3月10日、国土交通省とJR東日本は、常磐線の全線運行再開について2019年度末の見通しと発表した。長らく分断されていた幹線鉄道がやっとつながる。国土交通省の発表は、5日に福島県の被災地を視察した安倍総理大臣の指示を受けている。JR東日本の発表は国土交通省の発表に足並みをそろえた形だ。
本来、鉄道の復旧は鉄道事業者が計画し、監督官庁である国土交通省に報告。重要路線であれば首相がコメントするという時系列になる。しかし常磐線に関してはその逆となった。理由は、復旧工事再開区間の中に福島第一原子力発電所事故による放射能汚染地域があったからだ。国や自治体の除染や通行制限解除が実施されるまで、本格的な復旧工事に着手できないという状況だった。
しかし、JR東日本はこの状況を放置していたわけではない。避難指示解除準備区域について、小高~原ノ町間は2016年春に運転再開予定。浪江~小高間も2017年春の運転再開をめざして工事中だ。
最難関は福島第一原子力発電所に最も近い帰還困難地域を含む富岡~浪江間だった。空間線量が高い場所があり、除染などによる解決が重要課題となっていた。そこで、2015年8月から除染試験施工を実施し、効果的な除染方法を検証した。同時に損傷した設備の撤去、橋梁などの設計準備をしていた。
JR東日本は3月2日、常磐線を含む東日本大震災関連の復旧工事について情報を公開した。おそらく、その前日までに国土交通省に対して報告が行われたはずだ。その結果として、2日午前の記者会見で菅官房長官が「1日も早い全線開通に向け取り組む」とコメントした。福島民有新聞は2日の電子版で、常磐線の全線再開が2020年春に決まり、5日に安倍総理が福島県で表明すると報じ、その通りになった。安倍総理は10日の会見でも同様の決意を表明している。
つまり、常磐線全線開通については、JR東日本、国土交通省、首相官邸の順で情報が共有され、総理大臣の表明、国土交通省の発表、JR東日本の発表という順序となった。
なお、常磐線原ノ町駅には、東日本大震災で不通になって以来、特急形電車651系4両と近郊形電車415系4両が残っている。車両基地に戻れず置き去りになり、風雨にさらされていた。これらの車両は解体と決まったようで、14日から撤去作業が始まっている。読売新聞電子版によると、搬出先は郡山市にあるJR東日本の施設とのこと。
搬出先が白河市であれば、JR東日本総合研修センター内の非公開施設「事故の歴史展示館」に保存展示という可能性もあるけれど、白河市ではなく郡山市だから、やはり解体の方向のようだ。
全線開通後の常磐線特急はどうなる?
JRグループは震災翌日の2011年3月12日にダイヤ改正を予定していた。JR北海道とJR東日本は前年12月4日に東北新幹線「はやぶさ」の運行を開始するため、これに合わせたダイヤ改正を実施済みだった。ただし、JR東日本は2011年3月12日のダイヤ改正で南武線関連を中心に、快速の増発と停車駅変更を実施予定だった。この改正は約1カ月遅れの4月9日に実施されている。
常磐線については大きな変更予定はなかったようだ。しかし、ダイヤ改正の発表以前の2010年12月に、常磐線向け新型特急車両E657系の導入を発表していた。2012年春から投入し、2012年秋までに651系と入れ替える予定。特急列車の運行系統を新型車両と651系による上野~いわき間と、E653系によるいわき~仙台間に分割するという内容だった。
いわき~仙台間の特急列車は新しい愛称にする予定だった。上野~いわき間は新型車両に入れ替わるという情報だけだから、愛称は「スーパーひたち」「フレッシュひたち」を継承するつもりだったようだ。しかし、東日本大震災の影響で、常磐線のいわき駅以北の特急列車が運行再開されないまま、事情が変わった。新しい特急列車の愛称もまだ発表されていない。
その後、上野~いわき間の特急列車は、速達型の「ひたち」と停車型の「ときわ」に再編された。車両はすべてE657系となって、651系とE653系の定期運用を終了する。651系の一部は大宮車両センターに転属し、特急「あかぎ」「スワローあかぎ」「草津」として運用中。残りは勝田車両センターに残って臨時列車などに使われている。E653系は新潟車両センターへ転属し、特急「いなほ」「しらゆき」などで運用中だ。
2020年春に常磐線が全線開通した場合、いわき~仙台間の特急が復活するだろうか。復活するとしたら、車両はE657系か、それとも651系の復活となるか。いや、観光振興のためには新型車両投入も期待したい。4年先のことだけど、こちらも興味深い。