前回のコラムでは、自ら仕事を進める姿勢を促すためのポイントとして「仕事における遊び」に注目しました。部下が遊びに興じているかのように、夢中になって仕事に取り組めているのか? という観点です。
今回のコラムでは、部下に遊びのモードを促すために、上司に求められるポイントを2つ提示します。
部下の「リソース」を把握しているか?
部下が自分のポテンシャルを十分に発揮するために、鍵となるのは「リソース」です。リソースとは、仕事を進めるときに個人が利用できる資源を意味します。例えば、能力・スキル、知識や経験、時間や体力、人脈や権限などです。
リソースが、仕事量や仕事の難易度にマッチしているのか? この観点が非常に重要です。オランダ・ユトレヒト大学教授のシャウフェリ氏らは、「人が仕事で没頭したり、高い集中レベルを発揮したりするためには、仕事内容と本人が利用可能なリソースとのバランスが重要である」と提唱しています。
仮に、明らかに部下のリソースが不足している場合は注意が必要かもしれません。部下は身の丈に合わない仕事内容に、焦りや不安、緊張や無力感などを強め、仕事に対するやる気を失ってしまうためです。
反対に、豊かなリソースをもっている部下に、あまりに安易で単調な仕事を与えている場合も、部下のモチベーションが高まることはありません。早々に仕事に退屈してしまったり、窮屈さを感じて転職を検討したりするなど、仕事に対する意識は低下していくリスクが出てきます。
特に注意するべきは「時間」です。さまざまな職場を見ていると、能力もスキルもある人材ほど、過密スケジュールに疲弊しているのが目につきます。また、時間がないため仕事を十分にやり遂げることができずに、自信を失ったり、ストレスや疲弊感を溜めてしまったりするケースも多い印象です。
このように、部下の「より高いパフォーマンス」を引き出すためには、仕事内容の調整が求められます。リソース不足であれば、捻出したり、補填したりできる方法を一緒に検討するといった対応が求められます。
部下は、仕事の「主役」になれているか?
2つ目のポイントは、部下を仕事の「主役」へプロデュースすることです。
部下のリソースレベルを把握し、それに見合った業務を指示しているのに、部下のやる気が感じられない。こういったこともあるでしょう。部下が仕事に対してまったく興味・関心を持てていないケースです。いわゆる「やりがい」を感じていない場合です。
このような部下への対応として、次のようなケースが散見されます。
・会社の理念やビジョンを参照させる。
・社会貢献の観点から仕事の重要性を説得する。
しかし、それで部下が仕事を面白がるようになったという報告はあまり多くはありません。どうして、部下の興味・関心は高まらないのでしょうか。上司の説得内容を聞いてみると、主体として語られているのは、実は社会、会社、顧客であることに気付きます。
「会社が」大切にしている価値観だから
「顧客が」望んでいる仕事だから
このような「自分(部下)以外」を主語にした仕事の意味づけは、仕事におけるオーナーシップを低下させてしまいます。
本当に仕事を楽しんでいる人ほど、「自分の」仕事、「自分の」顧客といった感覚を持っています。そこには、自分なりの仕事の「物語」があり、本人は「主役」としてその物語に向き合っているのでしょう。
例えば、次のような感覚を抱いていることが多いでしょう。
・自分が、状況に働きかけ、自分が仕事を動かしている感覚(統制感)
・自分が、それをやることに価値や楽しさを感じている(目的・価値)
・自分が、やるべきだと感じている(使命感)
・自分ならばできると信じている(自信)
これを踏まえると、上司がやってはいけないことが見えてきます。
例えば、詳細な指示・命令によって本人の統制感を奪ってしまうことや、仕事の目的・価値を会社や上司の志向で上書きしてしまうこと。また、会社やチームの存在を強調し、義務感を植え付け、使命感を排除してしまうこと。そして、部下の自己評価を、上司がシビアに批判し、自信の芽生えを奪ってしまうことなどです。
仕事の「主役」は部下で上司はあくまでも「脇役」。本人が主体的に取り組みたいと思えるような「物語」を、部下の目線で一緒に見ていくことが求められます。それは、部下が関心を持つような新たな情報や、視座を高めるような知識の提供すること。あるいは、部下の仕事の幅を拡げるような人物との出会いを支援する。
そういった部下を「主人公」としてプロデュースする姿勢が求められるのです。
執筆者プロフィール:神谷俊(かみや・しゅん)
株式会社エスノグラファー代表取締役
大手企業を中心にオンライン環境における組織開発を支援する。2021年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。経営学修士。