JR東日本が京浜東北線にワンマン運転を導入する方向で検討を始めたという。共同通信が6月27日付記事「京浜東北線のワンマン運転検討 JR東、新型車両で人員不足補う」で報じている。記事によると、ワンマン運転に対応するため、2024年をめどに新型車両を投入し、「車両側面のカメラで乗り降りを確認できる機能」や「ボタンを押すだけで停止や速度調整ができる自動運転装置」を搭載するとのこと。

  • 京浜東北線にワンマン運転を導入する方向で検討を始めたと報道。新型車両を投入するという

産経新聞の同日付記事「京浜東北線ワンマン検討 新車両投入 JR東」では、共同通信が報じた内容に加えて、「京浜東北線のワンマン化を足掛かりに、運転士に頼らない『ドライバレス運転』の導入を図る。沿線自治体や組合側と協議し、実施時期や区間を決める」と締めくくっている。JR東日本からの公式発表はない。

JR東日本は「ドライバレス運転」の実現に向け、2018年12月から山手線E235系を用いたATO(自動列車運転装置)の走行試験を行った。2019年10月には常磐線(各駅停車)にATOを導入すると発表しており、当連載第195回「JR東日本がATO導入へ - JR九州も『自動運転』報道、導入する路線は」でも紹介している。自動運転のしくみや背景はそちらを参照していただきたい。ちなみにその記事では、「JR九州は筑肥線か」と予想したが、外れてしまった。2019年12月に香椎線で実施すると発表された。

京浜東北線のATO導入が正式に決まれば、JR東日本では常磐線各駅停車に次いで2路線目となる。ATOの導入そのものは驚きに値しない。今回の報道の注目点は「新型車両」「長編成のワンマン運転」「踏切のある路線としては日本初」、次の段階で「ドライバレス運転」だろう。

■京浜東北線の新型車両、車体側面に監視カメラが付く?

「新型車両」については、山手線や横須賀線・総武快速線で採用されたE235系を思いつく。ただし、現行の仕様のままでは京浜東北線で採用されないだろう。「長編成のワンマン運転」に対応する必要があるからだ。

ワンマン運転は地方ローカル鉄道で日常の風景となった。1両または2両編成で、運転士は車内の様子を目視またはミラーで確認する。無人駅の乗降扉は運転士寄りの1カ所とし、精算と乗降扉の様子を目視する。すべての扉を開ける場合もミラーで確認する。その程度なら目視が行き届く。しかし長編成の車両では目視が届かない。山手線で試験し、常磐線各駅停車で導入されるATOはワンマン運転を想定しておらず、車掌が乗務する。山手線はともかく、常磐線ではホームドアの設置前にATOが導入されるため、全車両で乗降扉の開閉時に安全確認が必要。したがって車掌の乗務が前提となる。

JR東日本は今年3月のダイヤ改正から、東北本線黒磯~新白河間を走る5両編成のE531系でワンマン運転を始めた。車内精算業務は無し。乗降扉の開閉時は各車両の側面に取り付けた監視カメラを使い、車内のモニターで監視する。その運用実績のもとで、京浜東北線の10両編成も監視可能と判断されたと思われる。監視範囲は5両から10両と倍になるが、その頃までに京浜東北線ではホームドアの設置が終わるし、混雑時は駅員も立っている。京浜東北線に投入する新型車両は、側面に監視カメラが付くと予想される。E235系とするなら新たな番台を与えられるだろう。あるいは監視カメラの位置をスマートにデザインした新型車両が作られ、「E237系」を名乗るかもしれない。

■「自動運転」「無人運転」「ドライバレス運転」違いは

国土交通省は2018年12月から「鉄道における自動運転技術検討会」を実施し、2019年12月までに4回の議論を行い、2019年度中に中間とりまとめを行う予定だった。中間とりまとめは現在も公開されていないが、おそらく新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響と思われる。この議論の中で、IEC(国際電気標準会議)にもとづき、鉄道の自動運転レベル(GoA : Grade of Automation)を5段階で整理している。

  • 「GoA0」目視運転 (TOS : On Sight Train Operation) … 路面電車のように、運転士が目視で判断し運行する。
  • 「GoA1」非自動運転 (NTO : Non-automated Train Operation) … 踏切のある一般鉄道路線のように、運転士が操縦する。(ATS・ATCは運転補助装置)
  • 「GoA2」半自動運転 (STO : Semi-automated Train Operation) … 運転士がATOを起動し、ドア扱い、緊急停止、避難誘導を行う。地下鉄など多くの路線で採用されている。
  • 「GoA3」添乗員付き自動運転 (DTO : Driverless Train Operation) … 英文にドライバーレスとあるように、運転士以外の添乗員が乗務する。しかし運転業務は行わず、旅客案内や避難誘導を担当する。舞浜リゾートライン(添乗員はガイドキャストと呼ばれている)が採用。
  • 「GoA4」自動運転 (UTO : Unattended Train Operation) : 乗務員がいない(無人運転)形態。ゆりかもめなど新交通システムで採用。

このうち「GoA3」「GoA4」については、「踏切がない」「ホームドア」「外部から人が立ち入りにくい構造」という「技術的要件」を満たしていれば許可されている。

京浜東北線の「ATOを採用した運転士乗務のワンマン運転」は「GoA2」に分類できる。JR東日本はここから「GoA3」の「ATOを採用した添乗員乗務のワンマン運転」をめざす。しかし、京浜東北線はGoAの技術的要件を満たしていない。そこで「鉄道における自動運転技術検討会」は、独自に「GoA2.5」を設定した。「GoA1」レベルの路線で「GoA3」相当の自動運転とする形態だ。

  • 「GoA2.5」添乗員付き自動運転 (IEC定義無し) … GoA3の技術的要件がない路線で前頭に運転士以外の係員が乗務する。緊急停止操作、避難誘導を行う。

「鉄道における自動運転技術検討会」は、「GoA2.5」を認めるための技術的要件を検討し、中間とりまとめとする方針だった。具体的には「線路内の監視システム」「異常(火災や煙)の検知システム」「異常時の避難誘導」など。JR東日本がめざす京浜東北線の自動運転はここだろう。検討会は学識経験者のほか、JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州、JR貨物、西武鉄道、東急電鉄、東京メトロ、近畿日本鉄道、阪急電鉄、小湊鉄道、鉄道総合技術研究所、交通安全環境研究所、国土交通省が参加している。

「GoA2.5」が策定されると、既存の鉄道路線でも技術的要件を満たせば「添乗員付き自動運転」が可能になる。添乗員は運転士ではないため、動力車運転免許が不要だ。運転士の育成には、座学や訓練、試験が必要で、お金も時間もかかる。その一方で、少子高齢化に伴う人材不足により、今後は運転士の担い手が減ると見込まれる。ハードルの低い「添乗員」なら雇用しやすい。

「GoA2.5」の技術的要件は、資本力のあるJRや大手私鉄では満たしやすいが、本当に人材に困っている地方ローカル鉄道は導入しにくい。あるローカル鉄道では、「新人社員が動力車運転免許を取得すると、待遇の良い他社へ転職してしまう」という話も聞いた。「GoA2.5」がJRや大手私鉄で普及すると、動力車運転免許保持者の転職に歯止めがかかるかもしれない。もちろん将来的には、すべての鉄道で「GoA2.5」を導入できることが望ましい。JR東日本をはじめ各事業者の取組みに期待したい。