私の母は、いわゆる専業主婦である。彼女が若かった時代には「結婚しない(できない)で仕事をしている女」は、もう哀れで仕方がない存在だったようだ。なのに自分の娘がその哀れな状態になっていることが、非常にかわいそうでたまらないらしい。しかし、遂にいろいろと譲歩をしたらしく「60歳くらいになれば、離婚したり死別したりしたいい男性が現れるわよ」などと言い出した。えっと……本人はまだそこまであきらめてないんですが。

おかしな話だけど、時代によって、恋愛や結婚の流行というのがある。自分が必要とする伴侶や恋愛に対する姿勢って、どんな時代でも変わることがないはずだと思うのだが、バブル華やかな時代は、若い女と既婚男との不倫、バブルがはじけて男が貧乏になり、女の社会進出が進むと、年下男が解禁になった。時代によって人の価値観は変わるということだ。浅はかなもんだな。

こうした時代とトレンドがありありとわかる作品がある。西村しのぶの『サード・ガール』だ。この作品は、掲載された雑誌がことごとく廃刊になるという憂き目にあい、巻数の割に連載期間が長かった。そのため、バブル真っ盛りから崩壊後までの、恋愛トレンドをしっかり描ききることになったようだ。西村しのぶは現在、レディスでスタイリッシュな漫画をポロポロと描いているが、もとはこの『サード・ガール』が、漫画通にウケて人気が出た作家だ。

この物語の主人公は、夜梨。彼女が中学生のころ、大学生の涼さんと付き合い始める。といっても、涼には美也という彼女がいる。しかし夜梨は、美也込みの涼を好きだと言い、美也も「あの子ならいいわ」と、夜梨と涼の仲を了承する。一方、夜梨のほうは高校生になると「初体験はいつか涼さんと」と言いながら、同い年の大沢くんとお付き合いを始める。こうして涼、大沢くん、そして友達のたのこたちと楽しく過ごしながら、中学生だった夜梨が短大生になるところまでが描かれている。

社会人と女子高生の交際、しかもお互い二股。こう書くと、なんともいかがわしい感じだけど、当時はまだ「援助交際」なんて言葉がなかったころ。夜梨は涼さんとも大沢くんともプラトニックで、エロいムードなどかけらもなく、全体的に非常におしゃれ感が漂っている。なんか、去勢されたイケメン男子がぞろぞろ出てくる話って、安心感があっていいね。

正直、序盤はけっこうオタク色が強くて読むのが辛いんだけど、新装版5巻あたり、夜梨が高校3年生あたりになってくると、俄然おもしろくなってくる。話のテンポ、ノリ、深さが洗練されてくるのだ。そして、夜梨は恐らく作者本人も忘れてるだろう須藤くんというのを皮切りに、大沢くん、カズ坊くんと、R学院テニス部を渡り歩いている(いいのかな~)。

それもまた時代を反映していて、おもしろい。80年代中盤、女性の性の開放化などと言われ、やたら二股だの不倫だのをして大いに男を弄ぶ女の話が多かった。序盤の夜梨がそうだ。そして同い年の大沢くんと、プラトニックなかわいらしいお付き合い。『めぞん一刻』なんか読んでると、付き合ってもない相手にプロポーズだのと騒いでいるので、当時はよほど清らかなカップルが多かったのか。そして終盤登場するカズ坊くんは、遊び人の年下だ。夜梨の交際は、まさに時代を象徴していると言える。

そして個人的には、このカズ坊くん、とっても好き。夜梨曰く、年下の男の子は「強引で、生意気で、自信家」。年下男子の特権だよな。おっさんが同じことやったら、ちょっと面倒くさい部長みたいな感じだけれども。生意気なおっさん……ゲー。そして、中盤まで、恐らく読者の大半のヲトメ心をつかんでいた大沢くんは、終盤にすっかり萌路線から外れてしまう。その理由は次回にでも。
<つづく>