「鉄道の旅」というと、特急列車やローカル線の列車に乗ったり、夜行列車に乗ったり……というように、数日かけての本格的な旅行のイメージがあるかもしれない。
でも遠くへ行くために、職場・学校の長期休暇を待ったり、有給休暇を取ったりするのは意外とハードルが高い。遠くへ行くには切符代や宿泊料金もそれなりにかかる。でも、「乗り鉄気分」は遠くへ行かなくたって楽しめる。週末の1日でも充分だ。日帰りでどこまでいけるか、チャレンジしてみよう。
筆者が「乗り鉄」を志した時期は小学生の頃。自宅のそばに東急電鉄の線路があって、駅に行けばきっぷ売り場に路線図が掲げられている。
「この路線、ぜんぶ乗ってみたいな」
これが始まりだった。小学生の行動範囲なんて、自宅と学校とその周辺程度のもの。電車に乗るといえば、母に連れられてデパートに行くときくらいだ。だから見知らぬ場所へ電車で行くこと自体、ちょっとした冒険だった。東急電鉄に乗り終わると、次は国電(古いね……)に乗りたくなる。お小遣いで小型時刻表を買って、運賃の見当をつけて乗りに出かけた。
中学生になるとお小遣いも増やしてもらって、もっと遠くに行けるようになった。もちろんお年玉だって貴重な資金源だ。だけど、行ける場所には切符代以外の制限があった。「泊まりがけの旅行はダメ」。中学生がひとりでホテルや旅館に泊まるなんてとんでもない、と母が言う。日帰りが絶対条件だった。
日帰りでどこまで行けるだろう?
もちろん大人にとっても、「見知らぬ場所へ出かける」行動は一種の冒険のようなもの。そこに何があるだろう? どんな景色があるだろう?
そこで、東京や大阪など都市近郊の人にオススメしたい「乗り鉄の第1歩」は、「最寄りの私鉄の駅から、その路線の終点に行く」だ。日帰りなら週末の土日祝日を使えるから、有給休暇の手続きなんかいらない。「私鉄の駅」とした理由は、JRの路線だとかなり長距離になってしまうから。たとえば戸塚駅から東海道本線の終点をめざしたら神戸駅だ。遠い!
関東の場合、京急電鉄なら三浦半島、東急東横線なら横浜・みなとみらい方面、東急田園都市線なら中央林間駅、小田急線なら小田原駅や片瀬江ノ島駅、京王線なら高尾山方面、西武線なら秩父・川越方面、東武東上線なら寄居駅、東武スカイツリーラインなら伊勢崎駅、または少し遠いけど日光方面に行くのもアリだろう。京成線なら成田山や成田空港だ。
関西の場合はどうだろう。近鉄大阪線ならそのまま伊勢方面へ、近鉄南大阪線なら吉野方面へ行ける。阪急電鉄は宝塚・京都・神戸方面へ線路が延びている。南海電車なら高野山方面へ。京阪電車は京都と大阪を結ぶイメージが強いけれど、支線に目を向ければ宇治線や交野線に乗れる。交野線の終点・私市駅は「きさいち」と読む難読駅で、それだけでなにかありそうな気がしてくる。阪神電車は山陽電車に乗り入れているから、姫路まで行けるぞ。
いつもと反対方向の電車に乗れば、意外と観光地もある。観光施設がなくたって、行ってみればきっとなにかがある。
JRの日帰り旅行だって楽しい!
JRの路線図は、関東・関西の大手私鉄に比べるとさらに広大だ。どこまでも行けてしまう。でも、そこを「日帰り」にこだわると、旅のルート選びはパズルのような面白さがある。
たとえば東京駅から東海道線で国府津駅へ、そこから御殿場線で沼津駅へ、再び東海道線で富士駅へ、さらに身延線で甲府駅へ出て、中央本線で帰ってくる。これで富士山周辺の路線をぐるっと回れる。そんな長距離の旅も日帰りでできてしまう。房総半島をJR線で一周したり、小湊鐵道といすみ鉄道での横断を組み合わせたりするのもいい。これも日帰りでOK。大阪駅からだと、なんと紀伊半島を普通列車で日帰りすることも可能。大冒険だ。
日帰りでどこまで行けるか? それを確認するためには、時刻表を読み解く力が必要になる。スマホの乗換案内アプリもいいけれど、旅の気分を盛り上げたいならやはり時刻表に親しんでおきたい。次回は時刻表の選び方、使い方を紹介しよう。