黒字鉄道事業者の赤字路線が被災した場合、復旧に国の支援を可能にする法案が衆議院で可決された。今月中にも参議院を通過し、成立する見込みだ。

営業赤字の鉄道路線が地震や津波など激甚災害に遭った場合、2つの運命が待っている。復旧して存続させるか、この機会に廃止するか。さらに鉄道事業者の経営状態にも左右される。赤字の鉄道事業者の場合は復旧しやすく、黒字の鉄道事業者の場合は廃止されやすい。これは単純に考えれば逆のような気もする。「赤字の鉄道事業者は復旧費用を負担できないから路線廃止」「黒字の鉄道事業者は利益を配分して路線復旧」ではないのか。

残念ながら違う。赤字の鉄道事業者の場合、国が復旧費用を支援する仕組みがある。自治体も鉄道事業者の負担も低く、被災した鉄道路線を復旧させやすい。一方、黒字の鉄道事業者に対しては国が支援できなかった。「黒字だから自分で直しなさい」というわけだ。これが従来の鉄道軌道整備法だった。

  • 豪雨災害で会津川口~只見間が不通となっている只見線も、鉄道軌道整備法の一部改正により、復旧に向けて政府の支援が見込まれる

しかし、黒字の鉄道事業者にとって、赤字路線に資金を投入して復旧させても、また赤字運営が続くことになる。路線復旧は赤字の種に水と肥料を注ぎ込む無駄な行為。上場会社であれば、赤字前提の事業に対する投資など、出資者たちが納得しない。株主は赤字を増やす施策は認めない。利益を配分してほしいからだ。

その結果、東日本大震災で復旧した三陸鉄道と、BRTに転換したJR東日本の被災路線の扱いが大きく変わった。2011年の福島・新潟豪雨で被災した只見線も、JR東日本は鉄道での復旧をためらった。JR九州も豪雨災害に遭った一部路線の復旧を踏みとどまっている。

そこで、黒字の鉄道事業者についても、地域のために赤字路線を支えてくれるなら、復旧費用は政府が支援できるようにしよう。これが第196回通常国会で審議されている「鉄道軌道整備法の一部を改正する法律案」だった。具体的には第8条第8項、第14条、第15条が変わる。条文がどう変わるか見てみよう。

  • 鉄道軌道整備法の修正比較

現行制度は被災路線の事業者を対象としていた。政府の支援の条件は次の通り。

  • 復旧費用が被災路線の年間収入の1割以上
  • 事業者が過去3年間赤字、または災害により今後5年を超える赤字が見込まれる
  • 被災路線が復旧費用を含めると赤字になると見込まれる
  • 事業者は、協議会などにより国及び地方公共団体と意見調整を図る。補助申請の際に関係地方公共団体の長の同意書が必要

国の支援補助金は復旧費用の4分の1で、関係する地方公共団体と同額とする。つまり事業者が2分の1の負担となるけれども、この事業者負担分は沿線自治体が支援する事例が多いから、実際には鉄道事業者の負担はかなり少ない。また、地方自治体負担分も地方債で実施すれば、地方交付税交付金を充当できるため、実質負担は少ない。ほとんど国が復旧費を負担する形になる。

修正案は、現行制度は維持したまま、黒字鉄道事業者の被災路線も補助の対象とする。支援の条件は次の通り。

  • 補助対象路線の被災は、激甚災害その他これに準ずる特に大規模の災害である。
  • 災害復旧事業の施行が、民生の安定上必要であること。
  • 復旧費用が被害を受けた路線の年間収入×政令で定める数(1.0 を想定)以上。
  • 被害を受けた路線が過去3年間赤字
  • 事業者は、協議会などにより国及び地方公共団体と意見調整を図る。補助申請の際に関係地方公共団体の長の同意書が必要
  • 長期的な運行の確保に関する計画を作成すること

激甚災害は国が激甚災害法にもとづいて指定する災害であり、これに準ずる災害とは、国土交通大臣が指定した災害である。激甚災害法の判断によらず、被災路線の復旧を促進するねらいがあるとみられる。

国の支援補助金は復旧費用の4分の1で、関係する地方公共団体と同額とする。これは赤字事業者の路線と同じ。ただし、事業構造の変更などで経営を改善できるなど、国土交通大臣が特別に認めた場合は、国の補助金が3分の1まで引き上げられる。これは、上下分離化などで路線の一部、または全区間が黒字鉄道事業者の管轄から離れるような場合だ。「黒字鉄道事業者の路線でなくなるなら、もっと補助してもいいよ」ということになる。

興味深いところとして、新たに対象となった「黒字鉄道事業者の赤字路線」について、補助金を受け取った事業者は「配当の許可制」の対象外となった。

現行制度で補助金を受けた鉄道事業者について、「資本金の5%を超える配当を実施する場合は、国土交通大臣の許可が必要」と定められている(第15条)。補助金を受けた会社が補助金で増した固定資産の価値を超えて利益を得た場合、利益の半分を国庫に返納しなくてはいけないと定められているからだ。「補助を受けた後で儲かっちゃったら国庫に返してね」という建前だから、「一定以上の利益を配当する時は許可を取ってね。勝手に配当しちゃだめよ」ということになる。

しかし、「配当の許可」を黒字の鉄道事業者に適用するとどうなるか。もともと黒字であるから、株主への配当は当然で、業績が良ければ配当は高くなるはず。ただし補助金で被災路線を復旧したために、配当金額に制限がかかるとなれば、株主たちは「配当の制限がかかるなら、被災路線の復旧はするな」と考える。路線の復旧をしない方針を株主提案し、議決される可能性がある。そこで、被災路線の復旧については「配当の許可に該当しない」と定め、株主が路線復旧の邪魔をしないようにしたわけだ。

過去の被災路線も対象

修正案では「平成28(2016)年4月1日以降に施行した災害復旧事業についても適用」とある。つまり、今後の被災路線だけではなく、過去の被災路線に対しても適用される。ただし、平成28年4月1日以降に「被災した」ではなく、「災害復旧事業を施行した」である。この条件で、適用できる、適用を期待できる被災路線は以下の通りとなる。

  • 只見線 会津川口~只見間(JR東日本) : 2011年7月被災(豪雨)。2017年6月復旧合意、2018年6月着工
  • 日田彦山線 添田~夜明間(JR九州) : 2017年被災(豪雨)。沿線自治体と復旧合意に至らず。法改正が復旧への後押しになるか
  • 豊肥本線 肥後大津~立野間(JR九州) : 2016年4月被災(熊本地震)。JR九州の全額負担を前提に復旧工事中

なお、JR東日本の山田線宮古~釜石間や常磐線富岡~浪江間、BRT転換路線(気仙沼線、大船渡線)など、すでに復旧の枠組みが決まり、2016年4月1日より前に復旧工事を開始した被災路線は対象とならない。

鉄道軌道整備法の適用条件は、「災害復旧事業の施行が、民生の安定上必要であること」とある。つまり、過疎化が進み、利用者が極端に少ない路線の場合は適用されにくい。民生の安定とは、沿線人口の増加、鉄道利用の促進、観光需要の喚起など、今後利用者の増加が見込めるという前提である。沿線自治体が鉄道の存続を望み、鉄道事業者がその意思をくみ取ることで、補助金の申請が行われる。

黒字鉄道事業者の赤字路線が必ずしも復旧されるわけではない。復旧しやすくなる、という法改正だ。しかし、鉄道の復旧を望む人々にとって大きな改革となった。