営業最高速度300km/hを誇ったJR西日本の新幹線車両500系が「のぞみ」から撤退して、今年で早9年。現在の500系は8両編成に短縮され、山陽新幹線「こだま」を中心に運用される。先日、三原~新下関間で500系「こだま」に乗車することができた。
500系は山陽新幹線の速達化をめざし、1996(平成8)年から製造。従来の新幹線とは大きく異なる流線形の先頭形状などが大いに話題となり、20年以上経った今日でもファンの人気は根強い。1997年3月、山陽新幹線「のぞみ」でデビュー。営業最高速度300km/hを誇り、国内最速の列車となった。同年11月から東海道新幹線での運用も始まった。
しかし、500系の全盛期は思いのほか短かった。製造コストの高さ、車内空間の狭さなどが災いし、2010年2月までに「のぞみ」での運用から撤退。現在は8両編成に短縮され、山陽新幹線「こだま」や博多南線の列車で活躍している。8両編成の500系のうち、1編成(V2編成)は2015年から「500 TYPE EVA」、2018年から「ハローキティ新幹線」にリニューアルされ、一部の日を除き「こだま730・741号」(新大阪~博多間)の運用に就いている。
■意外なところで古さを感じる500系「こだま」
筆者が乗車した列車は下り「こだま755号」。自由席の3号車を利用した。車内の座席は横5列(2列+3列)となっており、1997年のデビューからほとんど変わっていない。青色基調の座席が多い昨今の東海道・山陽新幹線にあって、500系の紫色基調の座席はいまだ新鮮そのもの。デビューから20年以上が経過しているものの、陳腐化はそれほど進んでいないように感じられる。
500系の最大の特徴は丸みを帯びた車体だ。車内においても、窓側の座席に座ると独特の丸みを感じる。一般の利用者にとって、500系の車内は「狭い」と言われているようだが、中間車に限って言えば、筆者自身はデビュー当初から窮屈な印象は受けていない。
ただし、トイレに関しては20年の歳月を感じさせる場所となっている。500系では車いす対応の多機能トイレとは別に、洋式トイレ、和式トイレ、男性用小トイレがある。JR西日本は昨年3月、山陽新幹線700系8両編成の車内トイレを洋式化すると発表した。N700系・N700Aの車内トイレはすべて洋式化されていることから、500系はJR西日本所属の新幹線車両で唯一、和式トイレを装備する形式ということになる。500系の一般洋式トイレは丸みを帯びた車体のせいもあり、狭い。便座に座ると、足を伸ばすことは難しい。
■500系にも「Shinkansen Free Wi-Fi」搭載
一方、時代の要請に合わせて始まったのが新幹線車内無料Wi-Fiサービス「Shinkansen Free Wi-Fi」。2018年7月から順次導入され、2020年3月までに東海道・山陽・九州新幹線の全車両で利用できるようになるという。
今回乗車した500系は「Shinkansen Free Wi-Fi」対応車両だったので、早速試してみた。利用にあたり、ネットワーク一覧からSSID「Shinkansen_Free_Wi-Fi」を選択し、利用規約を最後までスクロールした後、メールアドレスでの登録、またはSNSアカウントによる認証を行う。メールアドレスで登録した場合、仮登録完了の後に届くメールから本登録を行う必要がある。1回の接続時間は30分とのこと。
「Shinkansen Free Wi-Fi」は携帯電話の電波を使用して提供している。山陽新幹線の場合、スマートフォンでインターネットを楽しむ分には何の問題もなく使えるようだった。ただし、実際に試した人から聞いた話だと、山陽新幹線はトンネルが連続することもあってか、パソコンでのインターネット接続はほぼつながらなかったらしい。なお、スマートフォン・パソコン問わず30分ごとに接続を更新する必要があるため、少々煩わしい。
いずれにせよ、洋式一般トイレの狭さを感じた後にWi-Fiサービスを利用したことで、古さと新しさが共存する500系の現在の姿を知ることができた。
■三原~広島間では高校生の利用も
今回の乗車で感じた山陽新幹線「こだま」の利用状況についても触れておきたい。三原駅から「こだま755号」に乗り、19時57分に発車したが、この時点で座席の埋まり具合は全体の3割ほど。女性客が目立ち、女子高生2人組も乗車していた。次の東広島駅では、若い中国人団体客が乗り込んできた。
三原~広島間といえば、昨年発生した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の影響により、在来線の山陽本線が長期間にわたり運転見合わせとなった。復旧までの期間、山陽新幹線による代替輸送も行われ、普段見られないような混雑になったとも聞く。復旧後の現在も、山陽本線・呉線の一部区間で徐行運転が行われ、通常ダイヤとは異なる時刻での運転となっている。徐行運転はダイヤ改正前日の3月15日をもって終了する予定だという。
山陽本線の普通列車を利用した場合、三原駅から広島駅まで80分以上かかり、運賃は1,320円。一方、今回乗車した「こだま755号」は両駅間を22分で結ぶ。山陽新幹線三原~広島間では割安な自由席特急料金(特定特急料金)が設定されているため、同区間の運賃・自由席特急料金は計2,290円となる。新幹線と在来線の料金差が1,000円以下、しかも約1時間早く広島駅に着くとなれば、高校生をはじめ幅広い層が新幹線を利用することも納得がいく。
「こだま755号」は20時19分に広島駅に到着。ここで女子高生2人組も含む大半の乗客が下車した。入れ替わるように中高年の女性グループ客が乗り込み、車内はにわかに活気づく。広島駅では30分近く停車し、その間に博多行「のぞみ」や九州新幹線へ直通する「みずほ」「さくら」に追い抜かれる。
20時47分に広島駅を出発したとき、車内の座席は6割ほど埋まっていたが、車内の活気もつかの間、山口県の主要駅である徳山駅や新山口駅で大半の乗客が降りて行った。列車の性格上、やはり「のぞみ」など速達列車から乗り継いでの利用や、沿線地域間の移動など短距離の利用が多い様子だった。
空席が目立つ中、「こだま755号」は22時すぎ、新下関駅に到着。数人のサラリーマンとともにホームへ降り、下関行の普通列車に乗るため、山陽本線下りホームへ急いだ。
鉄道ファンを中心に根強い人気のある500系だが、デビューからすでに20年以上、「のぞみ」の運用を終えてからも9年近く経過している。「500 TYPE EVA」や「ハローキティ新幹線」で話題を提供しているものの、長距離を走る新幹線は車両置換えのスパンも短いだけに、500系がどれだけ長く活躍できるか、今後の動向から目が離せない。