2008年に出版された『ローカル線ガールズ』の映画化が決まり、2018年11月公開をめざして現地ロケ撮影が始まった。11月23日の福井新聞ONLINE「横澤夏子さん映画、地元劇団員熱演『ローカル線ガールズ』撮影真っ最中」によると、地元の劇団が出演し、俳優の緒形直人さんと撮影に臨んだという。

『ローカル線ガールズ』は、福井県のえちぜん鉄道で採用された女性アテンダントが自らの実体験をつづったドキュメンタリーだ。やや軽い印象の書名であるけれども、その軽さは読みやすさにとどまり、意外にも硬派な内容だった。

前段はえちぜん鉄道発足までの経緯を詳しく説明し、地域にとって鉄道の存在意義を切々と訴えている。まるでえちぜん鉄道社長の代弁をしているような印象だけど、書き手の若さと優しさに包まれて読みやすく、沿線地域にとって鉄道の重要度がひしひしと伝わってくる。後段は筆者や仲間が経験した心温まるエピソードを紹介しつつ、アテンダントたちが成長していく様子を描いた手記という体裁になっていた。

  • えちぜん鉄道を舞台とした映画が製作中(写真は2015年9月撮影)

つまり、『ローカル線ガールズ』は小説ではなくドキュメンタリー、あるいはビジネス書ともいえる。だから映画化すると聞いても、どんな物語になるか想像もつかない。そもそも本書は「物語」ではないからだ。筆者が主人公になるとしても、本書には筆者の私生活などはほとんど描かれていない。映画化にあたり、筆者と同じ境遇に立たされた主人公の物語に、本書のエピソードのいくつかが織り込まれていくという話になるのだろう。

報道をさかのぼってみると、映画化決定の第一報は9月2日、福井新聞ONLINE「えち鉄と勝山舞台に映画製作決定 監督に児玉氏、吉本興業が協賛」で確認できる。都会からUターンした女性が自立していく物語だという。

映画は、えち鉄アテンダントが体験談をまとめた「ローカル線ガールズ」(2008年出版)をヒントに、新たなシナリオで製作する。夢破れ都会から帰郷した女性がアテンダントに採用され手探りで奮闘する中、家族、古里の素晴らしさに気付いていく。

福井県勝山市などが制作委員会を作り、えちぜん鉄道沿線自治体や地元民間企業に参加を呼びかける。制作費は3,600万円で、勝山市が1,000万円を負担する。勝山市が力を入れているUターン、Iターン施策のひとつとしつつ、沿線の美しい自然や観光地もアピールしたいという。完成予定は2018年春。映画祭にも出品し、11月に福井県内と都市部で劇場公開をめざすとのこと。2010年から地域発信型映画を支援し、60タイトル以上を手がけた吉本興業の協賛が決まっている。

10月15日の中日新聞「鉄道まるっと切り抜き帳 ロケ地のえち鉄を下見 映画『ローカル線ガールズ』監督ら」によると、この映画は芸能プロダクションを経営するプロデューサーの河合広栄氏の発案だという。河合氏は勝山市の出身で、本書を読んで映像化を決心し、自治体やえちぜん鉄道を説得したそうだ。

監督の児玉宜久氏は長らく石原プロモーションのドラマ作品で助監督を務め、現在はテレビの2時間ドラマの監督などで活躍している。代表作品はテレビ朝日系列の土曜ワイド劇場『ショカツの女』シリーズ、フジテレビ系列『ヤバい検事 矢場健』シリーズなど。

配役は10月27日の福井新聞ONLINEが報じた。主演はテレビのワイドショー番組でレポーターとして活躍する横澤夏子さん。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人だ。主人公の兄役に緒形直人さん、えちぜん鉄道の社長役は笹野高史さん、主人公と交流する人物として長山藍子さんの出演も決まった。

11月15日の中日新聞「えち鉄映画の撮影始まる 横澤夏子さん主演」で、映画のタイトルが『ローカル線ガールズ ~私、故郷に帰ってきました~』と報じられた。14日にクランクインし、えちぜん鉄道勝山駅や電車内のロケ撮影が行われた。キャストとして女優の松原智恵子さんが加わったようだ。冒頭で紹介した記事のように、地元の劇団員にもオファーがあり、地域と大物俳優が一体となった作品作りが進んでいる。

そういえば、えちぜん鉄道は2018年秋まで、福井駅立体交差化の工事中だ。現在、福井駅は北陸新幹線の高架駅予定部分を借りている。東海道新幹線の工事中に阪急電車が線路を借りて以来の珍しい現象だ。もし、新幹線駅の借用中の施設もロケで使われたら、えちぜん鉄道の珍しい時期が映像作品として残されるかもしれない。山田洋次監督の1970年公開の映画『家族』では、約半年しか営業しなかった北大阪急行電鉄の万博中央駅が収められ、貴重な映像資料となっている。

日本の鉄道を舞台とした映画は、2010年の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』をきっかけに盛り上がり、2011年から2013年にかけて『奇跡』『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』『阪急電車 片道15分の奇跡』『旅の贈りもの 明日へ』『僕達急行 A列車で行こう』『百年の時計』『江ノ島プリズム』『すべては君に逢えたから』と続いた。しかし近年はご無沙汰だった。鉄道映画に飢えていた鉄道ファン、映画ファンとして、1年後の公開を楽しみに待ちたい。

地域おこし映画としては、2011年に公開された『ハナばあちゃん!! ~わたしのヤマのカミサマ~』で秋田内陸縦貫鉄道が登場する。この映画では小坂鉄道の廃線跡に架空の観光施設としてレールバイクを登場させた。それがきっかけで、実際の観光施設として「大館・小坂鉄道レールバイク」が誕生している。

映画『ローカル線ガールズ ~私、故郷に帰ってきました~』で、えちぜん鉄道の魅力がどのように描かれるか。この映画をきっかけとして、沿線にどんな効果があるか。希望がふくらむ。