若手のビジネスパーソンは悩みだらけ。「将来が見えない」、「自分が何に向いているか分からない」。自分の正解を探す人へ、人生のドン底を経験した元アイドルで今はライター・作家として活躍する大木亜希子さんが気になる本を紹介。この連載が不安な心を少し楽にしてくれるかもしれません。
私には、数少ない年下の女友達がいる。彼女の名を、仮にケイコとしておこう。
ケイコは私より3つ下で、いま28歳だ。彼女が先日、3年間の不倫経験を経て恋愛市場に復活した。
不倫を肯定することは決してできない。
だが彼女の場合、相手の男が結婚している事実を2年半も隠していたという驚愕かつ悪質なケースであった。
その恋愛がうまくいっている時、私はケイコから度々のろけ話を聞いていた。男がいかに彼女に対して優しくてマメで紳士で、「彼女ファースト」であるかも聞いていた。
だからこそ「彼、既婚者でした」と真っ青な顔をしたケイコから聞いた瞬間、部外者である私も落胆したものである。
もはや、まったく信用してはならない。
当然、「ソッコー別れなよ」と勧めた。ところが、ケイコが選択した道は茨の道であった。
既婚者であるという衝撃的な事実を知っても尚、相手のことを許し続けてしまったのだ。
「この選択が間違っていることは分かっています。だけど、もう少しだけ続けさせて下さい」
彼女は力強く私に宣言をして、そのまま半年ほど関係を続けたのだ。まるで何事もなかったように。ありふれたカップルに戻っていった。
私がどれほど「もうやめな。傷が深まるだけだし、失った時間は二度と戻ってこない」と忠告してみても駄目だった。
ケイコは「分かっています。でも、大丈夫です」と笑い続けるのであった。分かってないじゃん。大丈夫じゃないじゃん。
次第に、彼女の専売特許であったニカッとしたチャーミングな笑顏は消えて、寂しげな表情をのぞかせるようになった。
男の罪は大きいが、不誠実な相手に対して「切る瞬間に切る」という選択ができなかったケイコも駄目になってきている。私は非常に心配していた。
ケイコの下した決断
ところが先日、そんな彼女から「やっぱりもうやめました」と連絡がきたので、ほっとした。
別れ際、一体どのような修羅場があったのかと彼女を呼び出して聞いてみれば、
「私はあなたのことが大好きで、もう一生この気持ちは変わらない。だけど、私があなたの側にいるとあなたの人生にとって良くない。だから、私はあなたをすっぱり諦めます」と、ケイコは男に言い放ったのだという。
「なにそれ。良い女になりすぎだよ。一発くらいビンタ食らわしても良かったんじゃん?」
私がそう言ってみても、彼女は毅然とした態度を崩さなかった。
「私、やっぱり彼のことが好きなので。最後『負けてあげよう』と思ったんです。あなたのことはずっと好き。それは変わらない。降参。白旗あげる。最後まで文句も言いませんって」
その言葉を聞いた瞬間、私はいたたまれない気持ちになった。なぜ、そこまで相手に対して我慢することができるのだろうか。
ところが自分の心の内側を探ると、どこかで彼女の発言を「アッパレ!」と思う自分もいた。人間は「幸福」だけを追い求める生き物ではないから、時々あえて苦しい選択をするのだ。
そして、その時はいくら周囲々から「その道はやめておきな」と言われても、本人が納得することは難しいのだろう。それに、いつでも自分にとって都合の良い相手だけを好きになるとは限らないのだ。
だからこそ相手を恨むでもなく、傷つけるでもなく「私はあなたに参りました」と素直に言ってしまう選択肢があっても良い。
「男に『わざと負けてあげた』私は、馬鹿者ですかね?」
ケイコが私に理解を求めてきた時、私は「そんなことない。よくやった」と返事をしてあげることが精一杯だった。
そして、この世には無数の愛の形があることを実感した。
皆、やらかしまくり
『エンドロールのその後に さえない僕らの恋愛に幸せな結末を』(大和書房)には、そんな一筋縄ではいかない34のノンフィクションの物語が書かれている。
好きになってはいけない相手を好きになってしまった人。
イマイチ恋愛に対して本気になれない人。
心から相手を好きになってしまい、周囲が見えなくなるほどやらかしてしまう人。
恋愛をする以前に、仕事や家庭環境に問題があって、人生が前に進めない人。
「相手のことを好きかどうか分からないけれど、とりあえず恋愛」をしている人。
こうした様々なケースについて、著者のウイさん視点によるコメントが並んでいる。
その言葉の一つひとつが、ウイさんが輪廻転生を1億万回は繰り返しているのだろうかと確信するほど鋭い。そして、優しいのだ。
ウイさんって、なんでこんなに「欲しい言葉をくれる人」なんだろう。
そう思っていたら、セクシー女優の紗倉まなさんも「ウイさんは一体、何回人生を経験しているのだろうか」と本著の帯でコメントを寄せていたので激しく共感した。
本著の秀逸なトピックスの中から、ひとつだけ抜き出して魅力を語ることは難しい。
だが、あえて言うならば、「運命的な出会い=運命の人ではない」という図式をウイさんが提唱している点が興味深かった。頭がもげるかと思うほど共感した。
「出会いが運命的だったからこそ、きっと運命の人に違いない」という思い込みが視界を狭め、足かせになることがあるということ。
これは私にも経験があった。
仕事で困りごとがあった時、運命的なタイミングで私の前に現れて助けてくれた男。
事あるごとに街で遭遇し、「あの人、今何してるかな」と思うと絶対に連絡がくる男。
いずれも、めちゃくちゃ運命を感じていた。けれども、成就しなかった。運命ではなかったのである。
そうなのだ。ウイさんが本著で述べているように、ロマンスの神様って、むちゃくちゃ気まぐれで仕事が雑なのである。
ロマンスの神様が人間の面倒をみてくれるのは"出会い"の部分だけで、そこから先は自分で勝利していかなくてならないのだ。
全ての恋愛に幸せな結末を
みんな、傷つきながらも死ぬほど恥ずかしい経験をしまくっている。ひとつの恋によって、運命も平気で狂っている。それでも、他人の前ではカッコつけて涼しい顔をしている。
本著を読めば、そんな隠れた人間の業の深さについて知ることができるだろう。
私は、「わざと男に負けてあげた」と断言したケイコに、本著をプレゼントしたいと思った。
現役で恋愛中の人も、もう恋愛は引退したという人も。
本当の恋愛はまだ知らないという人も、恋にはちっとも興味がない人も。
全ての人類が本著を読むことで、他者への共感が深まるに違いない。なぜ、そう確信をもって勧めることができるのか?
それは紛れもなく私自身、「周囲からドン引きされるほど変な恋愛をしてきた元戦士」だからにほかならない。