女子は京都が好きだ。京都特集はもとより、とくに一人旅は京都に行くと相場が決まっているらしく、女性誌でそんな企画を散見する。かわいい小物に購買意欲をそそられ、一子相伝の味に食欲をそそられ、文化と歴史に脳みそを刺激される場所、京都。

私は以前、1年ほど京都の大学に通おうとして、仕事先に「京都に住んでもいいですか」などと確認をとったりして、真剣に準備をしていたことがある。どこに住もうか物件をあれこれ探して夢想したあげく、準備でおなかいっぱいになってしまったので行かなかったのだが、さいとうちほの『ほのかにパープル』という漫画には「京都にある大学の万葉図書館」という萌え図書館が登場するし、京都に留学したという関東女性を知っているので、特に「京都で勉強」というのはヲトメ萌えであるようだ。

そんな萌えを体現したのが、『サード・ガール』の大沢くんだ。彼は神戸出身の美少年。ほんわかした優しいムードの男の子だが、「京都で勉強するのが夢なんだ」と言い、「目的と手段を勘違いしているような奴らには負けないよ」と言って京都大学に受かってしまう。物腰が柔らかくて、でも真のしっかりしている男の子なんて、最高じゃないか。女で例えたらどんな感じなんだろう。料理のうまい巨乳みたいな?

美少年だが純朴で、夜梨の前ではいつまでたっても照れ照れで初々しい大沢くん。が、意外としっかり者な面を見せたりして中盤、おそらく読者の好感度をぐっとアップさせたはずだ。そして後半、彼は少女漫画でもっともやってはいけないことをやらかすのである。それは「ほかの女に乗り換える」だ。

相手は、同じ京大の先輩、千年屋。さらさらロン毛の京女である。ああ憎らしい。カワイイ後輩の大沢に目をつけた千年屋は、猛烈なアタックを仕掛けるのだ。大沢に女がいると知れば、神戸まで大沢に連れて行ってもらって、夜梨にトイレで「私も大沢くんのこと好き」などと宣戦布告。クリスマスイブに帰郷する大沢を翌日京都に呼び戻し、本人にも「大沢くんが好き」と大告白。ちなみにここで大沢、「僕が年下だから、こんなにはっきり言えるのかな?」などと言っているが、やはりお前は甘すぎる。自分に自信がある奴は、年下だろーが年上だろーが、どっかんどっかん押すもんなのだ。

それでも、まだ救われるのは千年屋がとても優秀な女だということ。これで大沢がブリブリ媚び女にかっさわれたとしたら、漫画自体が台無しだ。美人で京大で、自信家。人がよくて素直が特技のような夜梨には、到底かなうまい。夜梨が「大沢くんも忙しいと思うの」などと言って会うのを控えてるうちに、千年屋は大沢の都合なんかお構いなしに、強引に自分との距離を縮めていく。恋愛において、いい人は武器でもなんでもないどころか、むしろ障害なのだ。

こうして失恋した夜梨に、すばらしいことわざが与えられる。すなわち「失恋には日にち薬と男薬」である。このことわざに、私は何度救われたことか。楽しかった日々がもう二度とこないことが決定的になり、中心を失って立つことも歩くこともできなくなっても、時間が経てばこの病気は治るんだということを思い出させてくれる。

また男薬も活用した。ご飯を食べに連れて行ってもらって、愚痴を言うわけでもなく泣くわけでもなくても、男と一緒にいるということ自体が抗生物質のようによく効くのだ。これは『ハッピー・マニア』のフクちゃんも飲んでた薬である。ヒデキと壊れたとき、昔の男をホテルに呼び出して(エッチは断って)胸を貸してもらっている。エッチなしというところがまたポイントだな。ちなみに男薬のほうは、飲み過ぎはダメらしい(笑)。

ということで次回は、夜梨のお兄さん的恋人である涼さんの恋人、美夜の結婚観について。
<つづく>