すべての鉄道写真の基本ともいえる編成写真。その中でも上級者向けの構図「インカーブ」について、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真家、長根広和さんにうかがった。編成写真の撮影技術の中で、初心者もチャレンジすべきことについてもあわせて解説する。腕前や機材にかかわらず、走っている列車を撮影することに親しんでみよう。

線路際から4mを目安に十分離れる

大分県内のJR日豊本線を走る883系「ソニック」号。九州の特急を代表する個性的なデザイン

カーブした線路の内側から外側向きにカメラを構え、せり上がるように近づいてくる列車の迫力をとらえた編成写真を、鉄ちゃんは「インカーブ」と呼ぶ。

「インカーブ」を撮影するための最初のハードルが、撮影地探し。「電化区間では、車体にポールがかかるのを避けるために、単線、片ポールの場所で撮影するのが基本です」と長根さん。撮影に適したレンズは標準系で、理想的なのは50mmだ(35mm判フイルムカメラ換算。以下同様)。

この画角だと、シャッターを切るタイミングは、列車が間近まで接近したときになる。安全のため、線路から十分に離れなければならないということを決して忘れずに。さらに、長根さんが注意すべき点としてあげる項目がもう1つある。それは「線路際ギリギリに立つと、顔だけが大きく写り、編成写真とはいえないバランスになってしまいます」ということだ。離れる距離の目安は、線路もうひと幅分(レールの幅ではなく、敷石部分の幅)。具体的には犬走り(敷石の外側にあるコンクリートの部分)から4mほど。そして、全編成をバランスよく構図に入れるためには、「早めに撮影地に到着し、ダミーの列車で構図を確認するのが確実です」とのことだった。

シャッタースピードは1/2000以上

次に、露出を決める。「とにかく、高速シャッターですよ! 」と長根さんは強調する。「接近してくる列車は、見かけの速度が非常に速くなっていますよね。被写体ブレしないためには、最低でも1/2000は必要です」。絞りは、上の写真の場合は車体が濃い青だったので、TTL(カメラが適正とした絞り値)より2/3ほど開き、F3.2とした(ISO200)。作品をよく見ると、背景がトビ気味であることに注目してほしい。そして、架線に置きピンし、列車の通過を待つのだ。

このケースでは、連写せず一発勝負で狙いたいと長根さんは言う。「1秒間に3~5コマくらいの連写では、全部ハズレになってしまう恐れがありますよ。連写するには、秒間10コマは撮れるカメラが必要です」。一発勝負またはプロ並みの機材。どちらも敷居が高く、ややぐったりする筆者だった。

最後に気分を変えて、機材を問わずにチャレンジできる、編成写真の基礎中の基礎とは何かをうかがった。それは「列車の顔にピントを合わせること、最後尾まで切れないように画面に入れること。そして、列車の前後に、適度な空間がある構図を作れるようになることです」。

この3点を意識して走行中の列車を撮影してみよう。旅行先などでたまたま列車が来たとき、身体の反応が変わってくるはずだ。

同じ場所から広角レンズで撮影したイメージ写真

夕方になり、編成写真の撮影には光量不足になったため、同じ形式の列車をイメージ写真として撮影した。16-35mmズームの20mm近辺、1/3200、f3.2(ISO200) ※長根さん撮影

レンズが広角になればなるほど、列車は小さな顔にデフォルメされる。そして、速いシャッタースピードが必要になる。「これは、最初の写真と全く同じ立ち位置で、少しだけ低いアングルから撮影したものです。レンズの選択とアングルで、車両の描写がこんなに変わるんですよ。編成写真に適しているレンズは、広角側は35mmくらいまでだと僕は思います」。