とある男が「女の人って、彼女のいる男の人と付き合いたいとか、セカンドになりたいって思ったりするじゃないですかー」などと言っていて、なんだろう? 今のフランス語だったのかな、意味わかんなかったなあと思ったことがある。わざわざ好きな男の2番手になりたい女なんかいねーよ。2番手のままでいることの意味とか優位性って、なんかあるんだろうか。

「私が孕んだら、本命のところで彼女の子どもを一番に幸せにしてほしいの」「誕生日、クリスマス、寂しい日、うれしかった日……私のことは無視して、本命のところにぜひとも行ってね」ということだろう? 何かの呪文くらい意味が分からん。もし「2番目でもいいから」とか言ってる女がいたとしても、「いつか奪っちゃうもーん」という強気な前提であるはずだ。

昔、みうらじゅんの「いやげもの」展(だったかな)に行ったとき、神社の絵馬の写真が展示されていた。その絵馬にはこんなことが書いてあった。「とても素敵な男性が現れて、私のことが好きになり、私から離れられなくなりますように」……もちろんイタいからこういうところに展示されちゃってるわけだが、しかし口に出して言わないだけで、多くの女が望んでいることではある。女が求めるのは、強く、アツく自分だけを求める、メチャクチャ好みの男。そのアツい気持ちの表れとして、「さらわれたい」のだ。

長い前振りだったが、「好きだからヤりたいんだ!」ではなく「好きだからさらってしまいたい」のほうが、女にはかなり響くに違いない。結果的にはやることは一緒でも。というわけで、好きな男にではないけれど、さらわれてしまった亜樹。人間、自分で判断して物事を変えるのは結構勇気がいる。今の生活よりも、変えた生活のほうが良くなる、後悔しない保証なんかないからだ。でもさらわれてしまったのなら仕方がない。大好きだったレドビィに「僕のお嫁さんになるということは、もう大好きなお母さんに会えなくなるけど、いいかな? その代わり女王様になれるけどネ!」と言われたら、亜樹はOKしたんだろうか。

しかし、レドビィにだってルイにだって、どっちにさらわれたっていいのだ。要は「さらわれた」ということが少女の萌えなんだから。『王家の紋章』も『覇王愛人』も、主人公がさらわれる話だ。何か気に入らないことがあったら「私は、さらわれたんだから、本当はこんなこと望んでないの!」と口答えできるわけだから、絶好のシチュエーションなんである。

亜樹なんかすごいぞ。女王になんかなりたくない、ルイの花嫁になんかなりたくないと、ことあるごとに反発して脱走を企ててるくせに、気に入らないことがあると「女王命令です!」とか言っちゃって権力を振りまく。レドビィはそのたびに「女王らしくなった」とか言って目を輝かせているが、どうなのよ、これは?

「さらわれた」と同じく少女萌えなのが、「無理矢理チュー」である。「白壁チュー」の汎用パターンですな。亜樹と形だけの結婚式を挙げたルイは、なんか思うところがあったらしく、夜中に亜樹の部屋に入り、グースカ寝ている亜樹に無理矢理チュー。目が覚めてギャーギャー騒いだ亜樹の元へ、レドビィが駆けつけてくる。

「おや? ヤボだねえ。新婚夫婦の部屋に何か用?」とかルイに言われてるが、ごもっともだ。深夜、新婚の部屋に踏み行っていくとは、ものすごい勇気じゃないか。最中だったらどうするんだ……それにしてもルイよ、お前も一応結婚したんだから好き勝手やっていいものを、よくぞ我慢してるよなあ。そういうところ、少女漫画の男どもはかわいそうで、なんだか目頭が熱くなってくるよ。
<つづく>