急速に日本社会の高齢化が進む中、それに比例するように増加傾向にあるのが、「相続時トラブル」。親の死をきっかけに、それまでの介護や遺産相続が原因となり、家族までもがバラバラになってしまった……という例は少なくありません。

  • 相続時トラブルを避けるために

そんな悲劇を生まないためにも大切なのが、「もしも」の時のための「早めの備え」。親に介護や相続の話をするのは気まずいものですが、それは、トラブルを回避するということ以前に、親の意思を尊重することであり、一方で、節税につながることもあるのです。

2028年ごろ、団塊の世代は80歳前後となり「大相続時代」が到来するといわれています。実際、統計でも遺産分割の事件数は増加しています。

年度 遺産分割事件数(総数)
平成12年 8,889
平成16年 9,286
平成20年 10,202
平成21年 10,741
平成22年 10,849
平成23年 10,793
平成24年 11,737
平成25年 12,263
平成26年 12,577
平成27年 12,615
平成28年 12,179
平成29年 12,166

出典:最高裁判所刊行 司法統計年報 3家事編

そんな、誰もがいつかは直面する「相続」について、弁護士ドットコム執行役員で弁護士でもある田上嘉一さんの監修の下、知っておきたい大事なポイントをお届けします。

  • 弁護士ドットコム 執行役員 弁護士 田上嘉一さん

親の「財産」に関する考えを聞く

あなたは、自分の親の財産状況について、どれだけ知っていますか? 預貯金、不動産、株式や投資信託など、どこに、どんな形で、どれだけあるのか……どんな保険に入っているのか……これらを明確に把握しているという人は、まずいないのではないでしょうか。

親は「もしものときに子どもに迷惑をかけないよう準備している」と言います。でも、そのもしものときが今訪れてしまったら……親がどんな思いでどんな準備をしているのかをあらかじめ子が把握していなければ、いざというときに適切かつ迅速な対応はできません。

親の介護や相続は、ある日突然やってくるもの。そんな「もしものリスク」に備え、親が元気なうちに、子が親の財産について把握しておくことは、大事なことなのです。

とはいえ、面と向かって親に財産の話を聞く、というのは誰しもやっぱり気まずいもの。そこで活用したいのが「エンディングノート」です。

エンディングノートをすすめてみよう

エンディングノートとは、人生の終わりを迎えるにあたり、自身の思いや希望を確実に家族などに伝えるためのノート。

終活という言葉の広がりとともに認知度は高まっており、2018年1月に楽天インサイトが行った「終活に関する調査」によると、エンディングノートを知っているという人が51.9%、聞いたことがあるがよく知らないという人が30.9%と、8割以上の人が存在を認知しています。

しかし一方で、実際には86.9%が用意していないという結果も。まだあまり活用されていないのが現実のようです。

ちなみに、このエンディングノートは、遺言とは違って、決まった形式や様式はなく、書き方も内容も自由、法的効力もありません。

今ではさまざまなタイプのものが市販されており、それらを利用すれば、財産のこと、医療や介護のこと、葬儀やお墓のこと、家族や親族のこと、自分自身のことなど、記しておくべき項目がすでに用意されているので、それほど気負わずに書き始めることができます。

そんなエンディングノートを帰省の際などに親に渡してみる、というのも、もしものときに備えて親に財産に関する考えを聞くための、一つの方法、きっかけになるかもしれません。

確認しておきたい「お墓」と「借金」のこと

親の財産状況を確認する際に、特に聞いておきたいのが「お墓」と「借金」のこと。どちらも、相続時にトラブルになりやすいポイントなのだそうです。それぞれについて、弁護士の田上さんに解説していただきました。

●お墓について
お墓は「祭祀財産」となり、相続の対象にはなりません。相続の場合とは異なり、「祭祀承継者」に選ばれた人物が、お墓を承継することになります。

祭祀承継者は、その地域や一族の慣習に従って決定されますが、被相続人があらかじめ祭祀承継者を指定することも可能です。祭祀承継者に選ばれた場合には、お墓の維持管理や、法要の主催等を取り仕切る必要がありますので、誰を祭祀承継者に選ぶかは、慎重に決定する必要があります。

●借金について
相続が発生すると、相続人に受け継がれる財産は、プラスの財産のみではありません。被相続人がマイナスの財産、すなわち、借金といった負債を抱えている場合には、その負債も相続人に相続されることになります。

相続財産のうち、プラスの財産をマイナスの財産が上回ってしまっている場合、相続をしてしまうことは相続人にとって「損」をしてしまうということになります。この場合、相続人は「相続放棄」をするべきですが、相続放棄は、「相続があったことを知った時から3か月以内」に行わなければなりません。

この期間を過ぎてしまうと、自動的に相続することを認めたと扱われることになります。

このように、相続放棄には期間制限がありますので、相続が発生する前に、事前に相続人の負債状況を確認しておく必要があります。

なお、相続放棄をした人は、「はじめから相続人ではなかった」という扱いになり、プラス・マイナス含め、全ての遺産を引き継がないことになります。「貯金と不動産は欲しいけど、借金だけ放棄したい」というように、部分的に放棄することはできません。

受け継いだ人に金銭的な負担が強いられる、お墓と借金。特に借金は、恥ずかしい、知られたくないという思いから、生前は家族に内緒にしているという人も少なくないようです。

しかし、その認識の有無やズレが後のトラブルの元。後悔や苦労をしないためにも、親が元気なうちに、その状況や思いについて、しっかり確認しておくことが大切です。

監修者

田上 嘉一(たがみ よしかず)

弁護士、弁護士ドットコム執行役員 早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。大手渉外法律事務所にて企業のM&Aやファイナンスに従事し、ロンドン大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。知的財産権や通信法、EU法などを学ぶ。日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や企業法務ポータルサイト「BUSINESS LAWYERS」の企画運営に携わる。TOKYO MX「モーニングCROSS」などメディア出演多数