プレゼンテーションでは、聞き手の「タイプ分け」が重要ってご存じでしょうか? というのは、全く同じプレゼンテーションをしても、聞き手によって反応が違うから。
営業でプレゼンテーションをする方は経験があると思いますが、同じ資料・同じトークをしても、ある人は「なるほど!」と言ってくれるのに、別の人は、「ふ~ん、それで?」と反応が薄いというのは、よくあることです。
聞き手のタイプにあわせたプレゼンテーション
これを解決するのがタイプ分け。相手のタイプを見抜いた上で、「この人にはこういう言い方」と使い分けができるようになると、プレゼンテーションのしやすさが段違いに上がります。例えば、タイプ分けの中で有名なものが、「ソーシャル・スタイル」です。
意見を言うか・言わないか、感情を表に出すか・出さないかの二軸で4つに分けたもので、タイプごとに好みのコミュニケーション・スタイルが決まっていると言われています。例えば、左上の「ドライビング」タイプだったら、無駄話で時間を使わずに要点をズバリと言う、逆に左下の「アナリティカル」タイプだったら、物事を順序立てて説明するなどです。
動機が分かれば説得できる
これはこれで重要なのですが、プレゼンテーションの際にはもっと「効く」タイプ分けがあるというのが今回のテーマです。というのは、プレゼンテーションの目的は、あくまでも「聞き手に期待した行動をとってもらうこと」だからです。
日本人のプレゼンテーションはともすれば、「人前で話すこと」が目的化してしまって、話し終わると「ご清聴ありがとうございました」となりがちです。でも、実際のところは、プレゼンテーションは、自分が話したことが聞き手に伝わり、納得してもらって、行動に変わるところまで狙うべきであり、これを私たちは「LeADER(リーダー)原則」と言う言葉に託してお伝えしています。
そして、この観点で聞き手のタイプ分けを考えたとき、聞き手のモチベーション、つまり、「その人は何によって行動に駆り立てられるのか」まで考えるべきだと気づきます。これを研究した結果が、「モチベーション・マトリックス」と名付けたタイプ分けです。
人間の動機づけを、その源泉が外部にあるのか・内部にあるのか、理性的か・感情的かで分けたもので、タイプごとに「攻略法」が見えてきます。例えば、右上の「損得勘定」。これは、その名の通り、物事を判断するときに、「自分にとって得になるなら行動するし、損になるならばやらない」と考えるタイプです。もしプレゼンテーションの聞き手がこのタイプだったら、とにかく相手の得になることを証明すれば、こちらの期待した行動をとってくれます。
前回もサンプルとして取り上げた、パソコン用のアンチウイルス・ソフトの営業マンを題材に考えてみましょう。プレゼンテーションの際には当然「そのソフトを導入すればお得になりますよ」とアピール。あるいは、「これを導入すると御社が損しませんよ」というアプローチもアリです。はたまた会社全体の損得ではなくて、その個人の損得に置き換えて考えても聞き手を動かすプレゼンテーションができます。
具体的には、「このアンチウイルス・ソフトの性能を見れば、上司も納得であなたの目利きを認めてもらえますよ」「最先端のソフトを導入した実績で、セキュリティ(危機管理)の第一人者として社内の発言力が増しますよ」など。金銭面や会社にとってと言う制約条件にとらわれず、聞き手の損得を刺激するのがポイントです。
タイプにあわせたプレゼントーク
一方で、このようなアプローチはモチベーションのタイプが承認欲求の人には通用しません。どれほど得になるからと言われても、「まぁそうですね」というそっけない反応ばかり。このタイプの人は、「周りから認められる」ことが大事ですから、このソフトを導入することによっていかに周りの人に認めてもらえるか、あるいは、いかに感謝されるかというところにフォーカスしましょう。
営業トークならば、「このソフトを導入することによってウイルス感染がなくなってみんなに感謝されますよ」「皆さんに安心できる職場環境を提供するって大事ですよね」などが承認欲求タイプに響くプレゼンテーションです。
更に今度は右下の規範意識タイプが聞き手の場合を考えてみましょう。「規範」と聞くと、ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、要するに物事を正しいか正しくないかで判断するタイプです。この観点では、「大義名分型」と言い換えても同じです。この人には先ほどのような損得を言ってもピンとこないし、かといって周りから認められるというのも、「いやいや、そういうことは関係ないだろう。そもそも……」なんて始まって、心には響かないものです。
むしろ、規範意識が強いタイプには正攻法。「そもそも企業としてウイルスに対策を講じていないのはおかしい、ましてや最近のウイルスは被害者だけでなく加害者になってしまう可能性があるわけだから、より念を入れて対策すべきだ」と説明してみましょう。これならば、「なるほど。それはもっともだ」と納得してくれますし、ひょっとしたら、「お客にも媚びずに正論を言える、なかなかの人物だ」と信頼を勝ち取ることもできるかもしれません。
そして、最後の好悪感情。実はこのタイプはもっとも攻略するのが難しいのです。なぜならばモチベーションの源泉が内面、しかも感情的なものだから。要するに好きか嫌いかによって物事を判断するタイプで、いちど嫌いになったらどれだけ理屈が通ってようと「嫌なものは嫌」と言ってしまう人です。このタイプに対しては、プレゼンテーションの内容でアプローチするのは難しくて、むしろ最初に紹介したソーシャル・スタイルに戻って、いかに相手の好きなスタイルにあわせるか、結果として相手に好きになってもらえるか、で勝負した方がうまくいくものです。
ここまで来れば、モチベーション・マトリックスによるタイプ分けが「効く」、つまり、LeADER原則にのっとり聞き手を動かすのに有効だとお分かりいただけるかと思います。
ただ、このタイプ分けは短時間で見抜けるものではなく、ある程度時間をかけて相手と会話を交わしながら探っていくものです。これが弱点と言えば弱点で、逆に、最初に紹介したソーシャル・スタイルは名刺交換をするだけでも相手のタイプを見抜けると言う説もあるぐらい。したがって実務上は、初対面のウチはソーシャル・スタイルで相手にあわせたトークをし、相手を知るにつれてトークの内容を変えていくというのが正しい使い方です。
執筆者プロフィール : 木田知廣
シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。米国系人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにてコンサルタントとして活躍した後英国に渡り、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事する(2001年MBA取得)。帰国後は、社会人向けMBAスクールのグロービスにて「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、苦闘の末に前身的なプログラム、GDBAを2003年4月に成功裡に開校にこぎつける。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、自ら教壇に立つとともに後進の講師の養成を始める。ライフモットーは"Stay Hungry, Stay Foolish" (同名のブログを執筆中)。