JR北海道は4月8日、宗谷本線東風連駅の移設と駅名の改称を発表した。名寄市の要望を受け、東風連駅を約1.6km北の名寄駅方面に移設し、駅名を「名寄高校」駅に改称する。理由を「名寄高校へ通学される生徒の皆様の利便性向上のため」と説明し、費用は名寄市が負担するとのこと。完成予定は2022年春。来年の新入生の通学に間に合いそうだ。

  • 東風連駅と移設予定地、名寄高校の位置関係(地理院地図を加工)

経営危機に陥ったJR北海道では、路線の存廃問題、駅の廃止など寂しい話題が続いたが、増収と地域共生につながる知らせも増えてきた。国の財政支援継続、北海道と国による観光列車車両取得費の支援も決まった。この流れで、5月にデビューする「ラベンダー編成」(キハ261系5000番台)が支援対象になる予定だという。

2018年から順次導入されているキハ40形の改造車両も道内各地で活躍し、観光輸送に彩りを添えている。「流氷物語号」などでは、地域の人々とも協同して広報活動を盛り上げており、JR北海道の前向きな一面が沿線地域からも好感されているようだ。

一方、駅と鉄道の維持に関連して、存廃問題もくすぶっている。JR北海道が「当社単独では維持することが困難」と表明した線区では、乗客増の取組みについて地域の支援、負担を求めている。2021年3月のダイヤ改正では、JR北海道の計18駅が廃止された。極端に乗降客が少なく、地元自治体が維持費を捻出できないと判断したためであり、役目が終わった駅は消える運命にある。

東風連駅の移設は、「高校生の通学を便利に」という理由が主とはいえ、JR北海道にとっては増収策となる。列車での通学が便利になれば、自転車や親の送迎から列車通学に切り替える生徒が増えるはず。しかも費用は名寄市持ちである。ありがたい話だろう。

朝日新聞電子版の1月14日付の記事「JRの赤字路線に『高校駅』 自治体が費用負担のワケ」によると、名寄市は設計費用として、2020年度に1,360万円を予算化し、建設費としては数千万円を見込んでいるという。それでも「通学に便利な名寄高校」を進路に選ぶ生徒が増えると期待できる。

■駅の移設で「危険な通学路」が解消される

名寄市が公開する議会議事録や、市長と住民の対話集会などの記録を読むと、東風連駅の移設と駅名改称は、単に便利にするだけでなく、「生徒の安全」を重視した施策だったとわかる。名寄高校は名寄駅から南へ約2.2km、東風連駅から北へ約1.5kmの距離にあり、それぞれ徒歩で約30分、約20分かかっていた。冬期は積雪で歩きにくくなるだろうから、もっと時間がかかると予想される。

名寄高校への通学路となる道道538号は片側1車線で、自動車の交通量が多い。国道40号が並行しているものの、信号も交通量も多いため、道道538号が抜け道となっている。Googleストリートビューを見ると、ダンプカーが走っていた。重量のある大型車両はシグナルストップを嫌うから、ドライバーとしては当然の選択かもしれない。その結果として、市民にとって道道538号は、交差点も含めて「危険な通学路」という認識のようだ。積雪時に道幅を示すスノーポールは歩道を含めた外側にあるため、雪が積もるほど歩道と車道の境界が曖昧になるのではないか。

移設・改称後の名寄高校駅は、名寄高校からわずか20mの位置になる。これで「危険な通学路」は解消される。道道538号を渡る場所に横断歩道と歩行者用信号を設置すれば完璧だろう。

ところで、駅が移設されるとなれば、もともと駅のあった地域は駅を失うわけで、不便になってしまう。市民集会などでもこの点が指摘されていた。名寄市の回答は、「JR北海道によると、東風連駅の利用者のほとんどが名寄高校の通学生」とのことだった。

  • 航空写真を見ると、東風連駅周辺の民家は少ない(地理院地図を加工)

改めて航空写真を見ると、名寄駅周辺とは対照的に、東風連駅周辺は農地ばかりで民家が少ない。隣の風連駅前と比較しても、東風連駅で地域の人々の利用は少なそうに見える。宗谷本線の南側に住む名寄高校の生徒が、高校への最寄り駅として使っているとみられる。

■他にも改善できる駅があるかもしれない

JR北海道が公開している「駅別乗車人員」によると、東風連駅は1日平均で10名超となっている。この資料では、駅の乗車人員が「1名以下」「3名以下」「10名以下」「10名超」で分類されている。10名以下の駅については対応を検討したい意向だろう。その意味では、東風連駅はもともと廃止対象外だった。名寄高校生のおかげと思われる。

「10名以下」の駅について、JR北海道は自治体に対し、1駅あたり年間100万円以上の維持費負担を求めている。負担がなければ廃止。負担があれば存続。乗客増の見込みがないまま費用負担を続けていく状況は財政を圧迫する。しかし、駅そのものを便利な位置に移設すれば、初期費用がかかっても利用者は増える。それは列車の乗客増にもつながるから、JR北海道も前向きに検討できる。

東風連駅を移設し、名寄高校駅に改称する施策は、「維持費負担か廃止か」という選択肢しかなかった状況下で、「投資して活性化」という新たな選択肢を示した。もしかしたら、JR北海道には東風連駅の他にも、このような前向きの施策を適用できる駅があるかもしれない。それは全国のローカル鉄道にも通じるだろう。

蛇足ながら、JR北海道にもう少し商売っ気があるなら、名寄高校駅に多少の費用負担をしてでも、定期券うりばを兼ねたコンビニを開業してはいかがだろうか。目の前の高校生にきっぷだけしか売らないなんてもったいない。