経済キャスターの鈴木ともみです。今回は、連載コラム『経済キャスター・鈴木ともみが惚れた珠玉の一冊』夏の特別企画・スペシャル対談の第一弾の後編です。対談のゲストは『カリスマ出口汪の人生を変える! 最強の「話し方」塾』の著者・予備校講師の出口汪さんです。仕事ができる人、魅力のある人は、やはりそれなりの「話し方」が身についているものです。話し方一つで人の印象は大きく変わります。人を説得する、人を引きつける、人から好印象を持たれる「ワンランク上の話し方」とは…? 今回も前編に続きビジネスパーソンの皆さんに向けて「話術の極意」をお伝えしたいと思います。
出口 汪(でぐち ひろし)さんプロフィール
1955年東京都生まれ。関西学院大学大学院修士課程修了。専門は日本の近代文学。東進衛星予備校講師。出版社(株)水王舎代表。大学受験の現代文トップ講師として20年以上にわたり活躍する「現代文のカリスマ」。そのスタイルは「センス」「感覚」の科目と言われてきた国語・現代文への認識を一変させ、受験現代文の世界に革命をもたらしたと言われる。2002年、自らの経験の集大成として、筋道を立てて考えさせる論理力・言語能力育成システム『論理エンジン』を開発。現在、全国250校以上の公立・私立学校で正式採用されている。また、講演や執筆活動など様々な教育活動にも取り組み、受験生のみならずビジネスパーソンの間でも絶大な人気を得ている。出口王仁三郎を曽祖父に持つ。主な著書に『出口の現代文レベル別問題集』(東進ブックス)『出口汪の新日本語トレーニング』(小学館)の他、小説『水月』(講談社)など多数。累計部数は600万部を超える。オフィシャルサイト http://www.deguchi-hiroshi.com/
鈴木 : 上手な話し方の第一歩は、他者意識を持つこと、そして論理的に話すこと。読者の皆さんもだいぶ整理できたかと思います。では、逆に他者意識を持たない「迷惑な話し方」というのは具体的にどのような話し方を指すのでしょうか?
出口 : 例えば、前置きが長い話し方などです。本人にしてみれば、丁寧な話し方をしているつもりかもしれませんが、聞いている人にとっては、これほど迷惑な話し方はありません。もし、それが会議の場であるならば、長々と前置きしている人は、そこに出席している人全員の時間の合計を無駄にしていることになります。前置きは短くするべきです。
また、頭に浮かぶ順序で話す人も迷惑な話し方の典型です。聞いている人は、話し手が何を話すのか、全く見当がつかなくなります。しかも、言葉は発せられたらすぐに、次々と消えていきます。相手(聞き手)が他者であるという意識を持って論理の順序で組み立てて話すことを心がけるべきです。
(『カリスマ出口汪の人生を変える! 最強の「話し方」塾』第二章「なぜ人はあなたの話を聞いてくれないのか?-人と話す前の心構え ~相手の頭を聞くモードに変える「出だし」の重要性~」より抜粋)
相手が他者であるという意識を持ったならば、話題を最初に提示すべきです。相手はあなたが何について話をしようとしているのか、最初の時点では全く分かりません。そこで、頭があなたの話に備える態勢になっていないのです。あなたは、自分が何を話そうとしているのか、当然分かっているはずです。だから、あなたはそれについて思ったことをぺらぺら話し出すかもしれません。話し言葉は書き言葉と異なり、口に出た瞬間から次々と消えていくものです。相手がいったい何の話をしているのだろうと、あれこれ思いを巡らしている間に、あなたの言葉はどんどん宙に消えていきます。(中略)『○○の話だよ』『○○はね』と、最初に話題を提示するのは、相手の立場に立って話をするために必要なことです。聞き手にとっては、「○○についての話なんだ」とはじめに心構えができ、話の全体像が見えやすくなります。(中略)話し方を上達させることは決して難しくありません。ちょっとした工夫で、あなたの話し方はどんどん変わっていきます。そのためには、きっかけが何より大事なのです。
鈴木 : 「出だしが重要」というのはとてもよく理解できます。私も日本FP(ファイナンシャルプランナー)協会の認定講座『FP会話塾』で、「出だし=頭サビ」の重要性について解説しています。話し方においては『結・起・承・転』の順序が大切だと。文章の世界では、『起承転結』が基本とされていますが、話し言葉で伝える際には『結』をまず最初に持ってくることが肝心なのだと思います。そして『結』の後に『起承転』、場合によっては『結・起承転・結』。こう解説すると、受講生の皆さんも納得して下さいます。
出口 : それはわかりやすい表現ですね。確かに『結』を出だしに持ってくるというのは大切ですね。話の順序や組み立て方が上手になれば、自然と伝わりやすい話し方になっていくはずです。そこがクリア―できたならば、次は話のネタや内容です。私が予備校講師として数多くの講義を成立させることができたのは、さまざまな話(ネタ)のストックをためることができたからです。ストックが自分の中で蓄積されると、このストックを話せば上手くいくという自信も出て、堂々と落ち着いて話をすることができます。ぜひ、ストックノ―トを一冊持つことをおすすめします。そして、話のネタ=ストックは、三回話すと良いと思います。
(『カリスマ出口汪の人生を変える! 最強の「話し方」塾』第三章「相手の心をつかむ11の基本テクニック-出だし、声、表情の使い方 ~同じ話は三回せよ~」より抜粋)
大手予備校で講義していたとき、同じテキストで、同じ講義を週に四、五回繰り返すことが多かったのです。自分の中で一番納得のいく話し方ができたのは、実は大抵三回目の講義だったと記憶しています。一回目は初めてのネタなので、手探りで講義します。こちらも自信満々というわけにはいかず、時には失敗をすることもあるので、どうしても完成度の低い講義になってしまいがちです。二回目はいったん講義したものだから、講義全体を把握しながら、話を始めることができます。一回目で満足できなかった点も修正しながら、自信を持って教壇に立つこともできました。そして、三回目。テキストを見ないでも、ある程度すらすらと喋ることができるようになっていますし、さらに新しいアイディアを盛り込むこともできます。大抵は、この三回目が一番出来がいいのです。四回目、五回目となると、新鮮みが薄れ、マンネリ化し、かえって思わぬところで失敗したりします。このことから、話のネタ=ストックは、何度か人に話すことで消化され、自分のものとなることが分かります。そのとき、自分の言葉で、自分に最もふさわしい表現を獲得することができます。そういったストックを一つ一つ蓄えていきましょう。
鈴木 : 数多くのストックを持つことで自信にもつながり、人前で話すときもあがらないようになってくるのでしょう。出口先生はめったにあがることなんてないのでしょうね。
なるべく人前で発言したり話したりする機会を増やすこと
出口 : 今となっては、人前で話すことであがることはなくなりましたが、もともとは私自身もあがり性だったのです。人前に出るとしどろもどろになりました。
鈴木 : それは意外です。どのようにして克服されたのですか?
出口 : やはり経験値を上げることが大切です。プロの話し手でない限り、人前で話すときに緊張しない人なんてなかなかいません。あがるのは、(1)自信がない、(2)経験不足、のどちらかが原因です。
鈴木 : 私も自分の講義の中で、あがる原因は三つあると説明しています。(1)結果に対するあがり(準備不足のため自信がない)、(2)状況に対するあがり(人前で話すことの経験が少なくて不安)、そして(3)は、(1)(2)が混在するあがり。やはり経験を積むことが大切ですよね。
出口 : なるべく人前で発言したり話したりする機会を増やすこと。経験の量が満たせない場合は、質を高めることが必要です。だからこそ、打ち合せや会議の場では積極的に発言するように努めましょう。
(『カリスマ出口汪の人生を変える!最強の「話し方」塾』第四章「苦手な場面も大丈夫! 相手の反応がおもしろくなる-場の空気をコントロールする技術 ~発言の場を積極的に求める~」より抜粋)
打ち合せや会議にただ黙って参加するだけの人と、必ず発言すると心に決め、そのために念入りに準備する人とでは、ビジネスマンでもおそらく決定的に異なる人生を送ります。毎回発言する人は、たとえその発言がみんなに受け入れられなくても、そのたびに貴重な体験を積み重ねているのです。十分準備をしているので、相手の発言もよく理解できるし、徐々に上手に話ができるようになるにつれ、自信もついてきます。なぜなら、あがらないコツは、経験量がものをいうのですから。
鈴木 : お話をうかがっていると、「話し方のプロ」である出口先生も、もともとはあがり性で、他者意識に欠けた「迷惑な話し方」をされていたのだなぁと、ある意味ホッとします(笑)。そうしたなかで「論理」が後天的に身につくものなのだということも、出口先生ご自身が実感されてきたわけですよね。
「論理的な話し方」は、もともとの頭の良さとは関係なく、後から習得できる技術
出口 : そうなのです。「論理」というのは言葉の使い方の技術であり、「論理的な話し方」というのは、もともとの頭の良さとは関係なく、後から習得できる技術なのです。だからこそ、あらゆる人が身につけることができる武器になるわけです。ぜひ、その努力を惜しまないでほしいと思います。
鈴木 : 努力という点では、出口先生もかなり一心不乱に邁進された時期があったのですか?
出口 : 私の場合は、予備校講師になって2、3年目の頃だったと思います。まさに死に物狂いの時期でした。
(『カリスマ出口汪の人生を変える!最強の「話し方」塾』プロローグ「話下手だった私がなぜカリスマと呼ばれるようになったのか ~一生に一度死にものぐるいの時がある~」より抜粋)
成功者の多くは人生の若いときに死にものぐるいの努力をした時期があるのではないでしょうか? 私の場合は大手予備校で教壇に立った最初のニ、三年でした。九十分間、大教室でマイクを持って講義するのですが、高校の授業と異なり、問題文を読ませたり、作業させたり、質疑応答をしたりということができません。まさに九十分たった一人で喋り続けるのです。一日にそうした講義を四回から五回、つまり六時間から七時間半一方的に喋ります。おそらくこれほど一日に多く喋る職業はないのではないでしょうか? しかも、二十分の休み時間も生徒が質問で行列をつくっています。この時間が合計で六十分から八十分プラスされます。特につらいのがずっと立ちっぱなしであること。私は一年間で腰を痛め、いまだにそのときに患った腰痛は完治していません。さらに、一週間のうちに、東京・京都・大阪・岡山・広島と、毎日移動します。新幹線の移動中、そして夜中に教材研究。ベテランになると、毎年数冊のテキストで各校舎をまわるのですが、まだ新人の私は初めて見るテキストばかり。一週間に十種類以上のテキストをこなさなければなりません。その結果、毎日新しい入試問題を解き続けました。しかも、ミスは絶対に許されない。そんなわけで、寝る暇もないような忙しさだったのです。人気講師は否応なく生徒の動員力を競わされます。疲れているなどといった言い訳は全く通用しません。生徒の支持を受けることができなかったら、淘汰されるだけなのです。思えば、あの頃の死にものぐるいの時期があったからこそ、今の私があるのだと思います。そして、その中で私の頭脳はいつの間にか論理という武器を獲得していったのです。
鈴木 : 他者を意識した「論理的な話し方」を身につける訓練というのは、今から始めても遅くないわけですよね。
出口 : はい。後天的な技術なのですから。ですので、ビジネスパーソン(特に若い方々)にはその訓練を積んでもらいたいと思います。私たちは死ぬまで生涯会話をし続けます。無自覚なうちにしているかもしれない「迷惑な話し方」を少し見直してみてはいかがでしょうか?ちょっとした工夫、ほんの少し会話に論理という技術を持ち込むだけで、仕事の進み方も、人生の方向性もきっと大きく変貌するはすです。
鈴木 : 感情語ではなく、互いに論理語で話すようになれば、会話のキャッチボールもスムーズになり、有意義な会話の時間が増えるのだと思います。と同時に、表層的な会話が減り、互いの理解度が高まって、真の人間関係が築きやすくなるのかもしれませんね。私も、日常から「論理的な話し方」を意識して過ごしたいと思います。
出口 : ただ、時には親しい人との間での「感情語」や「愛撫語」も必要だと思いますよ!
鈴木 : そうですね(笑)。上手にオン、オフと、言葉をコントロールしていければ会話そのものを楽しめるようになりますね。出口先生、今回は実践的なお話をありがとうございました!
出口 : ありがとうございました。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター、ファィナンシャルプランナー、DC(確定拠出年金)プランナー。中央大学経済学部国際経済学科卒業後、ラジオNIKKEIに入社し、民間放送連盟賞受賞番組のディレクター、記者を担当。独立後はTV、ラジオへの出演、雑誌連載の他、各種経済セミナーのMC・コーディネーター等を務める。現在は株式市況番組のキャスター。その他、映画情報番組にて、数多くの監督やハリウッドスターへのインタビューも担当している。日本FP(ファイナンシャルプランナー)協会認定講座『FP会話塾 ~好感度をアップさせる伝え方~』講師。