大学でまちづくりや設計を学び、ワンストップリノベーションサービス「リノベる。」で累計約700組の住まいづくりに寄り添ってきた小野寺七海さん。住宅購入の先にある人生も見据えた住まい方の提案を通じて、お客様にとっての「らしい暮らし」と、CO2排出量を抑えた環境にも優しい住まいづくりを推進しています。

連載にあたり、マイナビニュースの読者のみなさま約500名にリノベーションに関する疑問についてアンケートを実施し、沢山のご質問をいただきました。第6回の「マンションの資産性」に続き、最終回となる今回は「リノベーションと幸せの関係」についてお話しします。

せっかくやるなら、いろいろ楽しみたいです!(30代・男性・会社員)

  • リノベる。表参道本社ショールーム

リノベる 小野寺七海さんからの回答

「いろいろ楽しみたい」というお気持ち、非常によくわかります。私自身もリノベーションする際にとことんこだわって、キッチンメーカーのショールームに何度何度も足を運びました。大変ではあるのですが、それが本当に楽しかった。もちろん悩むこともあるのですが、それも含めて楽しかったんですよね。これは、今の住まいへの満足感や日々の楽しみ、ひいては「幸せ」につながっていると感じています。

実は、「リノベーションをした方の幸福度」について「リノベる。」で調査を行ったことがあります。その中で分かったのは『「おしゃれな住まいに住んでいるから、幸せ。」なのではない』、ということでした。対象は、当社でリノベーションを実施された方約200名と、新築マンションションを購入した方約200名です。リノベーションされた方はオーダーで住まいづくりをされているので、間取りやデザイン、素材や住設機器、周辺環境などの満足度はリノベーション経験者が非常に高かったのですが、「住み始めてからの変化」について伺ったところ、特に大きな違いがありました。

リノベーションされた方は、新築購入者に比べて「グリーンやインテリアを楽しむようになった」が4倍、「家への愛着がわいてきた」や「人を招き入れるようになった」が3倍、他にも「家事が楽しくなった」「料理をすることが増えた」「好きなものがより好きになった」など、2倍を超える項目がいくつもありました。住まいや暮らしに積極的にかかわることで、暮らしを楽しまれている様子が見て取れます。

また、一般的には住まいへの関心は経年で低下していくと考えられていますが、リノベーション経験者の場合は「家に人を招き入れるようになった」「友人や家族と家について話す機会が増えた」などの項目で、経年で増加が見られました。

住まいづくりのプロセスの中で、「選択」することが多い中古マンション購入とオーダーメイドのリノベーション。選ぶという能動的な行為によって、自身の価値観を見つめることで、住まいや暮らしに対する関心が一層高まり、幸せが育っていく。こういった理由から、「おしゃれな住まいに住んでいるから、幸せ。」なのではなく、「住まいに主体的に関わることで生まれる”能動的な愛着”が幸せをつくっていく」のではと考えています。 さて、今回は最終回ということで、私がコーディネーターとして担当させていただいた30代のH様ご夫婦に1年ぶりにお会いし、リノベーションをされたきっかけから、今の暮らしに対しての想い、暮らしに対する意識の変化などをお伺いしました。ご夫婦の体験談を通じて、改めて「リノベーションと幸せ」の関係について紐解ければと思います。

画一的な間取りではない、住まいの選択肢との出会い

  • 奥:H様ご夫妻、手前:小野寺

小野寺:はじめてお目にかかったのは「リノベる。」の蔵前ショールームでしたね。 旦那様:はい。ちょっと聞いてみようかな、という感じで伺ったんですよね。リノベーションしかない! というわけでもなく、フラットに考えていました。いつか平屋に住みたいよね、という話もしていて。

奥様:ちょうど友人達も戸建てを建てたりするタイミングと重なって住まいについて考え始めた感じでしたね。でも、平屋は都心だと難しいし。だから、将来的な売却も考えて、まずはマンションに住んで、売却したお金で老後は平屋の夢を叶えたいなと思っています。でも、ある意味、マンションって平屋の感覚に近いですよね。

旦那様:外装をどうするか考えなくてよいから、内装に集中してこだわれることもメリットだと思いました。新築マンションは選択肢にはなかったですね。鍵を開けた瞬間に価値が下がっていくとも聞きますし。何より、好きな部材じゃないし、画一的な間取りが嫌でした。もともと僕は賃貸派なので、それなら自由に動ける賃貸でいいや、って思っていました。

小野寺:リノベーションって、いつから意識されていましたか?

奥様:いつからだろう……でも、賃貸を借りる時もリノベーション済みと書いてありますね。多分、今まで借りた賃貸が全部リノベーション物件だったんだと思います。あと、日常的に広告とかでも見ていて、なんとなく「リノベーションってよさそう」って思っていましたね。

あと、大きかったのは小野寺さんからリフォームとリノベーションの違い、とか、間取りも含めて全部変えられると聞いて、すごくいいじゃん! と思いました。そういえば、小野寺さんのおうちにもお邪魔しましたよね。

小野寺:はい、2回目にお目にかかったのが、リノベーションした我が家でしたね!

旦那様:あれは本当にすごい楽しかったです!

奥様:とっても素敵でテンション上がりました!

小野寺:ありがとうございます! またぜひいらしてください。

使うほどに味のある住まい - 結婚式の思い出を、新しい住まいに溶け込ませる

小野寺:実際にリノベーションされてみて、何が一番楽しかったですか?

奥様:それは、もちろん設計打ち合わせですね。

旦那様:間取りもたくさん議論しましたね……リビングの壁とキッチンのパントリーの壁をそろえるのか? とか、かなり細かいところまで設計担当さんとお話して詰めていきました。本当にたくさんお話ししました。

奥様:そこは主人と設計担当さんが頑張ってくれました。

旦那様:僕が一番難しかったのは、照明とコンセントの位置でした。照明に関する本とかも読んだりしたんですが、あれは難しかった。ペンダントライトだったり、スポットライトだったり、今まであまり使ったことのないものだったので。ちなみに、ダイニングがリビング側に移動する可能性も考えて、照明用のダクトレールをつけてもらいました。

  • 数、形、場所。とことんこだわった照明計画で安らげる空間に

奥様:あと、ちょうどリノベーションと私たちの結婚式の準備を同時進行でやっていて。とっても素敵な結婚式場だったので、その建物の要素もたくさん取り入れましたね。

旦那様:壁をラウンドさせたり、真鍮を使ったりしましたね。

奥様:その結婚式場では真鍮がいろいろなところに使われていて。真鍮って人が触ったり使っていると経年で黒ずんだりするんですが、そうやって時を重ねていくなかで二人にも味が出るように、という思いが込められているそうなんですね。そういうのもとっても素敵だなって思って。結婚式場の設計担当の方に取り入れさせていただいたことを話したら、すごく喜んでくださいました。

  • 旦那様自ら断面図を書き設計担当と議論を重ねて仕上がった扉の手すりにも真鍮を

  • 土間に面する壁はラウンドさせて優しい雰囲気に

  • リビングの延長としての廊下にあるレコードスペースは機材がシンデレラフィット。収納をたくさん作ったため、まだまだ余裕

奥様:あと私はキッチンにこだわりました。キッチンメーカーのショールームも何度行ったか……

小野寺:ショールームではじめてお目にかかった時にご希望を聞いたら、「アイランドキッチンで!」とおっしゃっていましたよね!

奥様:でも、小野寺さんの家にお邪魔したときに、壁付にすることでリビングを広くとるっていうのもいいな、と思って、プランを2つ出してもらいました。友達を呼んでご飯を食べたり、友達の顔を見てしゃべりながらお料理をしたかったんですよね。

小野寺:素敵ですね。まさにそれが叶う空間ですね。

奥様:最近は落ち着きましたが、最初のころは友人も呼びましたね。「わー! 二人っぽい!」って言ってくれてました。

  • 壁付け、アイランドなどの形だけでなく、素材にもとことんこだわったキッチン

「ずっと愛せる?」が、もの選びの基準に変化

小野寺:住まわれてから1年が経って、いかがですか?

旦那様:意外と「あーすればよかったな」がないですね。

奥様:本当にそうですね。リノベーションされた方って、もう一度リノベーションしたいって言われる方いると思うんですが、家事動線もこだわりぬいているので、大満足です!

旦那様:将来的に平屋を立てたとしても、この間取りと内装の雰囲気でいいんじゃないか、くらい満足していますね(笑)

小野寺:カウンセリングから物件探し、設計、施工など、たくさんの時間をかけて住まいづくりに関わられたことで、変わった価値観ってありますか?

奥様:ものを大事にするようにはなったかな。椅子ひとつとっても、今の住まいに合うのか? ってかなり吟味するようになりました。ずっと愛せるかな? って考えて買うようになりました。

旦那様:それすごい大きいかもしれないね。ものを買うときに、これは修理できるのか? 壊れても直せるのか? って考えたり、聞いて買うようになりました。

小野寺:私もカウンセリングをしていてよくお客様から「本当だったらもっと本を読みたい」とか「朝ゆっくりコーヒーを飲みたい」とかお伺いすることが多いんですが、結構みなさま、それさえ手に入れれないぐらいバタバタな毎日を送られていますよね。ちなみに、私はお休みの日におうちにいる時間が圧倒的に増えましたね。

奥様&旦那様:あー! それはありますね!

旦那様:出かけたいとか、あんまり思わなくなりましたね。今までだったら絶対土日はどこかに行きたいとおもってたもんね。

奥様:そうだね。自炊も増えましたね。

小野寺:お休みの日は何をされていますか?

旦那様:コーヒーを飲んでいたり、自転車とか車をいじったりですかね。なんでも自分でやる僕の父親と、結果的に同じ生活をしているのかも。手入れをしないことが良いと思う人もいるとおもうんですが、手入れをし続けることが贅沢だと思ってて。

小野寺:長く大事にすることって、素敵ですよね。

旦那様:今つかっているこの無垢材のテーブルも時々オイルを塗って手入れしているんでうすが、多分15年後も普通に使っていると思うんですよ。もしかすると、そこがリノベーションをするか、新築を買うか、の違いなのかな。

奥様:でもまだ、必要な家具がそろえられていなくて。大きいソファーを買うか、相変わらず考えている感じなんですけどね(笑)

小野寺:でもそうやってじっくり考える時間も楽しみの一つですね。お二人に久しぶりにおめにかかれて、うれしかったです。またぜひ設計担当も含めてお会いできればうれしいです! 本当にありがとうございました。

  • 左から、リノベる。小野寺、H様ご夫妻

住まいを楽しむことで、愛着が育まれる。住まいづくりは、その先に続く暮らしの中での愛着を育む準備運動にもなっているのではないかと感じました。いろいろ考えて選んだからこそ、お手入れをすることに対しても能動的になれる。だから扉や壁、床に傷がついても、それすら思い出になっていくような価値観を持てるのが、リノベーションなのではないかと感じました。

この連載では、皆さまからいただいたリノベーションの疑問に対して、実際にリノベーションされた方の声とデータやティップスを通じてお伝えしてきました。これから住まい選び、住まいづくりの参考にしていただければ嬉しいです。またどこかでお目にかかりましょう。