JR西日本は9月1日、三江線廃止を正式に表明した。「三江線の鉄道事業はどのような形態であっても行わない」という文言が強い意志を示したとして話題になった。決まったことについて、あとから評すとは下品だ。しかし、三江線から少しでも教訓を得たい。廃止予備軍路線にとって参考になるかもしれない。

三江線の普通列車はキハ120形が使用される

三江線は江津駅(島根県江津市)と三次駅(広島県三次市)を結ぶ路線だ。江津市は日本海沿岸にあり、江の川の河口にある。人口の少ない島根県の中でも、最も人口の少ない市である。三次市は中国山地の主要都市の1つ。マツダの工場やテストコースもある。三次は鉄道の要衝でもあり、三江線のほか、芸備線が広島駅に通じている。福山駅からは福塩線も到達し、塩町駅から三次駅へ乗り入れる。

三江線の総延長は108.1km。全区間直通列車の所要時間は3時間を超える。江の川に沿って線路のほとんどの区間が蛇行しているためだ。建設計画時は芸備線・福塩線と組み合わせて、山陽・山陰を結ぶ「陰陽連絡線」として期待された。しかし、建設に時間がかかり、建設中に自動車社会が到来したため、完成しても陰陽連絡の役割を果たせなかった。全通以後も、三江線は存在意義を問われていた。

全通以前の1968年に国鉄諮問委員会が提出した意見書で、江津~浜原間の三江北線と、口羽~三次間の三江南線は廃止を勧告していた。当時の廃止勧告対象は83路線もあり、廃止路線選定の条件は「営業キロ100km以下、鉄道網として機能が低く、沿線人口が少ない」「定期客が1日3,000人以下、貨物輸送が1日600トン以下」「輸送量の伸びが競合交通機関を下回る」だった。ただし、廃止勧告にもかかわらず三江線の建設は続けられた。このような路線は他にもあり、政治の矛盾を露呈した。国鉄赤字増大の原因として現在も悔やまれる「歴史の汚点」となった。

三江線の次の廃線危機は1980年にあった。国鉄再建法の制定により、輸送密度が4,000人/日未満の路線は特定地方交通線として廃止、またはバス転換の対象となった。路線の選定は3段階で行われ、第一次廃止対象の条件は「営業キロが30km以下の盲腸線で輸送密度2,000人/日」または「営業キロが30km以下の盲腸線で輸送密度500人/日」だった。三江線はこの条件はクリアできた。しかし、第二次廃止対象路線の条件「輸送密度2,000人/日未満」に該当した。

それでも三江線は廃止されなかった。理由は「代替輸送道路が未整備」だった。そして第三の廃線危機が2015年10月だった。JR西日本がバス転換について沿線自治体に提案した。これ以降、鉄道を存続してほしい自治体側と、鉄道事業をやめたいJR西日本側の交渉が続く。

ただし、2015年10月以前から廃止の火種はくすぶっていた。ひとつはJR西日本の発足だ。民営化された鉄道会社にとって、赤字路線は見過ごせない案件となった。もうひとつは並行道路の整備だ。江津側から国道261号線、県道40号線、国道375号線が整って、かつての「代替輸送道路が未整備」という条件は消えた。沿線の人口は減り、マイカーの普及によって三江線の利用者数は減り続け、ついに輸送密度50人/日にまで下がった。

この間、JR西日本も自治体も改善の動きはあった。JR西日本はワンマン運転や駅の無人化でコストを削減。増収策として団体列車の誘致を実施。自治体側も三江線改良利用促進期成同盟会を結成し、グループ客に対する旅行費用補助などを実施した。しかし、さまざまな取組みにもかかわらず、5年間でさらに利用者数は減少した。民間企業、しかも上場企業のJR西日本としては受け入れられない。株主に対して、赤字事業部を存続しますとは言えないからだ。

報道によると、三江線の年間の赤字は9億円を超え、第三セクター化や上下分離化したとしても、沿線自治体の負担総額は年間数億円という。結果として、沿線自治体は「JR西日本は会社として黒字だから、赤字路線でも残してほしい」という最初の理論に戻ってしまった。数年間の協議の結果がこれでは呆れてしまったのだろう。JR西日本のプレスリリースとしては感情的な「三江線の鉄道事業はどのような形態であっても行わない」という文に現れた。

赤字路線が生き残る方法は

これまでにも多くの赤字路線が廃止された。これからも路線の廃止は取り沙汰されるだろう。その中で、存続できる鉄道路線の条件は何か。

(1) 路線単体で黒字になる

赤字が廃止の理由だから、黒字になれば廃止の理由がない。しかし、単年度黒字だけではダメだ。将来も黒字が継続する見込みが必要だ。できれば、過去の累積赤字の解消まで見通せるならなお良い。しかし、過去に黒字化で廃止を回避できた事例は少ない。ひとつ挙げるならば、ひたちなか海浜鉄道が該当する。自治体の支援もあるとはいえ、単年度黒字を達成し、延伸計画もある。

特定地方交通線のいくつかで、沿線自治体や有志によって「乗って残そう運動」が展開された。しかし、これらの運動の目標は「廃止を逃れるために廃止条件の輸送密度を超える」が当面の目標だった。到底黒字化までたどりつけない。鉄道会社にとっては、何人乗っても赤字であれば不要だ。黒字を目標にできない運動は無意味だった。

(2) 地域の交通手段として必要

赤字であっても一定数の利用客がある。バスに転換しても、混雑時間帯はバス1台では足りない。鉄道よりバスのほうが効率が良い。この場合は、メリットを受ける沿線自治体が赤字を負担するか、上下分離式で設備の保守を負担するか、第三セクター方式で路線自体を自治体が引き取るしか方法はない。並行在来線以外の第三セクター鉄道はこの事例である。南海電鉄貴志川線を継承した和歌山電鐵のように、他の民間企業で存続させるという事例もある。

(3) 地域の観光資源として沿線に経済効果がある

赤字路線である。普段から見込める利用客も少ない。この場合の鉄道路線の価値として、「観光資源」という生き残り方がある。鉄道に乗るために遠方から旅行客がやってくる。旅行客が沿線の宿泊施設や飲食店を利用すれば、それは鉄道があればこその経済効果だ。地域の広告塔として、鉄道を存続させる意味がある。

良い例の筆頭はいすみ鉄道だ。自社車両より古い国鉄型車両を導入し、昭和ロマンを全国に発信。ムーミンキャラクターやレストラン列車などの企画も多数。鉄道事業は厳しくとも、地域への貢献度をアピールしている。列車に乗らなくても、クルマで列車などを撮影しにやってくる人もいる。彼らも経済効果を発生させる。沿線でクルマに給油し、食事をする。クルマで来るから、農産物直売や土産などをたくさん買ってくれる。駅から離れた観光地やレジャー施設を知れば、次の機会に利用してくれるかもしれない。

こうした経済効果を認識できるなら、自治体が鉄道を支援する意味はある。問題は鉄道による経済効果の測定が未知数である。「町が賑やかになる」という心理的効果の価値をどのように評価するか。沿線自治体が好意的に評価すれば支援が得られ、数字を厳しく見れば支援は打ち切られる。「経済効果アピール」は政治に影響されやすい方法でもある。

(4) 鉄道事業者にとって経済効果がある

(1)~(3)までの条件がそろえば、鉄道会社が廃止するとしても、第三セクター方式として存続の道はある。地域密着の第三セクターの場合は、社長や自治体首長の鶴の一声で観光戦略を打ち出せる。JRグループや大手私鉄の場合、決定には稟議など手続きが必要で迅速に動けない。この方策は第三セクターに向いていて、JRの地方路線ではやりにくい。

路線単体で黒字ではなく、地域の交通手段として重要でもなく、地域の経済効果にも貢献しない。そんな第三セクターは生き残れない。しかし、JRグループや大手私鉄の鉄道路線には、もうひとつ生き残るチャンスはある。それは「鉄道会社にとって貢献できる路線になる」だ。JRグループや大手私鉄など、長距離路線網がある鉄道会社だけに有効で、第三セクター鉄道ではありえない戦略だ。

赤字ローカル線に魅力的な観光列車を走らせる。駅に旅行者を呼ぶしかけを作る。その吸引力で、大都市から観光客を呼び寄せる。このとき、新幹線や特急列車など同じ鉄道会社の路線を利用してもらう。赤字ローカル線の収入は少ない。しかし赤字ローカル線に乗るために、新幹線や特急列車などのアクセス路線に乗ってくれるなら、その売上げの要因は赤字ローカル線の存在価値。

たとえば、JR西日本が山口線で「SLやまぐち号」を走らせている。「SLやまぐち号」は乗車券・指定席券だけで乗れるから、全区間乗っても大人ひとりの売上げは1,660円だけ。しかし、新大阪駅から新山口駅まで新幹線で往復してくれたら約2万5,000円の売上げがある。博多からだと往復1万円以上だ。「SLやまぐち号」がなければこの売上げはない。

JR東日本の場合、秋田~青森間の「リゾートしらかみ」が同様の例になる。「リゾートしらかみ」は当初、中古気動車の改造だった。しかし近年は新型ハイブリッド車両を導入している。「リゾートしらかみ」単体の売上げでは採算が合わない。しかし「リゾートしらかみ」に乗るために、首都圏から東北新幹線・秋田新幹線に乗ってくれる人がいる。だから赤字でも新車を導入して五能線を存続させる価値はある。JR九州が各地で観光列車を走らせる理由も、九州新幹線や特急列車によるアクセスの売上げを期待しているからだ。

いまからこんなことを言うとずるいけれども、乗客減少が続く三江線において、存続のために取るべき戦略は(4)だった。「地域のために存続させたい」をごり押しするのではなく、「JR西日本にとって魅力的な路線になる」という方策を打ち出せたら、JR西日本も三江線を軸にした集客戦略を検討できただろう。

現在、(4)の戦略を実行している路線がある。木次線だ。三江線と同じく、島根県と広島県を結ぶ路線だ。木次線にはトロッコ列車「奥出雲おろち号」がある。その運行費用は沿線自治体の経済連合体「出雲の國・斐伊川サミット」が負担している。参加している自治体は出雲市・雲南市・奥出雲町・飯南町だ。地域の観光振興だけではなく、魅力的な列車に支援して、山陽・近畿方面からの集客を狙う。それはJR西日本の収益に貢献する。

JR・大手私鉄に所属する鉄道路線の場合は、もはや「地域のために残したい」では存続させてもらえない。「鉄道会社の利益になりますよ」という存在感が必要だ。三江線も観光列車として、「三江線神楽号」というラッピングトレインを運行しているけれど、残念ながら地味で、遠方の旅行好きの琴線に触れていないように思える。集客の方法は「地域の文化の発表」ではない。「旅行者が何を求めているか」を調査し、期待に応えるしかけ、そして積極的なアピールが必要だ。