よいこのQ&A

Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!

監督はお笑い界のスピルバーグを目指す日本人

ジャケ写からして笑いの神に愛されそうな要素てんこ盛り

スパイシーマック……外国人らしい名前だが、実はれっきとした日本人だ。"お笑い界のスピルバーグ"を目指す謎の日本男児が監督、脚本、撮影、編集の4役をこなして完成させた究極におバカなコメディー作品、それが『史上最高のパンツ一丁男』なのである。

制作費は、なんとたったの10,000ドル。製作スタッフは5人と少数だが出演者だけは120人と多めなのである。この究極の低予算インディーズ映画、実はメキシコ映画祭にてパルムドールを受賞するわ、ニューヨーク国際インデイペンデントフィルムフェスティバルでグランプリを獲得するわという具合になかなかやってくれているのだ。

物語だけ見れば一見普通…だがネタのレベルが高すぎる!

まずはストーリーの大筋を。ジャックら4人の男たちは、異種格闘技の違法な試合でロス市警に逮捕されてしまう。釈放の条件は、誘拐訓練の犯人役をやるきること。4人は犯人役になりきって訓練用の誘拐を実行するが、そこでごく普通の一般人を誘拐し、アジトに立てこもる。4人は人質釈放の条件として大統領のストリップを要求する。ロス市警はこの事実が明らかになる前に4人をホンモノの犯人に仕立て上げて射殺するべく特殊部隊員と突入を試みるが、そこで伝説的FBI交渉人ジョン・ジェームズ(ジェフ・スワーソウト)が現れ、パンツ一丁で交渉に取り掛かる……というお話。

本作、15章までのチャプターで構成されており、各エピソードだけでも単体のショート・コメディーとして楽しめるような感じだが、これらがしっかりとつながっており、1つのドラマを形成させている。

異業種交流会

まずは、第1章の異種格闘技戦から脱力系おバカギャグが展開される。異種格闘技といっても、プロレス対キックボクシングのような誰もが知っているようなプロ格闘技ではない。水泳選手対ボクサー、外科医対内科医というおフザケ丸出しのヘンテコな試合内容ばかり。例えば水泳選手とボクサーとのバトルでは、水泳選手が仰向け状態で立っているボクサーにキックを食らわせようとする。これ、まさにアントニオ猪木とモハメド・アリの世紀の一戦を彷彿とさせており、実況者も「アントニオ猪木」と言い放っている。日本人にはわかりやすい(まぁ、猪木・アリ戦を知る者限定だけど……)し、日本人製作者だからこそ作れたシーンだと言えよう。

アクも個性もこれでもかと強い登場人物

プロレスなどではおなじみのマイクパフォーマンス。異種格闘技戦でも忘れてないぜ!ちなみにこの人はボクサー

登場キャラクターは個性的なバカばかりであり、コイツらがしっかりと笑わせてくれる。

まずは、ハゲ頭が印象深い悪徳警部ジェイソン(チャールズ・パセロ)。何かというとフニャフニャのスポンジスティックで人をやたらと殴りつける。そして、コイツの悪徳ぶりには呆れさせられること間違いなし。腹が減ったと言ってチョコレートを万引するわ、自分の半裸姿を撮影したテープを女の家に送りつけるわ、最低中の最低野郎。これらの行為は普通に上司に見つかっているが、すぐさま懲戒免職ではなく、次回やったらクビときたものだからさらに呆れる。しかも、犯人役の4人が誘拐する際に使用する道具の1つにシャンプーを用意するが、その使用方法もバカで最高。とにかくコイツがストーリーの大筋である事件のタネなのである。

敵意がないことを示すのに裸になるという点では某海賊マンガの某ヤブ医者の名シーンと通ずるものがあるのに、なんでこっちは泣けないんだろう……

そして、メインディッシュであるパンツ一丁男ことジョン・ジェームズは、犯人グループを刺激しないよう、丸腰であることを強調するために黒ブリーフ一丁で事件解決に全力を注ぐのだが、コイツも大概おかしな野郎だ。パンツ一丁の時点でドアホなのは間違いないが好物はなぜかココアで、惜しみなく偏った愛情を注ぎまくる。交渉開始前に用意させたココアがミルクではなくお湯で作られたことに一口で気付くほどのこだわり屋さん。それだけでなく、1日の摂取量はこれでもかの7杯。さらに医師から血糖値上昇を理由に辞めるようにと言われているにも関わらず、「ココア辞めるぐらいなら死んだ方がマシ」とかほざくし……。あと、黒ブリーフの股間の部分に携帯電話をしまい込めるように細工しているので要注目だ。

大統領のパンツはモチロン星条旗! 中のパトリオットも元気いっぱいだよ!

犯人の要求をのみ、ストリップバーでストリップする羽目に陥る大統領(トニー・クローニン)は、子供チャリティー番組での子供の質問である「サルとゴリラの違い」に対して「サルが成長すればゴリラ」とか大統領らしさゼロのおバカっぷりをストリップ披露前からいかんなく発揮。インチキ宗教のシーンでは信者たちは「南無阿弥陀仏」とか「南無妙法蓮華経」と同じような感じで「残尿感」と唱えているし。「ザ~ンニョ~ゥ~カ~ン」って……確かに題目のように聞こえなくはないけど! いや~、この程度の低いギャグが最高に面白い。"特殊野菜部隊"SWAVのアホな活躍や催眠術によるギャグも見逃さないでほしい。

SWAV(Special Weapons And Vegetables)の皆さん

本作には、あの裕木奈江も出演している。それにしても彼女、昨年公開されたホラー映画『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチングマサカー』もそうだが、海外ではドエライ作品にも出演しているからスゴい。劇中では男にしっかりとビンタを喰らわせているのだから、日本人が観ると印象に残るはずだ。

スパイシーマック監督、常識を逸脱したトンデモない作品を世に送り出す究極の異端児だ。彼の今後の活躍に大いに期待している。次回作は本作を超越する作品になることだろう。て言うか、彼の作品をしっかりと劇場公開していただきたい。彼が作り上げた究極のおバカ映画を大スクリーンで観られる日はいつのことやら?!

『史上最高のパンツ一丁男』予告編


  • 監督:スパイシーマック
  • 制作総指揮:ジャックワイズマンJr.
  • 出演:ジェフ・スワーソウト / スティーブ・バッケン / イーサン・マクダウェル / クリストファー・コービン / ダン・バーンヒル / チャールズ・パセロ / ジェイミー・フィルブリック / トニー・クローニン / マレーナ・マッコーエン / 裕木奈江
  • 配給:ローランズ・フィルム
  • 制作費:12,000ドル
  • 上映時間:90分

ささき・たかゆき

「映画ライター。1982年、大阪府出身。アクション映画、任侠ヤクザ映画といった男泣き&男臭い作品が大のお気に入り。他にはホラー、コメディー、ミュージカルも……とにかくB級映画、おバカ映画をこよなく愛する

タイトルイラスト&題字:五月女ケイ子

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