アップルは自社による商品企画と設計に基づいて、日本の38社をはじめ中国、台湾、韓国、そして米国など世界の約200社から部品や素材を調達しています。その大半を中国の工場に集めてiPhoneを組み立て生産して完成させ、それらを世界各国に輸出して販売しています。

その中でも日本企業が供給するのは基幹的な部品が中心となっているのが特徴です。スマホの機能は年々高度化しており、そのニーズに応えられる日本企業の存在感が高まっています。「これら日本企業の高性能の部品がなければスマホは作れないし、動かない」と言って過言ではありません。

日本の電子メーカーはスマホ向けだけでなく、自動車搭載用や通信用、産業用など世界中の幅広い分野に高度な部品を供給しています。例えば、前述の日本電産は光ディスク装置用モーターで世界シェア90%、銀行端末用カードリーダーで80%など、多数の「世界シェアNo.1製品」を擁しています。

日本企業は今や世界のITの「隠れた主役」となっているのです。これは日本企業が厳しい経済環境が続く中にあっても、独自の技術を磨き、得意な分野を伸ばす努力を続けてきたからにほかなりません。その結果、他には代替のきかない技術力と部品を手にしたのです。まさにオンリーワン技術であり、オンリーワン経営です。

部品メーカーというと、完成品メーカーの下請け、あるいは買いたたかれるなど、弱い立場といったイメージがありますが、前述のような高度な部品は日本企業の、しかも限られたメーカーしか生産できないのですから、ユーザー企業はそれに頼るしか選択肢がないわけです。そして、競合するメーカーがない(あるいは、ごく少数)のため、価格競争に陥ることなく、高い利益率を実現できることにつながります。

これが日本企業、特に電子部品メーカーの強さの源泉となっているのです。ソニーやパナソニックなども、こうした電子部品事業の強化に力を入れています。このように見てくると、日本企業の姿が変貌を遂げていることがわかります。

波乱乗り越え、日本企業復活ののろし

最近はiPhoneを含むスマホ市場は世界的に伸びが鈍化傾向にあり、その影響で日本の部品メーカーの受注額が減少する現象も現れています。しかしスマホ各社の新機種開発などは続くでしょうし、それら部品の用途は産業各分野で広がっています。

また電子部品などIT産業は、実は化学、繊維、印刷、通信、精密機械など幅広い業種にも新たな需要を生み出しており、それぞれの分野でも日本企業の活躍が目立っています。半導体を生産するための機械装置(半導体製造装置)で、世界のトップ10のうち5社が日本企業という事実も、前号で紹介した通りです。

今、世界経済にとって米中貿易戦争の行方が最大の懸念材料となっています。関税引き上げの影響から、生産拠点を中国から他の国・地域に移す動きが出始めており、各企業は新たな投資や戦略練り直しを迫られています。

しかし中長期的な目で見れば、その中にあっても日本の優位性は変わらないでしょう。生産拠点の移転によって、たとえば従来は中国国内の企業から調達していた部品を移転先の国の企業に振り替えるケースが出てくることが考えられます。しかし日本企業が供給する部品はオンリーワンなので、代替がききません。どこへ行っても日本企業から調達するしかないのです。

世界の多くの企業は、国境を越えた部品供給網(グローバル・サプライチェーン)と国際分業による生産体制を構築してきましたが、その要の位置にいるのが日本企業だということを、このことは示しています。またまだ課題は多いものの、ニッポンの製造業復活ののろしが上がったことは確かです。