グローバル人事塾がさきごろ、人事担当者向けに採用をテーマにしたイベントを開催。国内大手企業の採用責任者4名が登壇し、自社の採用の取り組みと採用の未来について解説した。

全4回連載の最後となる今回は、ヤフーの人材戦略を紹介したい。

ヤフーの採用戦略

登壇したのはヤフー ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部長 斎藤由希子氏だ。

  • ヤフー ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部 本部長 斎藤由希子氏

創業から20年と少し、ヤフーは100以上のサービスを展開し、日本人の約2人に1人が利用しているという巨大企業。そのビジョンは「UPDATE JAPAN」である。

「データとテクノロジーでお客さまの期待値を超える」ためにテクノロジーをさらに強化し、インターネット企業からデータドリブン企業へと変貌を遂げている最中だという。

斎藤氏:現在エンジニアリング力の強化に力を入れており、年間でエンジニアを500名、エンジニア以外も含めると700名の採用を、ここ数年間行っています。採用が企業の成長ドライバーという認識で、経営課題として全社を巻き込んで活動しているのです。

斎藤氏が採用活動に力を入れる中、いくつかの課題に直面したそうだ。

・採用部門との距離感(現場では採用業務の優先順位が低い)
・母集団形成の苦戦
・大企業というイメージから、リアルな業務内容が伝わらない
・より魅力的な制度・環境整備

これらの課題を解決するため採用活動をプロセス分解し、それぞれで必要な打ち手を用意したという。

強力な採用推進体制

斎藤氏によると、現在、エンジニアの求人倍率はWeb系では約7倍といわれている。この状況で500名の採用をするには、普通の方法では難しいと判断したそうだ。

そのため、通常はコーポレート部門に所属する採用部門を、CTO(最高技術責任者)直下にして、採用だけでなく、配置、育成、人事制度企画も行える一気通貫の組織に変えたのだ。
※2018年4月には再度コーポレート部門に採用部門は移管

斎藤氏:採用する社員の半分以上がエンジニアです。エンジニアと人事を同じ組織にすることで、「人事だからエンジニアはわからない」とか「エンジニアだから人事はわからない」という意識を無くしたかったのです。

この結果、採用部門は、人事、エンジニア、マーケティング、営業が混在するチームとなり、技術ブランディングから、制度設計など魅力的な環境を整えることが可能になったそうだ。

採用対象の再定義

母集団の課題である、質・量の向上を目指すため、まずは採用対象の定義を見直すことになったという。

斎藤氏:新卒の一括採用を取りやめ、通年採用に思い切って変えました。ただ育成や配属に伴うコストを勘案し、入社時期は4月、10月の2回にしました。またキャリア採用については、欲しい人材が常に転職市場にいる訳ではないので、潜在層の掘り起こしを狙いとしたダイレクトリクルーティングも実施しています。また東京だけでは質も量も足りないので、大阪や福岡など地方採用も全体の1~2割程度で行っています。

採用人数が多い大企業が新卒一括採用を廃止するのは勇気が必要だろう。実際、斎藤氏も思い切った決断だったと振り返る。しかし、国内だけでなく国外でもビジネスを行う関係上、通年採用へシフトするのは必然だろう。

採用選考基準のデータ化

優秀な人材をポテンシャル採用する場合、能力を可視化する必要がある。ヤフーはHRテクノロジーが定量化に寄与できると判断し、導入の結果、新卒採用における書類選考の時間を75%も削減することができたそうだ。

斎藤氏:定量化と同時に標準化にも取り組みました。オンライン面接を行い、複数の面接官の視点を入れ、人による採用基準のブレを解消しています。そして、面接官の評価コメント分析と、面接時の点数や選考通過率の計測を繰り返すことで、採用基準をアップデートしています。また、半期に一度はデータサイエンティストも交え、基準のチューニングを行っています。

斎藤氏が強調したのは、デジタル化による業務効率化だけでなく、一人ひとりと会うべき時間も大切にするアナログ手法も用いてることだ。

斎藤氏:数千人規模の会社では、採用担当者がジョブローテーションで変わることもあります。その場合でも、採用力を落とさないよう、リクルーターの育成に力を注いでいます。実績あるプロリクルーターの「個人知」を、若手リクルーターも共有する「集合知」へ変える試みは日々行っています。

魅力的な制度の拡充

ヤフーでは「あの会社にいけば成長できる」という情報を発信できるよう、環境整備に注力しているそうだ。

斎藤氏:クリエイター活動支援制度として「My Polaris」を用意しています。この制度では、1人に月1万円を上限に、書籍や端末の購入、勉強会への参加など使い道を制限せず、「エンジニアとしても、職業人としても成長できる」と情報発信できるようにしています。

こうした情報をオウンドメディア、自社開催のテックカンファレンスなどと組み合わせ、採用したい対象に、情報を定量的に届けることが大切だと斎藤氏は話す。

ヤフーの働き方改革

最後に斎藤氏が紹介したのは、働き方のアップデート。

斎藤氏:1年半前から働き方についても、アップデートを行っています。働き方改革というと、残業削減など方法論に終始するケースが多いですが、ヤフーは「働くことに求めるものが変化してきた」と捉えています。

  • 働くことに求めることが変化

幸せになるため働く人が増えると、人事制度の根幹も変わる必要があるとし、設立20周年の2016年に「会社は利益を求めるだけでよいのか」という原点に立ち返ったそうだ。

社員が幸せで、働く喜びがあるからこそ、会社は利益があがる。
利益があがるから、社員も幸せだ。

この二つが循環することに意味があると結論づけたそうだ。

そして人事制度のコアバリューを、「社員が安全に安心して、才能と情熱を解き放ち、世の中に貢献ができる会社になること」とし各種制度を整えたという。

採用の未来

世の中が変化し、労働力の確保は非常に難しくなっている。だからこそ、「この会社で働きたい」と選んでもらうことが重要になっていると斎藤氏はいう。

斎藤氏:現在の採用は、必要なポジションができた際に採用活動を行い、人材を確保する考え方です。これからは、数年先に必要なポジションを事前に予測し、採用活動を行う時には、プールした候補者母集団から声をかけるようになると思います。社員の成長が企業の成長につながる。人材育成と業務で結果を出すことがリンクする。そうした環境がより一層求められるでしょう。


こうして採用に先進的な企業担当者による講演が終了した。何のために採用するのか。採用担当者に限らず、組織へ採用の重要性を浸透させた事例を通し、参加者は刺激を受けたようだ。

なお、講演後に行われた登壇者と参加者の交流会でも、質問や相談が絶えなかったそうだ。