2016年4月14・16日の2度にわたり最大震度7を記録した熊本地震からもうすぐ1年。被災不通区間となっていたJR九州の豊肥本線と南阿蘇鉄道で復旧へ向けた取組みが始まるようだ。JR九州は豊肥本線の不通区間肥後大津~阿蘇間のうち、まず肥後大津~立野の復旧をめざす。立野~中松間が不通となっている南阿蘇鉄道も、復旧へ向けた協議会が設立される見込みだ。時期は未定ながら、熊本~高森間の鉄道ルートが復活しそうだ。

昨年の熊本地震の影響で、JR豊肥本線肥後大津~阿蘇間と南阿蘇鉄道立野~中松間が現在も不通となっている

熊本日日新聞の電子版「くまにちコム」によると、JR九州は豊肥本線で不通となっている肥後大津~阿蘇間のうち、肥後大津~立野間の先行復旧に向けた調査を始めるという。肥後大津駅付近に現地事務所を開設し、自治体や工事担当者と調整を行う。

豊肥本線は4月16日に立野~赤水間で発生した土砂崩れなどにより線路が流出したため、始発から全線運休となった。大分側は翌17日に豊後竹田駅まで、熊本側は19日に肥後大津駅まで運行再開。大分側は4月28日に豊後荻~豊後竹田間、約2カ月半後の7月9日に阿蘇~豊後荻間が再開した。残る肥後大津~阿蘇間は復旧のめどが立っていなかった。

熊本日日新聞の報道によると、肥後大津~立野間は約50カ所、立野~阿蘇間は約40カ所について土砂流入や落石の被害があるという。とくに立野~赤水間の阿蘇大橋付近の被害が甚大だ。並行する国道57号は立野~赤水間をトンネルで直行するルートに決定した。しかし豊肥本線については未定となっている。東日本大震災と同様、国は黒字の会社を支援できないため、株式上場を果たすなど帳簿上は順調なJR九州の路線には冷たい。

立野駅は鉄道ファンにとって、三段式スイッチバックの駅として知られている。この立野駅が復旧の境界線となり、被害が比較的軽微な肥後大津~立野間を先行復旧させる。肝心のスイッチバックは赤水駅側にあり、復旧は未定だ。先行復旧については2016年12月にも熊本日日新聞が報じており、2016年度中に着工できれば2017年度中には復旧できるという見解だった。しかし今回の報道からは、着工前の調査に時間がかかりそうな気配がある。気長に待ったほうがいいかもしれない。

立野駅と高森駅を結ぶ南阿蘇鉄道は、4月16日の地震で鉄橋やトンネルの破損、土砂流入などの被害が大きく、全線で運休した。復旧費用が膨大になると予想されたため、第三セクター鉄道のいすみ鉄道・ひたちなか海浜鉄道・由利高原鉄道・若桜鉄道が共同で復興祈念きっぷを販売するなど、鉄道ファンの支援を募った。

その後、2016年6月28日の閣議決定で、国土交通省予算から土木構造物や周辺地質の調査が行われると決まった。こちらも復旧までは時間がかかりそうだ。ただし、7月31日から比較的被害が小さかった中松~高森間で運行を再開している。国内外からの観光客に好評だった名物のトロッコ列車も運行されている。

3月19日の西日本新聞電子版によると、南阿蘇鉄道と沿線の5町村は、全線復旧を早期実現させるため、今月中にも協議会を発足するとのこと。南阿蘇鉄道は赤字のため、復旧には国の支援が受けられる。三陸鉄道は東日本大震災のときに特例で全額の補助を受けられた。南阿蘇鉄道も同様の支援を求めていく。しかし自治体負担が生じる場合も予想されるため、調整機関としても協議会が必要となる。

現在、公共交通機関で南阿蘇鉄道に乗るには、九州産交バス「快速たかもり号」が熊本~中松~高森間で3往復、宮崎交通バス・九州産交バスの共同運航便「あそ号(熊本行)」「たかちほ号(延岡行)」が延岡~高森~熊本間で2往復ある。熊本~高森間の所要時間は約2時間。いま話題の「路線バスの旅」の目的地として、秘境感を高めている感もある。

しかし、鉄道ファンとしてはやはり鉄道で行きたい。被災前、熊本~立野間の所要時間は特急列車で約40分、普通列車で約1時間だった。南阿蘇鉄道は立野~高森間を約30分で結んだ。やはりバスより速い。早く到着できれば、阿蘇観光の滞在時間を増やせる。

南阿蘇鉄道の復旧に向けた協議会にとって、JR九州が肥後大津~立野間の先行復旧をめざしていることは心強いだろう。JR九州にとっても、南阿蘇鉄道がある立野駅までつなぎたいという思いがあるに違いない。両者が阿蘇観光と熊本復興に向けて共同歩調をとることで、国などの支援も受けやすくなるかもしれない。

JR豊肥本線肥後大津~立野間、南阿蘇鉄道立野~中松間の復旧が実現したら、JR九州が熊本~高森間直通の「あそぼーい!」を走らせてくれるかもしれない。……おっと、それは夢を見すぎだろうか。