JRグループは5月20日、今夏(2016年7~9月)運転される臨時列車について発表した。当連載では、第4回で今春の臨時列車を紹介している。今回はサブタイトルを「春」から「夏」に変えて、ユニークな列車をピックアップした。今年の夏は津軽海峡と瀬戸内海がおもしろそう。そして北近畿のあの列車にも注目だ。

城崎温泉~久美浜間で今夏、新たに臨時快速「くみはまライナー」が登場。キハ41形(写真)またはキハ40形の気動車1両による運転だという

JR北海道、「ノロッコ号」健在も「旭山動物園号」が消えた

梅雨のない北海道の夏は最高の観光シーズン。JR北海道も北海道新幹線の開業を契機に稼ぎ時のはず。しかし、北海道新幹線の増発は最大3往復にとどまった。他の新幹線に比べると寂しい数字だ。臨時列車の設定は春と同じ3往復。同日運行数は最大2往復。下り新青森発13~16時台の3時間の空白は解消されなかった。運行本数を絞って乗車率を上げたいという意図だろうか。乗りたい時間に列車がなければ不便だ。

在来線では、富良野方面への臨時列車と「ノロッコ号」が活躍する。富良野は人気の観光地だけに、札幌駅から特急「フラノラベンダーエクスプレス」、旭川駅から「富良野・美瑛ノロッコ号」があり、2つの空港エリアと富良野を結ぶ。富良野駅から徒歩3分の「北の国から資料館」は、建物の老朽化のため、8月に閉館される予定とのこと。この夏はとくににぎわいそうだ。

釧網本線では「くしろ湿原ノロッコ号」が運転される。冬の「流氷ノロッコ号」の機関車DE10形は引退が決まっており、同じ機関車を使う「くしろ湿原ノロッコ号」の今後が心配だ。「富良野・美瑛ノロッコ号」はDE15形で、いまのところ老朽化廃止の報道はないけれど、同時期の製造だから油断できない。どちらもいまのうちに乗っておきたい。

「くしろ湿原ノロッコ号」は今夏も運転

「旭山動物園号」は今夏、運転休止に

残念なニュースは「旭山動物園号」の休止だ。旭山動物園の人気は衰えておらず、この列車も動物を描いた外観や遊び心のある客室のおかげで人気列車のはず。北海道新聞電子版によると、「車両の老朽化で点検、補修が必要になった」ため運休だという。状態の良い車両は特急「北斗」に回され、代替車両もない。稼ぎ時に稼げない。悲しい現実だ。

JR東日本、ジョイフルトレインを大量投入

JR東日本は各方面の新幹線や在来線特急列車を増発する一方、手持ちのジョイフルトレインをフル稼働させる。とくに「青森県・函館デスティネーションキャンペーン」(青函DC)向けの観光列車がにぎやかだ。デスティネーションキャンペーン(DC)とは、JRグループが指定した地域と一体になって実施する観光誘致運動だ。

DCの始まりは国鉄時代の1978年で、地域は和歌山県。キャッチフレーズは「きらめく紀州路」だった。以降、国鉄最終年度の1986年、JR発足時の1987年を除き、毎年実施されている。JR各社が全国でその地域を宣伝するほか、割引きっぷや臨時列車で観光客を送り込む。指定地域では自治体や観光業者が一体となってイベントに取り組む。

現在のように春夏秋冬、年4回の実施となったのは1998年から。キャッチフレーズの中には、「さわやか信州」「うるおいの新潟」「京の冬の旅」のように、キャンペーンを離れて認知度を高めた言葉もある。

2016年夏の青函DCは、北海道新幹線開通を絡めた地域設定といえそうだ。注目の列車の1つ目は「SL銀河青函DC号」。「SL銀河」として釜石線専用のように運行されているSL列車が、運行開始前の上野行に続き、2度目の遠征となる。

注目の列車の2つ目は「リゾートしらかみ蜃気楼号」だ。列車名の「蜃気楼」とは、車窓風景ではなく運行形態の「蜃気楼ダイヤ」を指す。始発駅を出発した後、途中の駅で折り返して経路をさかのぼり、もう一度引き返す。途中下車して観光しても、同じ列車に乗車できるというサービスで、1999年から2005年まで「リゾートしらかみ3号」で実施されていた。「蜃気楼ダイヤ」は鉄道ミステリー小説のトリックにもなった。16年ぶりの復活では、ディーゼルハイブリッド車両HB-E300系が使用される。

JR西日本、じつに意味深な「くみはまライナー」

JR西日本の夏の臨時列車、今年の特徴の1つ目は7月31日に走る「オーシャンアロー20周年号」だ。「オーシャンアロー」は283系の愛称で、現在は特急「くろしお」の一部列車で使われている。1997年から2012年まで、列車名も「オーシャンアロー」だった。列車名の「オーシャンアロー」としては4年ぶりの復活だ。

特急「くろしお」に使用される283系「オーシャンアロー」車両

「オーシャンアロー20周年号」は、12月31日まで続く20周年イベントの一環で運転される。20周年は節目としてはめでたいけれど、車両の耐用年数を考えると、この列車が最後の花道かと勘ぐりたくなる。

もうひとつ、今夏から走り始める快速「くみはまライナー」も興味深い。JR西日本と京都丹後鉄道の直通快速列車として、JR山陰本線の城崎温泉駅と京都丹後鉄道の久美浜駅を1日3往復する。途中停車駅は豊岡駅のみ。2社にまたがるとはいえ、城崎温泉~久美浜間は両駅を含めても5駅だけ。営業キロも21.2kmと短い。しかし、注目すべきは久美浜駅以外すべて兵庫県というところにある。

京都丹後鉄道の運行を担当するWILLER TRAINSが事業に関わる前の北近畿タンゴ鉄道では、豊岡~久美浜間が廃止される懸念があった。この区間があるために、兵庫県も第三セクターに参加しているけれど、兵庫県にとってこの区間は重要ではないようで、京都府が路線距離応分の負担を求めた経営対策補助金の拠出額を出し渋った経緯がある。そのため、京都府が兵庫県区間の廃止も検討したほどだ。

この状況の打開策を探った結果、北近畿タンゴ鉄道は線路施設保有会社、WILLER TRAINSが運行会社となり、現在の京都丹後鉄道としての運行となった。

快速「くみはまライナー」は、JR西日本と京都丹後鉄道にとって、宮福線の特急列車乗入れに次ぐ協業だ。しかし兵庫県区間に絞り、天橋立駅まで到達していないところから察するに、兵庫県に対するアピールともいえる。「くみはまライナー」が成功すれば、兵庫県も京都丹後鉄道の重要性を評価してくれるかもしれない。

京都丹後鉄道の宮豊線(豊岡~宮津間)・宮舞線(宮津~西舞鶴間)は、北近畿タンゴ鉄道の時代は合わせて宮津線と呼ばれていた。さかのぼって官営鉄道時代、宮津線は舞鶴の海軍基地の傷病兵が城崎温泉で療養するための移動手段であった。宮豊線・宮舞線とJR山陰本線の直通が成功し、少しずつ延長すれば、城崎温泉と舞鶴を結ぶルートの復活へ向けて発展するかもしれない。

JR四国は例年通り、JR九州は熊本地震の影響で寂しく

JR西日本・JR四国は瀬戸内国際芸術祭に向けて力を入れている。毎年運行する「瀬戸大橋アンパンマントロッコ号」の他に、宇野みなと線(宇野線)で運行中の「ラ・マル せとうち」が7~9月の毎週金曜日に瀬戸大橋を渡り、岡山~高松間の運行となる。

「ラ・マル せとうち」は自転車を積める観光列車としてユニークな存在だけど、瀬戸大橋を渡る列車ではサイクルスペースの使用は不可。従来の規定「輪行袋収納」となる。瀬戸大橋に自転車輸送の便宜があれば、しまなみ海道と組み合わせたサイクリング周遊ルートができるだけに、今後はサイクルスペースの活用も検討していただきたい。

「ラ・マル せとうち」

「瀬戸大橋アンパンマントロッコ号」

JR四国はお盆期間を中心に、特急「しおかぜ」「いしづち」の併結運転を休止。岡山駅発着「しおかぜ」の車両数が増える一方、「いしづち」とは宇多津駅・多度津駅で乗換えとなる。これは多客期の定番体制だけど、わかりやすい呼び方はないものだろうか。

JR九州は熊本地震の影響で控えめな発表となっている。九州新幹線の臨時列車は未定。毎年の報道資料に記載されるD&S列車の記載もなし。D&S列車は「九州横断特急」「あそぼーい」が運休となっている他は運行されているので、観光列車に乗って九州を応援しよう。なお、「あそぼーい」の車両は博多~門司港間で臨時特急として運行される。6月の運行日が拡大設定されたので、門司港トロッコ「潮風号」と組み合わせたい。

多客期の臨時列車は定番化が進んでいるとはいえ、デスティネーションキャンペーンに向けたユニークな列車など、意外な発見もある。詳細は本誌ニュースで紹介したほか、各社公式サイトのプレスリリースでも公開されている。宝探し気分で眺めてみよう。