先日発表された「南武線にE233系投入」のニュースは、昔から南武線を知る筆者にとっても、大きな驚きでした。来年度から35編成(210両)を新造するそうで、これだけ大量の新車が投入されるのは、「南武線最大の珍事」と言っても過言ではないかもしれません。今回はそんな南武線の旧型国電を取り上げたいと思います。

出区前に101系と並ぶ「73形サヨナラ列車」

1978年7月31日、南武線では、「73形サヨナラ列車」が運行されました。そのときの走行音を録音したカセットテープが、なんと! 最近になってたまたま出てきたのです。「南武線『73形サヨナラ列車』走行音」にて、当時のサウンドを聞くことができます。

ここに収録されているのは、「73形サヨナラ列車」の最終区間となった、武蔵小杉駅から武蔵中原駅までの走行音。やや絶叫調の武蔵小杉駅ホームのアナウンス、そして武蔵中原駅に到着する前の車掌アナウンスが泣かせます。当時、ラジカセに外部マイクを接続し、あえて中間車代用のクハ79で録音を行っていました。

当日は鉄道ファンのみならず、一般の人もサヨナラ列車を見届けた

サヨナラ列車の車内では、スピーカーにテレコやマイクを向けるファンの姿も

当時、国鉄南武線の「顔」だった73形(72系電車)は、1964年から活躍を始め、ピーク時には約150両が中原電車区に配置されました。南武線はその後、「首都圏最後の73形の牙城」と化していましたが、いまから35年前の1978年7月で全車が引退。南武線川崎~立川間の新性能化が完了しました。

南武線の73形は約14年間の活躍で、全走行距離は約300万kmに達したそうです。サヨナラ列車が運転された1978年7月31日は、多くの鉄道ファンが詰めかけたのはもちろんのこと、沿線の一般利用者もサヨナラ列車を見送っていました。

サヨナラ列車を前に、多数のファンがカメラを向けた

中原電車区に寄った帰り道、夕日に輝くレールの向こうに見えた留置中の73形

懐かしのサウンドをもうひとつ紹介しましょう。1976年12月5日、南武線立川行の先頭車クモハ73518にて録音した、「南武線73形走行音 南多摩~府中本町」です。

電車は加速し続け、フルノッチで多摩川の橋りょうへ。ノッチオフは橋りょうを渡りきる寸前という圧巻の走り。出自は63形という73形500番代の激走モーター音が聞けます。ただし、橋りょうに進入するとモーター音が下に抜けるため、音が低くなっています。

多摩川橋梁を渡る川崎行6連

桜咲くホームをあとにする川崎行6連

63形を出自とするクモハ73504。南武線の「顔」ともいえる近代化改造独特の前面

冬の早朝、出発を待つクモハ73138

武蔵溝ノ口駅に到着した川崎行6連

勾配を下り、終点の川崎駅をめざす

クモハ73形500番台が先頭の立川行4連

今回、カセットテープに録音された走行音を聞きながら思い出したもの。それは、ブレーキをかけて駅に到着すると、キラキラとあたりを飛び交っていた鉄粉です。鋳鉄のブレーキシューから出た鉄粉(金属粉)が、光線の加減でキラキラと輝いて見えるのです。できることなら、もう一度あの「キラキラ」を見てみたい、そう思いつつ、実際にはこの「キラキラ」が原因で、駅構内の線路は錆びて赤茶けてしまっていたのでした……。

「鉄道懐古写真」撮影時期と撮影場所

  撮影時期 撮影場所
写真1 1978年7月31日 南武線 中原電車区
写真2 川崎駅
写真3 サヨナラ列車の車内にて
写真4 南武線 中原電車区
写真5 1978年7月 南武線 武蔵中原駅
写真6 1978年7月9日 南武線 南多摩~府中本町間
写真7 1978年4月9日 南武線 稲田堤駅
写真8 1974年12月 南武線 武蔵小杉駅
写真9 1976年12月 南武線 川崎駅
写真10 1978年1月 南武線 武蔵溝ノ口駅
写真11 1977年3月 南武線 尻手駅
写真12 1977年11月 南武線 中原電車区脇
※写真は当時の許可を取って撮影されたものです
松尾かずと
1962年東京都生まれ。
1985年大学卒業後、映像関連の仕事に就き現在に至る。東急目蒲線(現在の目黒線)沿線で生まれ育つ。当時走っていた緑色の旧型電車に興味を持ったのが、鉄道趣味の始まり。その後、旧型つながりで、旧型国電や旧型電機を追う"撮り鉄"に。とくに73形が大好きで、南武線や鶴見線の撮影に足しげく通った