大学でまちづくりや設計を学び、ワンストップリノベーションサービス「リノベる。」で累計約700組の住まいづくりに寄り添ってきた小野寺七海さん。住宅購入の先にある人生も見据えた住まい方の提案を通じて、お客様にとっての「らしい暮らし」と、CO2排出量を抑えた環境にも優しい住まいづくりを推進しています。

連載にあたり、マイナビニュースの読者のみなさま約500名にリノベーションに関する疑問についてアンケートを実施し、沢山のご質問をいただきました。第2回のリノベの始め方に関する疑問「リノベって、そもそも、何をどうしたらいいんですか…?」に続き、第3回は「中古住宅の寿命と性能」に関する質問についてお答えします。

古い躯体をリノベする事で、住居の寿命や性能はどう変化するのでしょうか?
(50代・男性・会社員)

リノベる 小野寺七海さんからの回答

みなさんの暮らしの基礎となる住まい。安心して暮らすために、しっかりと押さえたいポイントが建物の寿命と性能ですよね。ではまず、資産性にも大きくかかわる「建物の寿命」について回答いたします。

結論から申しますと、建物の寿命は「管理状態」で決まるといっても過言ではありません。

  • 1966年竣工(築56年)のマンション内にある「リノベる。東京 渋谷桜丘ショールーム」

特に、「躯体(くたい)」と呼ばれる建物の構造体や生活インフラである電気・給排水を支える配管・配線など、見えない部分を含めてメンテナンスされていることが大変重要です。

特にマンションの場合は、専有部という個人の所有空間だけでなく、管理組合で管理する共用部の健康状態が重要です。マンション全体として健康であることが、建物を永く使うことに直結するからです。そのため、マンション全体が計画性をもってメンテナンスされているかが重要になります。

耐震性についても同じです。1981年6月1日から適用されている基準として「新耐震基準」があります。これは震度6〜7程度の揺れでも家屋が倒壊や崩壊しないことを基準にして作られています。では、それ以前に建てられた建物では安心して住めないのか、というと、そうとも限りません。適切な診断により、新耐震基準と同等の耐震性能が確認されるものもありますし、適切な耐震工事により新耐震基準と同等の耐震性を得た建物もあります。建物も人と同じように、若いから安心とは限りません。継続したチェックとメンテナンスを行うことで、長期的に安全な状態を保つことが可能となるのです。

では、物件を購入する際に何をチェックすれば、管理状態の良し悪しがわかるのでしょう? 中古マンションのチェックポイントの一部をご紹介しましょう。

・長期修繕計画が立てられているか?
・計画通り修繕が行われているか?
・修繕積立金が適切に積み立てされているか?
・管理費、修繕積立金の金額は妥当か?
・耐震状況は? など

戸建ての場合は、マンションと違い管理が個人となるため、第三者による建物の状況調査(ホームインスペクション)も行いながら検討をするのが良いでしょう。いずれの場合にも、物件購入は専門的知識が必要な場面も多いため、私たちのような不動産や建築のプロと一緒に確認しながら検討をすることをお勧めします。

次に、住居の「性能」ですが、大きく分けて「耐震性能」と「環境性能」があります。「耐震性能」は、明確な基準があり、中古住宅の流通時に説明が義務化されていますので、今回は、環境性能、省エネ性能や断熱性能という観点でお話しします。

古い建物のイメージとして、寒さ、暑さへの不安を挙げる方もいらっしゃいます。最近では光熱費の高騰により、省エネがかなうという点で環境性能はさらに注目を浴びています。実は、これもリノベーションを行う中で大きく改善することができます。

キーワードは「断熱」です。

方法はいくつかありますが、大きな効果を発揮するのは、窓と、外気に触れている面(外構面)の断熱です。

  • 二重サッシの取り付け例

実は窓からは、冬に50%の熱が逃げ、夏には74%の熱が入り込むといわれています(YKK AP株式会社によるデータ)。そんな窓に、二重サッシと呼ばれるもう1枚の窓を取り付けることで、マンションでも手軽に断熱が叶います。さらに、結露が防げたり、防音も同時に叶うのです。

  • 外壁面にパネル状の断熱材を施している様子

外構面には、パネル状の断熱材を貼るものや断熱素材を吹き付けるタイプなどがあり、規模や予算に合わせて検討することができます。

それでは、実際に断熱を行うとどのような効果があるか、お客様の声を例にご紹介しましょう。

このお客様は「できるだけ無駄な電気を使わず無理のない快適な生活をしたい」という想いをお持ちでしたので、断熱は施工の必須項目となりました。そこで、すべての窓に二重サッシを取り付け、外壁面には断熱ボードを追加しました。

お引越しは寒さが厳しい2月でしたので、効果は歴然だったそうです。

「まず、朝起きて、外の寒さに気づかないことに衝撃を受けました。寒さを確かめるために、窓を開けるということがルーティンになったほどです。以前は新築で購入した戸建住宅で結露にとても悩まされていたのですが、この家では一度も見ていません。さらに先日、外で1日工事をしていたのですが、夫婦ともに在宅ワークをしていても全く気づかず、とても驚きました。」

  • インナーバルコニーの窓辺はお気に入りの場所

日本では家の中の暑さ寒さへの慣れから、温熱環境を重視する方はそれほど多くありません。しかし、温熱環境が体に与えるストレスは意外と大きいもので、ヒートショックによる家庭内事故や、アレルギー、風邪などの一員とも言われています。居心地が良いと思えるお住まいにする事が、長く住めるお家づくりの秘訣の一つだと思います。

安心して長く住めると思えるためには、物件の管理状態にプラスして、自分自身もそのお家で過ごしたいと思える住まいである事が非常に重要です。自分の暮らしに合わせた間取りにできることに加え、過ごしやすいと思える住環境を造れるリノベーションは、そういった点からも有効だと言えるでしょう。