秋は鉄道趣味が盛り上がる季節。10月14日の「鉄道の日」を中心に、全国で鉄道関連イベントが開催される。楽しい鉄道イベントの話題を追いかければ心も踊る。しかし、去りゆくものを惜しむ習性は鉄道ファンの宿命だろうか。

JR三江線江津~三次間の廃止予定日は2018年4月1日と発表された

9月30日、JR西日本は三江線の鉄道事業廃止届出書を提出した。廃止予定日は2018年4月1日となった。最終運行日は2018年3月31日だ。JR西日本は当初、廃止日を1年後の2017年10月1日、最終運行日を9月30日にすると自治体に伝えていた。それが半年も延長された。地元自治体から、代替バスの準備に時間がかかるという声があり、要望に応えたという。

三江線の赤字は年間9億円以上と報じられており、半年の延長は単純に見積もって4.5億円。冬期の除雪などを考慮すると、この期間は年間の半額より大きくなるだろう。JR西日本は一刻も早く赤字ローカル線を切りたいはず。かなりの譲歩だ。円満に締めくくりたいという意思の表れだろうか。

鉄道ファンとしては、お別れ乗車期間が長くなって良かった。この間に「青春18きっぷ」シーズンが4回、「秋の乗り放題パス」と「鉄道の日記念 JR西日本一日乗り放題きっぷ」のシーズンが2回ある。最終日のお別れフィーバーを好む人もいるようだけど、なるべく平日の、乗客が少なく寂しい列車で「三江線らしさ」を楽しみたい。

翌日の10月1日の読売新聞によると、JR北海道は「1日の乗車人員が1人以下」の51駅を廃止する方針だという。51駅のうち5駅は留萌本線の廃止区間にある。残り46駅のうち、千歳線美々駅について、JR北海道は千歳市に「2017年3月ダイヤ改正で廃止」と伝えたと報道されている。おそらく他の45駅も同様の方針だろう。

51駅の所属路線は函館本線・千歳線・札沼線・根室本線・石北本線・釧網本線・宗谷本線・日高本線・留萌本線だ。中にはもともと地元の便宜のためにつくられた仮乗降場を格上げした駅や、木造駅舎の駅、三浦綾子の小説『塩狩峠』で知られる塩狩駅も含まれる。

神戸電鉄粟生線の電車は鈴蘭台駅から有馬線に乗り入れ、新開地駅まで運行される

三江線の廃止は動きがあるたびに報じられたし、JR北海道の廃止施策については、むしろ報じられない日のほうが少ない。どれも廃止報道の常連だけど、じつは兵庫県にも廃止危惧路線がある。神戸電鉄粟生線だ。3年前に自治体の無利子融資で廃止危機を脱した路線だ。しかし次の無利子融資は未定となっている。

都心と郊外を結ぶ路線なのに赤字

9月29日の神戸新聞によると、神戸電鉄粟生線活性化協議会は国土交通省に対し、支援要請書を提出したという。おもな内容は、赤字補填の支援制度の創設、施設や車両に対する補助金制度の維持、協議会の活動促進に向けた国の補助事業拡充などだ。要望書は国土交通省副大臣が受領し、「しっかり対応したい」とコメントしたと報じられた。

神戸電鉄粟生線は兵庫県神戸市の鈴蘭台駅を起点とし、兵庫県三木市を経由して兵庫県小野市の粟生駅を終点とする29.2kmの路線だ。鈴蘭台駅で神戸電鉄有馬線と接続し、ほとんどの列車が有馬線に直通して新開地駅を発着する。新開地駅は神戸高速鉄道と乗換え可能だ。神戸高速鉄道には阪急電鉄、阪神電気鉄道、山陽電気鉄道への直通電車がある。新開地駅はJR神戸駅とも近い。

終点の粟生駅はJR加古川線・北条鉄道と接続する。つまり、粟生線は神戸のターミナルを拠点とし、終点でJR線と接続した約30kmの郊外路線ともいえる。路線図だけを見ると赤字とは信じられない。ただし、ほとんどの区間が単線で、電車の編成も短く、輸送力は小さかった。鈴蘭台駅付近に急勾配を持ち、沿線は丘陵地帯のため山岳路線ともいわれている。電力を使うし、車両の走行性能も高い。つまり運行コストは高めだった。

神戸電鉄粟生線周辺の略図

また、路線図ではJR加古川線と神戸地域を短絡するルートとはいえ、単線と山岳ルートの遅さによって、遠回りのJR加古川駅乗換えルートのほうが速くなっている。さらに困ったことに、せっかく粟生線沿線に開発された大規模住宅地から、神戸市中心部へ直行するバスがライバルとなった。乗客は減少し続け、2007年度の年間赤字は12億円を超えている。1997年からの累積赤字は100億円を超えた。赤字額でいえば、廃止が確定したJR三江線よりもずっと大きい。

北海道が国土交通省に対してJR北海道の支援を要請したときは、「まず道の議論を進めよ」だった。それに比べると、粟生線に対しては要望を受け止める趣旨になっている。国土交通省の対応が揺らいでいるように見える。しかし、これは記事の書き方の問題かもしれない。どんな事象だって前向きに書けたり後ろ向きに書けたりする。戦時下の新聞の「撤退」と「転進」のようなものだ。

ただし国の方針は定まっている。鉄道の需要が小さい路線はデマンドバスを推進する。これは5月13日の閣議で了承、発表された「国土交通白書」でも示されている。JR北海道の地方路線は過疎化、粟生線はバスへの乗客流出が原因で事情は異なる。しかし、国が地域輸送においてバスを重視している現状では、赤字鉄道への支援は消極的といえそうだ。

神戸電鉄は2008年に、沿線住民に「乗車のお願い」チラシや「おでかけガイド」などの冊子を約4万部も配布した。2009年には「家族おでかけきっぷ」を2,300円で販売するなど、それなりの企業努力をしてきた。一方、地元自治体も含めた活性化協議会が結成され、国の補助を働きかけてきた。神戸電鉄は押部谷~粟生間の上下分離を自治体に提案するなど、新たな運行形態も提案している。これに自治体は応じず、「粟生線存続戦略会議」を結成し、国へ支援を求めると同時に、兵庫県と神戸市が主体の公的支援を実施していた。

神戸電鉄は自治体の無利子融資を前提として、2012年度から3年間の運行継続を決めた。その期限が今年度だ。来年度以降、自治体の融資がなく、国の支援もなければ、改めて全線の上下分離化、あるいは廃止も選択肢となる。国の対応の行方と神戸電鉄の動向に今後も注目したい。