10月25日、JR九州が東京証券取引所市場第1部(東証1部)に上場した。鉄道部門が赤字の中で、大胆な多角経営が評価された。一方、このタイミングでJR北海道のローカル線問題も取り沙汰されており、JR九州とJR北海道の経営環境、経営手腕にも関心が集まっている。もっとも、そんな話は経済誌に任せておこう。鉄道ファンとしての関心は、株主優待制度でおトクな「乗り鉄」ができるかどうか。そして投資家から指摘されるであろう赤字ローカル線の対処である。期待もある反面、不安も残る。

JR九州のローカル線の維持は投資家の理解にかかっている

片道きっぷの全区間で5割引

JR九州の株主優待制度は、「鉄道株主優待券」と「JR九州グループ株主優待券」の2種類がある。どちらも100株以上の株主に対して発行される。本稿執筆時点(11月1日)の株価は3,060円だから、優待券獲得のために株を買うなら、単純計算で30万6,000円の資金が必要になる。優待券は100株以上から保有株数に応じて増えていく。

鉄道株主優待券は100株から1,000株未満までは100株ごとに1枚発行される。1,000株以上から「10枚+1,000株超過分200株ごとに1枚」、10,000株以上から「55枚+10,000株超過分300株ごとに1枚」、20,000株以上の株主は100枚発行されて、これが発行枚数の上限となる。株式の数に比例して優待券をもらえるというわけではない。

もっとも、たくさんあっても使いきれない。株主が使いきれない分が金券ショップに流れても困るということだろう。そもそも株主優待券の趣旨は、「会社の事業を理解していただくため」にある。利益還元は優待券ではなく配当で行われる。

鉄道株主優待券は1枚につき1名が1回だけ使える。運賃または料金のいずれか、あるいは両方が割引になる。運賃は片道乗車券に適用されて、その片道乗車券で使う特急券、グリーン券、指定券はすべて1枚の鉄道株主優待券の対象になる。たとえば博多駅から九州新幹線で熊本駅へ行き、「SL人吉」「いさぶろう」「はやとの風」「きりしま」「にちりん」「ソニック」を乗り継いで小倉駅に至るという旅は、1枚の鉄道株主優待券で5割引だ。1回で使える鉄道株主優待券は1枚だけ。2枚で10割引、つまりタダにはできない。

JRグループで最初に上場したJR東日本の場合、株主優待券は1枚で2割引、2枚併用で4割引になる。発行は100~1,000株が「100株ごとに1枚」、1,000株を超えて10,000株まで「10枚+1,000株超過分200株ごとに1枚」、10,000株を超えて20,000株未満まで「55枚+10,000株超過分300株ごとに1枚」、20,000株を超えて50,000株未満まで100枚、50,000株を超えて100,000株未満まで250枚、100,000株以上で500枚が上限だ。料金割引については1枚につき1列車まで。JR東海は優待券1枚につき1割引で、同時に2枚使うと2割引になる。発行条件はJR東日本と同じ。

それに比べると、JR九州の「5割引、全行程の列車に適用」は魅力的だ。JR西日本もJR九州と同じ1枚あたり5割引で、全行程の列車に適用する。JR西日本の場合、100株から「100株ごとに1枚」通常発行され、追加発行は300株からで3年以上の保有が条件となる。

JR九州グループ株主優待券は、鉄道以外のグループ企業に使える優待券で、100株以上の株主に5枚を発行する。割引内容は福岡~釜山間の高速船ビートルが半額以下の往復1万円。グループのホテル宿泊基本料金が2~5割引、「うちのたまごEGG&SWEETS」と「八百屋の九ちゃん」では会計金額から100円引き。使い方によっておトク度の差が大きい。しかし前述のように、優待券の趣旨は「会社の事業を理解していただくため」である。

JR東日本もグループ企業のホテル、飲食店、車内販売の割引券がある。リラクゼーションサービスやGALA湯沢スキー場関連の割引がJR東日本らしい。JR西日本もグループのホテルや百貨店の割引券がある。関連会社の日本旅行の旅行商品割引が特徴だ。一方、JR東海には公式サイト上にグループ企業の割引券の記述はなかった。

こうしてみると、各社の事情を反映した株主優待施策が見えてきて興味深い。ただし、ここまでに挙げた割引制度の中には、「指定席個室は不可」「寝台は不可」「グランクラスは不可」などの例外もあるから、利用するときは諸条件の確認も忘れずに。株主にならなくても、優待券同様に金券ショップなどに並ぶと思われるから、各社の株主優待内容を知っておいて損はない。

なお、当記事は各社の株主優待内容を簡潔に紹介しただけであり、投資を勧誘する目的で作成したものではない。投資にあたっては各社が作成する「株式売出届出目論見書」を確認し、投資家自身の判断で行っていただきたい。

JR九州の赤字ローカル線はどうなる?

鉄道会社が株式を上場するにあたって、心配事もある。近年では、2012~2013年にかけて、西武鉄道ホールディングスに対して大株主の外資系投資グループが不採算路線の廃止や球団売却を提案したと報じられた。後にこの投資グループは報道を否定したけれども、株主が配当利益を追求するため、経営に意見することは間違いではない。

さらにさかのぼって、2006年にも国内の投資グループが阪神電鉄株を大量に保有して筆頭株主となり、子会社の阪神タイガースの上場を提案するなど、積極的に経営に関与した。この騒動がきっかけで、阪神電気鉄道は阪急電鉄の持株会社の傘下となり、ライバル私鉄同士の大型合併となった。

つまり、JR九州も大株主の意向によって経営に関与された場合、赤字部門の鉄道事業について改善を求められるおそれがある。その一例として、乗客が少ないローカル線の廃止が提案されるかもしれない。

しかし、JR九州の価値を上げた不動産や流通事業は、鉄道事業の継続による地道な経営が地域の信用を得たから成り立っている。JR九州が、企業の価値を理解し、投機ではなく、末永く事業を支えてくれる株主に恵まれることを願いたい。

私たち鉄道ファンだって、株式を得れば鉄道会社を支えられる。その意味でも上場は喜ばしい。記念きっぷのように、鉄道会社の株券をコレクションして飾りたいくらいだ。しかし、2009年に上場会社の株式は電子化されてしまった。株券は手元にはない。趣味的に集めるなら、株主総会の案内状や資料になるだろうか。いずれにしても、鉄道趣味の中ではかなりリッチな分野といえそうだ。