しておきたいと思います。同書では「シクリカル株」とも表現されています。
市況関連株=シクリカル株とは実際にどのような銘柄を指すのでしょうか。東京証券取引所は、東証1部に上場する1600社余りの企業を33種類の業種に分類しています。その分類を基準とすれば、素材型産業とは、「化学、鉄鋼、ガラス土石、非鉄金属、繊維、石油石炭、ゴム、鉱業、紙パルプ」の9つの製造業が該当します。そこに「金属製品」の一部と非製造業から「卸売、海運」とを加えて合計12業種がシクリカル株、すなわち市況関連株ということになります。これらが「スローな中期投資」の中核的な投資対象となるのです。(第3章 「何を、いつ買い、いつ売るか 2 市況関連株の『ほぼ50銘柄リスト』」より抜粋)
同書では「スローな中期投資」の主な投資対象銘柄として、日本を代表する市況関連株を「ほぼ50銘柄リスト」としてピックアップしています。
株式アナリスト 鈴木一之氏 (「東京マーケットワイド」(東京MX・三重テレビ・STOVO-TV)キャスター) |
製品市況が下落している時にはいったいどうしたらよいのか?
こうして「中期投資」の中核部分を知れば、株式投資家の方の頭には一つの疑問が浮かんだのではないでしょうか。その疑問とは、「製品市況が上昇しているのを確認し、それに連動する銘柄を見つける方法はわかったけれど、製品市況が下落している時にはいったいどうしたらよいのか?」というものです。その答えもしっかりと記されています。
では、製品市況が下落している状況ではどのように対処すればよいのでしょうか。下げ局面での基本的な対処法としては、(1)一切の株式投資から手を引き、現金保有に徹する、というのが最もオーソドックスな方法です。それに加えて、(2)信用取引で市況関連株をカラ売りする、という方法も考えられます。これらの2つの選択肢に加えて、現物株に投資する方法としては、(3)ディフェンシブ銘柄を買う、という選択肢もあります。ディフェンシブ銘柄とは、景気の悪化に対して「防衛的な」動きをとる一群の銘柄です。どんなに景気が悪化しても、人は食料品や通信費など日々の基本的な支出をまったくゼロにするわけにはいきません。どちらかと言えば、目を見張るような成長もない代わりに、景気の悪化くらいでは大幅な業績の落ち込みもない、非常に安定性の高い企業群です。(第3章 「何を、いつ買い、いつ売るか 7 こんな時はディフェンシブ銘柄を」より抜粋)
同書では、日経平均採用銘柄のなかから、代表的なディフェンシブ銘柄をピックアップしています。投資対象の中核となる銘柄が絞れてきたら、いよいよ投資の実践ということになりますが、当然、そこには勝率を上げるための戦略とルールが存在します。実践編については第2章「投資で大損しないための心得」をじっくりとお読みいただくとして、その心得の基本を、著者である株式アナリストの鈴木一之氏にうかがいました。すると、以下のような意外な答えが返ってきました。
「株式投資で大損しない、そして勝率を上げるための第一歩は、世の中に数多く存在する株式入門書を読まない、ということだと思います。入門書は大勝ちした経験を持つ方が、一度大勝ちしたその経験を綴ったものがほとんどですが、勝率10割なんて株式投資はあり得ません。華やかな勝ち方を永遠に続けることは無理です。成功体験により、多少なりとも自信過剰になった投資家は、勢い余って過剰なレバレッジをかけてしまい、結局、最後はリスクの罠にはまってしまうものです。そもそも株式市場は日常的に上昇と下落を繰り返しています。小さな波が重なって大きな波になり、上昇基調が続くと「強気相場」がやってきます。この大波に乗れれば大きなリターンが得られますが、最初からすぐに大波だと察知することはなかなかできません。始まりはいつも小さな波からやってくるため、一度やってくる大波をとらえるには、常日頃から小さな波を意識、実感しておくことが肝心です。しかも、この小さな波は、長期間に渡る弱気相場においても、常に繰り返している派動のため、そのレンジのなかで株式を売買することが可能となるのです。その小さな波を実感するためには、とにかく価格を追うことが重要なのです」
日常から『構造的な変化』を見つけ出すには?
なるほど。常日頃から製品価格の動きを意識していれば、小さな波のなかで、株式投資でコツコツ稼ぐこともできるというわけです。さらにその小さな波を把握する訓練を積んでいけば、やがてくる大きな波にも早い段階から乗ることができる…。そこまで知ると、投資家としては、その大きな波に確実に乗っておきたいと考えたくなるものです。そのために、さらに加えるべき判断基準はないのでしょうか? 鈴木氏に伺いました。
「中期投資は小さな波、すなわち『循環的な変化』をとらえて株式投資に生かす手法ですが、大きな波、すなわち『構造的な変化』をとらえたものは成長株投資というくくりになると思います。『循環的な変化』は繰り返し訪れますが、『構造的な変化』はテレビの出現やPCの登場など、時代背景を伴った後戻りしない変化であり、繰り返し起こるようなものではありません。ですので、日常から『構造的な変化』を見つけ出すのはなかなか難しいのですが、新聞の中から、官公庁が主語になっている記事をチェックしておくことをおすすめします。日本の場合、法律を作るのは官公庁です。改正薬事法、介護保険制度の制定など、法制度の動きは、根本的な変化をもたらし、いずれは新たな市場を生み出します。それが株式市場でも関連する業種の株価の上昇へとつながるわけです。それらの記事とあわせて、製品市況、素材の需給動向の変化や企業収益、景気動向を伝える記事をスクラップしておけば、景気の波は大方つかめるはずだと思います」
このようにすぐにでも実践できそうな「中期投資」。地味で持久力を必要とする投資術ではありますが、それだけに、「きっちりコツコツ稼ぐ」という結果につながるはずです。しかも、30年近く前線でマーケットを見極めてきた鈴木氏が、さまざまな投資手法を目の当たりにするなかで、たどり着いた説得力のある"珠玉"の技なのです。ぜひ、心あらたまる年初に、お読みいただくことをおすすめします。最後に「スローな中期投資」の基本ルールを以下にまとめておきます。
スローな中期投資とは?
投資期間は最大3カ月
純粋にキャピタルゲイン狙い
投資対象は景気に敏感な市況関連株(景気拡大期)
同じく、ディフェンシブ株(景気後退期)
目標リターンは+20%(原則)
-15%の値下がりでロスカット(必須)
『きっちりコツコツ株で稼ぐ 中期投資のすすめ』
第一章 | 投資ストレスでお疲れのあなたに |
第二章 | 投資で大損しないための心得 |
第三章 | 何を、いつ買い、いつ売るか |
第四章 | 中期投資を成功させるポイント |
第五章 | 成功を呼ぶ「投資手帳」 |
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター、ファィナンシャルプランナー、DC(確定拠出年金)プランナー。 中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、民間放送連盟賞受賞番組のディレクター、記者を担当。独立後はTV、ラジオへの出演、雑誌連載の他、各種経済セミナーのMC・コーディネーター等を務める。現在は株式市況番組のキャスター。その他、映画情報番組にて、数多くの監督やハリウッドスターへのインタビューも担当している。