職場や取引先で見かける「残念なおじさん」。彼らはなぜ、若者から見て"残念"と思われる言動をとってしまうのでしょうか。

マイナビニュースでは、仕事を持つ20~30代のマイナビニュース会員500名を対象に「中高年男性が残念だと思う瞬間」について調査。この連載では漫画にてさまざまなタイプのおじさん像を紹介した上で、『<40男>はなぜ嫌われるのか』の著者で男性学の第一人者・田中俊之氏にその背景を解説してもらいます。

今回は「過去の栄光引きずりおじさん」です。

  • 4コマ漫画「オフィスに出没! 残念なおじさんの生態」のワンシーン
  • 4コマ漫画「オフィスに出没! 残念なおじさんの生態」のワンシーン

アンケートでは、残念だと思う瞬間について、若手社員から以下のようなコメントが寄せられました。

・「武勇伝を語る」(女性/28歳/岐阜県/ガラス・化学・石油)
・「自分が若い頃の自慢話を過度にしてくる」(男性/36歳/香川県/食品)
・「若い世代が分からない古いネタを『これぐらいも知らないの?』と言いながら何度も振ってくる」(女性/27歳/東京都/その他)
・「学歴の話をずっと気にかけてきて、自分の今まで会社でしてきた仕事の成果を新入社員に延々と話していたとき」(女性/25歳/大阪府/ガラス・化学・石油)
・「若い頃の武勇伝を語りだすのは痛いなと感じる」(女性/33歳/千葉県/フードビジネス)
・「自慢話。自分を大きく見せたり、何でもかんでも自分のいいように解釈したりする」(女性/26歳/兵庫県/専門店)
・「昔は悪だった自慢」(男性/33歳/愛知県/農業共同組合)
・「過去の経験に基づいた独りよがりの言動で周りを振り回す」(男性/37歳/北海道/ソフトウェア・情報処理)

田中氏は、これらの寄せられた回答のように、過去の栄光を引きずってしまうおじさんに対して以下のようにコメントしてくれました。

「達成」か「逸脱」か

男性が自分の「男らしさ」を証明する方法は、「達成」と「逸脱」です。

達成とは、「社会的に価値があると思われる事柄を成し遂げること」です。例えば会社員であれば、「有名企業に就職する」とか「同期に先がけて出世する」とかが達成です。みんなが価値のあると思っていることを成し遂げた俺は男らしいだろう、ということです。

一方の逸脱とは、「社会的なルールから外れる言動を取ること」です。例えば、自分の不健康を自慢するおじさんがいたと仮定しましょう。この場合、人類共通の願いである「健康」から大きく離れたところにいる俺は男らしいだろう、ということです。

日本の企業では、一般的に40歳前後で出世コースに進めるかどうかが判明します。ここで競争に敗れた場合、達成による男らしさの証明が困難になります。中高生なら不良による逸脱で「男らしさ」の証明も可能ですが、おじさんが逸脱で「男らしさ」を証明するのは無理があります。そこで出てくるのが悲しいかな、「過去の栄光」というわけです。

こうした過去の栄光自慢に対し、部下はついつい「すごい」と言いがちです。とりわけ、若い女性社員には、未だにそうした役割が期待される傾向があります。日本は男女の不平等が大きい社会ですが、その理由の一つとして、この女性が男性を立てる習慣が残っている点が挙げられます。

そのため以前、僕は大学の授業で女子学生に「君たちが男子のくだらない自慢に、すぐ『すごい』などと言うことが男女の不平等を生み出す一因になってしまっている」と伝えたことがあります。

すると、その日のリアクションペーパーに、ある女子学生が次のように書いてきました。「先生は『すごい』と言ってはダメだとおっしゃいましたが、女子の『すごい』にはカッコで『バカだね』が省略されているんです」

男性は女性に「すごい」と言われたら、脳内で「バカだね」を補ってください。つい過去にすがってしまう自分を変えるきっかけになりますよ。

解説: 田中俊之

大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授。
社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。単著に『男性学の新展開』『<40男>はなぜ嫌われるか』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか!』、共著に『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』などがある。

漫画: 山本ゆうか

フリーランスのイラストレーター・漫画家として活動するワーキングマザー。
ウェブを中心に雑誌、書籍、広告の仕事で活躍している。情報処理学会会誌『IT日和』、チエネッタ『お隣さんの○○事情』イラスト担当中。