結婚生活の中で、会話の行き違いは避けられないもの。例えば、衣類を洗濯機に入れてくれるのは有難いけれど、靴下やシャツが裏返ったまま。「伝えたのに伝わらないなぁ‥…」と思うことはありませんか。

特に「妻から夫へ」何かを伝えたときに、そう感じる人は多いのかもしれません。ただ、それはあることを理解することで軽減できるかも……? ここではパートナーに対する伝わりやすい「伝え方」について、言語学者である堀田秀吾氏に教えていただきます。

■男性と女性では脳の仕組みが異なる

はじめに脳科学の観点においてさまざまな意見はありますが、脳には男女差があるという考えを私は持っています。

私たちホモ・サピエンス(現生人類)が地球上に誕生してから20万年。旧石器時代から時は流れ、人間を取り巻く環境は恐ろしいほどの速度で変化し続けていますが、人間の体はさほど進化をしていません。つまり、環境の変化するスピードに人間の脳や体はついていけていないのです。

かつて、女性は子孫を残すための活動を、男性は狩りをしていました。子孫を残すにはものごとへの多様な配慮が必要ですから、女性の脳活動は活発に。そのため、女性の方が右脳の脳梁が太く、同時に多くのことを脳が処理できるとされています。脳の構造的に全体を見ることができる女性は、ちょっとした変化や違和感にも気づけるのです。

一方で、狩りをしていた男性は目的志向。例えば、「ゴミ出し」というと、女性はゴミ出しに関わるすべての作業を思い浮かべるのですが、男性は"ゴミ袋を所定の場所に出す"という動作のみを思い浮かべるケースが多いのです。このように全体像ではなく、言葉が示す目的のみを想像してしまうのが"男性脳"の特徴と言ってもいいかもしれません。

ほかにも、男性と女性ではこんな会話の違いも……。

夫婦のどちらかが「コーヒーをいれるけど、あなたも飲む?」と尋ねたとします。いらない場合、男性は「いらない」と一言で終わることがありますが、女性は「今は大丈夫、ありがとう」と感謝を伝えるまでがワンセットと考える傾向に。

もちろん、感謝まで伝えるワンセットの会話をする男性もいますが、日常的に関係性を重視する女性と目的志向の男性とでは、コミュニケーションの取り方が異なるのです。ですので、男女で脳の仕組みが異なるということを理解した上で、コミュニケーションをとることが大切です。

■言葉で伝わるのはわずか7%!?

さらに、カリフォルニア大学の心理学者メラビアンの研究によると、言葉から得られる情報は全体のわずか7%。それ以外は視覚や聴覚など言語以外の感覚から情報は得られるという研究があるように、言語だけですべてを伝えることは非常に難しいのです。

貼り紙など視覚的情報や身振り・手振りなども駆使しつつ、意図を伝えることで会話の行き違いを改善できるでしょう。

■「バイアス」は十人十色! とらえ方が違うことを認識しよう

たとえ愛し合い、結婚した夫婦でも育った環境が違えば、「見えている世界」が異なるのは当然のこと。

人は物事を認識するときに必ず、偏った見方をする「バイアス」がかかっています。いわゆる「色眼鏡」。この色眼鏡は人によってかけているものが違うということを理解しておくのが大切です。

例えば「家」という言葉ひとつとっても、そこから連想するイメージは育った環境によって異なります。幼いころから賃貸で暮らしてきたなら「マンション」や「アパート」を、旧家に育った人なら「建物」としての家ではなく「家系」を連想するかもしれません。

夫婦でも育った環境やバックグラウンドが異なるからこそ、物事のとらえ方だってそれぞれ。結婚したからといって、そのバイアスが一緒になることはないのです。

■あなたはできている? 伝わりやすい会話の4原則

大前提、人は物事を認識する際にバイアスがかかっていることをお伝えしました。そこで、ここからかは伝わりやすい会話方法についてみていきましょう。

言語学者グライスは、会話において効果的な伝達をするための原理を「協調の原理」とし、そこに必要な4原則「量・質・関連性・様態」を次のようにまとめています。

・量の公理……情報量は多すぎず少なすぎず、相手が求めることを過不足なく伝える
・質の公理……うそや確証がないことは言わない
・関連性の公理……テーマと関係ないことは話さない
・様態の公理……あいまいな表現を避け、はっきり簡潔に順序立てて話すこと

基本的に、人はこのようなコミュニケーションの4原則にのっとって会話をしています。夫婦の会話においても同様で、質問に対して相手がしゃべり過ぎても、返答が少なすぎてもストレスになってしまうのです。

また、たいした内容でもないのに小声で耳打ちをされたら、相手は何か重大な内緒話を聞いているような気持ちになり、違和感を覚えることも。だからこそ、夫婦の会話でも「伝わらない」と感じたならば、「協調の原理」に基づいて話すとよいでしょう。

■もちろん気遣いも忘れずに

ただ、コミュニケーションの上で大切なのは相手への思いやり。長く付き合う夫婦だからこそ気を使うべきなのです。

パートナーが冷たい態度を取っていたとしても、「会社で嫌なことがあったのかな」「忙しくてほかのことに気が回らないのかな」と思いやってあげることは大切です。

人間は楽をしたい生き物ですから、ついつい怠りがちになりますが気遣いがあることで関係性はだいぶ良くなるはずですよ。


ぜひ、みなさんも思いやりを大前提に、パートナーへの伝え方を考えてみてはいかがでしょうか。