よいこのQ&A
Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!
アーノルド・シュワルツェネッガー主演『プレデター』を意識して『プレデター』の名を借りたB級未公開作品は実に多く存在する。昨年は、『プレデター2012』、『アルティメット・プレデター』、『ボトム・プレデター 地底に潜む生命体』、『プレデターズ エヴォリューション』という具合に、突如"プレデター名義拝借作品"がゾクゾクとリリースされたのだ。リメイク版の『プレデターズ』劇場公開&ソフトリリースもとっくの前に済んでいるのにもかかわらず! である。
今回は、これらの中でも異色さを醸し出している『プレデターズ エヴォリューション』をご紹介するゾ。
本作は、フランス映画。"プレデター"と聞けば、普通はSF作品とかエイリアン風のモンスターを想像する方が多いだろう。だが、本作はSF要素はもちろん、エイリアン風のモンスターなんかも一切出てこない。出てくるのは、な・な・な・なんと!! これが普通のイノシシなのだ……。そう言えば、昨年は『人喰猪、公民館襲撃す!』という韓国映画が公開されていたよな~。他にもイノシシを題材にした作品と言えば、『レイザーバック』という映像面にこだわった作品も劇場公開されたな。実は隠れた人気モチーフなのか? イノシシ……。
物語は主人公の兄やんが交際中の恋人の実家へ赴くところから始まる。この実家は薬品工場を経営している。主人公は恋人のオヤジさんとおじいちゃん、叔父貴さんと森林へハンティングに行くことオススメされて同行することに。でも、森林では動物たちの異常行動が増えているとのこと。ハンティングに出掛けた一行はうわさに聞いていた大暴れイノシシを発見し、なんとか仕留めるが、妙なことに気づいてその死骸を調べてみると、化学物質に汚染されていることがわかった。原因はイノシシが飲んだ水にあると踏んで水源に向かうが、そこで大量の魚の死骸も発見。やはり原因は恋人実家の薬品工場が垂れ流す排水だったのだ。そしてストーリーは急展開。問題のタネである家族と主人公が汚染凶暴イノシシに襲撃されることに。
かつて『ジョーズ』が流行した頃にこの手のアニマル・パニック作品群が量産されたよなぁ~。アレらと同じような感じではないか?!ということで設定に新味は一切なし。
それで、お目当てのプレデター、もといイノシシ……鼻&口元、全体像がほんの一瞬映るだけ。暗い夜だからさらにわかりづらい。イノシシの全貌がはっきり&しっかりと映し出されるシーンが一切ないのだ。まあ、低予算の未公開作品だから仕方ないよね、と割り切って見ると逆に腹が立つことはない。それでも、人を襲うシーンをはじめ、恐怖やスリルはそれなりに味わえるので、その努力だけでも大いに認めたい…と私は素直にそう思えたね。
イノシシが人を襲撃するシーンよりも、このパニックが原因ですさまじい大げんかをするシーンもユニークで良い!! イノシシに襲われて木に登った恋人のオヤジと伯父貴さんが、「先に逃げた方が悪い!!」とか言って散々蹴りを繰り出し合い、やられた方もやり返し、結局は叔父貴さんが木から落っこちて首を骨折して死亡。パニック状態でこんなけんかをやってのけてくれるって……さらにそれで死ぬって……チョイあきれるけどもなかなか面白い。
他にも、グロ描写も気合が入っていて気持ち悪さ満点。そちら方面をお望みの方もきっと満足がいくはずだ。
あと、一つツッコミたいシーンについて触れておく。イノシシの襲撃から逃げているとき、主人公の携帯電話の着メロが鳴ってはやみ、鳴ってはやみの繰り返し。コレ、スリルと緊張感を味わえるシーンをみすみす台無しにしているんじゃないか? こういうツッコミ所による脱力系面白さが味わえると捉えるとそれはそれで面白く感じられるのだが。
劇中で一番面白い名シーンと言えば、やはりこのシーンだ。主人公と彼の恋人のオヤジさんが小屋に逃げ込むが、イノシシが鋭い嗅覚で2人を察知し、小屋をブチ壊す勢いで2人をさらに追いつめる。事前にガソリンをまき、小屋の地面に穴を掘ってそこに隠れるが、主人公は手のひらを切って流血してしまう。これをなぜか逆手に取り「血の匂いで寄せ付ける」と言ってあえてイノシシを挑発。「地面から出るまではガソリンに引火させてはならない」の指示を無視して着火するが、なんとかほうほうの体で無事で脱出。でも、その後に主人公と恋人父が敵対関係に陥ってしまい……。
クライマックスは、主人公の恋人とその母親が車で現場に到着するが、母親はその直後にイノシシのえじきに。車の中で主人公と恋人がなんとかイノシシの攻撃から耐え抜こうとするが、車を横転させられ、木の棒が主人公の身体に突き刺さってさらなに大ピンチ!!
とにかくこのような作品、B級映画と扱う方もいらっしゃれば、Z級映画として扱う方もいらっしゃると思う。確かにツッコミ所もあれば、一番見たいモノ(本作ならイノシシ)がしっかりと拝めないというマイナス部分もある。「あくまでも低予算の未公開作品」、「B級かZ級か」ということを念頭に置いて見れば文句も出ないし、ツッコミ所やおかしなシーンを探して楽しむというおおらかな気持ちで鑑賞すればそれなりの面白さが味わえる。または、「少しでも良いシーンを探そう」という心構えも重要だろう。とにかく上映時間が76分と短めだから、"暇つぶし"や「忙しいけど何が気軽な映画を見たい」という方にはもってこいの作品。だからこそ、そういった気持ちと心構えでこの手の作品に臨んでいただきたいものだ。
2010年フランス
『プレデターズ エヴォリューション』作品概要
- 原題:「PROIE」
- 出演:グレゴワール・コラン、フランソワ・レヴァンタル、ベレニス・べジョ、イザベル・ルノー
- 監督:アントワーヌ・ブロシェ
- 上映時間:76分
- 発売日:2010/05/27
- 販売:ケンメディア
- 価格:3570円
(c) QUASAR PICTURES(Si Vis Pacem,Para Bellum)-BELPIX-POLARIS FILM PRODUCTION&FINANCE
ささき・たかゆき
「映画ライター。1982年、大阪府出身。アクション映画、任侠ヤクザ映画といった男泣き&男臭い作品が大のお気に入り。他にはホラー、コメディー、ミュージカルも……とにかくB級映画、おバカ映画をこよなく愛する
タイトルイラスト&題字:五月女ケイ子
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