経済キャスターの鈴木ともみです。連載『経済キャスター・鈴木ともみが惚れた、"珠玉"の一冊』では、私が読んで"これは"と思った、経済・投資・金融に関連する書籍を、著者の方へのインタビューを交えながら、紹介しています。第5回の今回は、岩本秀雄さん監修の『誰かに話したくなる社名の話』(じっぴコンパクト新書)を紹介します。

岩本秀雄さんプロフィール

経済ジャーナリスト、『東京マーケットワイド』(東京MXテレビ・三重テレビ・STOVO-TV)キャスター。30年以上、証券、金融、上場企業に関する取材、報道、証券市場ウォッチャ―として市場の動向を見続ける。日本証券新聞取締役編集局長、立教大学非常勤講師を経て、現在、株式会社ストックボイス副社長。

『誰かに話したくなる社名の話』(じっぴコンパクト新書)(岩本秀雄監修 ストックボイス著(データ・著者写真)定価762円+税)

「J・フロントリテイリング、現在の株価は…」、「MS&ADインシュアランスグループホールディングス、今日の値上がり率は…」と、私たち株式キャスターは、刻一刻と変化する株式市場、株価の動きを東京証券取引所から生放送で実況中継しています。当然のことながら、「株価や社名の間違いは厳禁!」なのですが、上記のような長い社名、カタカナ社名、難しい社名の読み上げに、日々苦労しています。

3,500を超える上場企業ですが、もちろん社名もその数だけ存在します。「社名(銘柄名)を正確に迅速に!」を念頭におきながらお伝えしている中で、時折ふと、「なんでこんな社名になったんだろう?」とか、「これはおもしろい名前だな」などと感じることがあります。

そんなふうになんとなく抱き続けてきた疑問…。きっとそれは、株式キャスターだけでなく、投資家の皆さんや番組の視聴者の方々を始め、多くの人たちが一度は抱いたことのある疑問ではないでしょうか。実は、その疑問に答えてくれている一冊が、私の大先輩でもある経済ジャーナリスト、岩本秀雄氏がまとめた『誰かに話したくなる社名の話』なのです。

「親が子供に名前をつける時と同じように、社名には、創業者の夢と期待と理念が込められているものーー」。東京証券取引所に上場している会社の社長さんが語ってくれました。(中略)ソニーのSONYは、「かわいい坊や」を意味する「SONNY BOY」という言葉が由来、というのは結構有名な話ですが、「Q1=資生堂の「資生」とは何を意味するのか?」「Q2=「ワコール」という言葉はいったい何語か?」「Q3=携帯ゲームのGREEは合唱団のグリークラブとどんな関係があるのか?」など(答えは本文で出てきます)、会社の名前は、創業者の夢や理念など、何らかの事業に対する思いが込められ命名されています。ただし他方では、単純に地名をつけたもの、しゃれや造語でつけられたものなど、案外、気楽な感じでつけられたものも少なくありません。(中略)まずは気軽に読んでいただければ、きっと、営業のネタや飲み会にも使えることと思います。(同書「はじめに」より抜粋)

まずは、今最も勢いがあり、何かと話題を集めているあのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)企業、『DeNA』です。

ディー・エヌ・エー(DeNA)は経営コンサルタントだった南場智子(前社長)さんが1999年に起業した会社です。最初はネットオークションの会社として設立されましたが、2006年に携帯電話専用のゲームサイト「モバゲー」事業を始めて大ヒットしました。登記社名はディー・エヌ・エーですから、欧文表記DNA(遺伝子)だろうと思うのが普通ですが、実際はDeNA。小文字のeが間に挟まっているのがミソなのですが、このeはeコマース(電子取引)のeなのだそうです。「eコマースの新しい遺伝子を世の中に広めていく"DNA"でありたい」というのが同社からのメッセージです。(第一章「mixiの「i」、DeNAの「e」が小文字なワケ」より抜粋)

このように、設立してまもなく成功した新興企業の社名の由来も紹介されています。さらに、重厚長大企業好きな私としては、どうしても由緒正しき企業の"社名のヒミツ"を知りたくなりました。その"ヒミツ"は第二章に記されていました。

三菱グループには、中核28社の社長、会長の会である「三菱金曜会」という集まりがあります。グループ集団の頂点に立つ企業群、だから、社名には「三菱○○」などと三菱の冠が必ずついている…かというと、実は、そうでもないのです。(中略)1907年に設立された旭硝子。これが"三菱硝子”とならなかった背景には、長子継承という岩崎家の家訓があったようです。それまで多くの起業家が取り組んでは失敗してきた板ガラスの国産化という難事業に挑戦したのはロンドン大学で応用化学を修めて帰国したばかりの岩崎俊弥。岩崎家の2代目当主、弥之助の次男でした。岩崎家では長男は家督を継いで三菱会社に入る一方、次男以下は独立するのが決まりごと。次男であった俊弥は新会社設立に際し、三菱の事業とせず、弟、輝弥と過半の資金を出資し、この事業を岩崎家(分家)の事業に位置づけました。技術的にも、資金調達面でも難航が予想された事業であるがゆえに、ここには「失敗して三菱の名を汚すことがあってはならない」と考えた俊弥や父・弥之助の配慮があったのかもしれません。(第二章「三菱グループ企業の社名のヒミツ」より抜粋)

上記のように、『華麗なる一族』的な物語を知ることができるのも同書の特長です。

一方で、第四章「社名に隠されたちょっといい話」では、「兄弟で力を合わせて!」や「恩人の名前を社名に冠す」など、心温まるエピソードが紹介されています。読み始めれば、きっと一気に読み終えてしまうはずです。

「東証アローズ・東京証券取引所か実況中継するマーケット情報番組『東京マーケットワイド』(東京MXテレビ・三重テレビ・STOVO-TV)のキャスターの岩本秀雄氏

ただ、これだけ多様な社名に関するエピソードをまとめ上げるのには、大変苦労したのではないでしょうか。この本を監修した岩本秀雄氏に伺いました。

「これらの社名にまつわる話は、私がこれまで証券市場をウォッチし、数ある社名を眺める中で、とても興味を持ったものばかりを集めました。原稿は、私を始めストックボイスの制作スタッフが分担して執筆しました。社名を眺めれば、それなりの意味が込められていることがわかります。例えば同じ"デンキ"という読み方であっても、「三菱電機」「日本電気」「旧・松下電器産業」など、各々"デンキ"の「キ」の表記が違っています。三菱電機は重電分野の特徴を示した「機械」の「機」。日本電気は通信分野の特徴を示した「気体」の「気」。そして、松下電器は家電製品やオーディオ機器など、器(うつわ)の特徴を示した「器」。社名は、各々の企業が重点を置いている事業の表れでもあるのです。また、社名が変わるときなどは、その会社が何かしら変革する時期だったりもします。それは、合併や経営統合であったり、事業再編であったり…。

松下電器産業から社名変更したパナソニックが良い例です。2010年にグローバル企業を意識した社名に変更したばかりですが、直近では、半導体事業の縮小や人員削減など、赤字決算のもと、大きな構造改革を進めています。株価は先んじてこの流れを見通していたかのような動きを見せていました。高度経済成長期の日本経済を支え、経営の神様と言われた"松下幸之助"の名前を社名から外した直後の構造改革…。世界を意識し新たな社名で挑むパナソニックが、今後どのような歴史を刻んでいくのか、ひき続き興味深く見ていきたいと思います」

社名のナゾに迫ることで、それぞれの会社の歴史や社風、さらには、日本経済の変遷や世相も見えてくる。気軽に読みながらもマジメにいろいろ学べる、使い勝手抜群の一冊です!

『誰かに話したくなる社名の話』

内容
はじめに -
第一章 若い企業の、変わった社名たち
第二章 由緒正しき社名たち
第三章 社名には創業者の思い入れが込められている
第四章 社名に隠されたちょっといい話
第五章 日本人はフジが好き

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター、ファィナンシャルプランナー、DC(確定拠出年金)プランナー。 中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、民間放送連盟賞受賞番組のディレクター、記者を担当。独立後はTV、ラジオへの出演、雑誌連載の他、各種経済セミナーのMC・コーディネーター等を務める。現在は株式市況番組のキャスター。その他、映画情報番組のパーソナリティとして、数多くの監督やハリウッドスターへのインタビューも担当している。