ブルートレインが全滅、快速「ムーンライト」シリーズの運行も縮小気味で寂しい。そんなご時世に新たな夜行列車が発表された。JR新宿駅から東武日光駅へ運行される「日光夜行号」だ。「清々しい早朝に現地着」という旅が再認識され、「1泊分の費用が浮く」という部分で訪日観光客の獲得につながれば、夜行列車の復活につながるかもしれない。

  • 「日光夜行号」は東武鉄道の特急車両100系「スペーシア」を使用予定(写真は「日光詣スペーシア」。2015年4月撮影)

東武鉄道が8月20日に公開した報道資料によると、「日光夜行号」は10月5日(金)、10月12日(金)と、どちらも金曜日の夜に運行されるという。ルートは日中に運行している特急「日光」「スペーシア日光」と同じ。湘南新宿ライン・宇都宮線(東北本線)のルートから栗橋駅構内の連絡線を介して東武日光線に入り、東武日光駅に到着する。

使用車両は東武鉄道の特急車両100系「スペーシア」を予定しており、「スペーシア日光」の夜行版といえるだろう。ただし、途中停車駅は池袋駅・大宮駅のみ。運行時刻は新宿駅22時45分発・東武日光駅2時26分着。深夜のうちに到着してしまうから、まさに夜行列車だ。こんな時間に到着しても困りそうだけど、電車が到着した後、3時半頃まで車内に滞在できる。乗車時間は最大で4時間45分。もう少し眠っていたい気がする。

全車指定席で、乗車するには旅行会社が催行する旅行商品を購入する必要がある。東武鉄道、JR東日本の窓口ではきっぷを販売しない。企画販売する旅行会社は東武トップツアー、日本旅行、京王観光、クラブツーリズムの4社だ。

8月27日の時点で、各社の公式サイトはまだ「日光夜行号」に関するツアーを発表していないようだった。報道資料に「現地フリープラン型、初級~中級向けハイキングガイド付きコースや登山コースなど」と紹介されているだけだ。

ちなみに、東武鉄道では東武スカイツリーライン浅草駅から出発する「日光夜行号」も設定しており、10月13日(土)、10月19日(金)、10月20日(土)に運行する。こちらは東武トップツアーズが企画販売するツアー商品で、ツアー内容も紹介されていた。「日光夜行号」に接続する形で、東武日光駅から4時に出発するバスが2便ある。ひとつは「湯元温泉行きコース」で、中禅寺温泉、竜頭の滝などを経由して湯元温泉に5時15分頃に到着。もうひとつは「丸沼高原行きコース」で、中禅寺湖バスターミナルを経由して日光白根山ロープウェイに6時30分頃に到着する。

旅行商品には乗車駅から東武日光駅までの往復乗車券、バスの往復乗車券と、現地施設の割引特典がセットになっている。割引が適用される施設は日光自然博物館入館料、低公害バス、中禅寺湖機船、中禅寺金谷ホテルと日光アストリアホテルの日帰り入浴。料金は湯元温泉行きコースが大人7,800円(浅草発、こども5,200円)、丸沼高原行きコースが大人8,500円(浅草発、こども5,600円)となっていた。

  • 浅草駅始発の「日光夜行号」では、2次交通のバスが用意されている(国土地理院地図を加工)

JR新宿駅始発の「日光夜行号」についても、東武トップツアーズは同様の旅行商品になりそうだ。他の3社がどのような独自プランを提供するか興味深い。また、報道資料で触れている「現地フリープラン」も興味深い。片道を「日光夜行号」とし、帰路の乗車券を含めるところまでは予想できるけれども、現地の2次交通を含めるかどうか。

「日光へ行くなら『SL大樹』にも乗りたい」という鉄道ファンも多いことだろう。JR新宿駅始発の「日光夜行号」が東武日光駅に到着する10月6日(土)、10月13日(土)はどちらも「SL大樹」の運転日だ。下今市発の「SL大樹1号」は下今市駅9時2分発だから、東武日光駅8時31分発の電車に乗れば下今市駅に8時40分到着。じゅうぶん間に合う。

しかし、それまでの約5時間をどう過ごすか。ちなみに、東武日光駅の始発列車は5時1分発だから、それに乗るとしても1時間半も空き時間ができてしまう。暇つぶしの道具を持たずに行くなら、どちらかのバスに乗るコースを選び、観光した帰りに「SL大樹」に乗るコースがいいかもしれない。

JRの夜行列車見直しの契機になるか?

「日光夜行号」は団体貸切扱いの列車として、4つの旅行会社が相乗りする形で運行される。みどりの窓口ではきっぷを買えない列車だ。今回の2回の運行が好調だった場合、今後の増発も期待できる。そして、JRの他の区間にも影響を与えるかもしれない。

現在、JRクループの定期夜行列車は東京~高松・出雲市間の寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」のみ。夜行の臨時列車として快速「ムーンライトながら」「ムーンライト信州」がある。「ムーンライト」シリーズはかつて新宿~新潟間「ムーンライトえちご」や京都~博多間「ムーンライト九州」などが運行されていたけれども、現在は「ムーンライトながら」「ムーンライト信州」のみ。運行日も減少傾向にある。

一方、東武鉄道は長距離路線の特徴を生かし、1955(昭和30)年から「日光山岳夜行」を運行している。1986(昭和61)年からスキー列車として「スノーパル」、翌1987(昭和62)年から「尾瀬夜行」を運行開始。「日光山岳夜行」は1998(平成10)年に休止したけれど、2016(平成28)年に「日光夜行号」として復活した。

現在、冬期は「スノーパル 23:55(ニイサンゴーゴー)」、夏期は「尾瀬夜行 23:55(ニイサンゴーゴー)」と、それぞれ浅草駅発車時刻にちなんだ名称で呼ばれている。秋の「日光夜行号」は「23:55(ニイサンゴーゴー)」と付かないけれど、浅草駅23時55分発で、冬期・夏期と同じダイヤを使っている。

つまり、東武鉄道は「観光地向け夜行列車に一定の需要があり、旅行商品と組み合わせれば運行を継続できる」という実績と経験を持つ。JR(と旧国鉄)は移動手段に徹するという考え方だけで夜行列車を運行し、それだけで役目を終わらせてしまった。夜行列車は人気の高い「サンライズ」系統と期間限定の「ムーンライト」系統、高付加価値のクルーズトレインが残るのみだ。

しかし、JR新宿駅始発の「日光夜行号」が実績を作れば、JRグループも東武鉄道の方式を見習い、他の区間でも夜行列車を検討してくれるかもしれない。たとえば富士急行と連携した「富士夜行」、小田急電鉄と連携した「御殿場夜行」はどうだろう。早朝から清々しく活動できる目的地があるし、1泊を夜行にすれば宿泊費を節約できる。これは訪日外国人観光客にとっても魅力的になるのではないか。

既存の「ムーンライトながら」などは「青春18きっぷ」利用者が多く、規定の座席指定券のみで利用できるため、採算面で厳しい。また、安価な座席指定券を転売者が買い占め、オークションサイトで高額で取引されるなどの問題もある。しかし旅行商品となれば、これらの問題点は解決できそうだ。JR新宿駅始発の「日光夜行号」は、夜行列車が見直されるきっかけになるかもしれない。成功を祈る。