日本酒は近年、驚くほど味わいが良くなっているのを知っていますか? 製造責任者である杜氏さんが門外不出の技術や勘を頼りにつくっていた時代は、半ば終わりを告げました。大学でも発酵学というジャンルの確立が進み、醸造技術が格段に進歩。新たな酵母の開発や酒米(さかまい)の品種改良など、現代人の味覚に合う日本酒が次々と誕生しています。

そんな日本酒にこれからチャレンジしてみよう! と思うものの、「あまり詳しくはないから…」と尻込みする人もいるはず。今までに数軒の日本酒専門店で女将を務めた経験を持つ、日本酒ライターの関友美がそんなあなたのために、居酒屋や日本酒BARなどで一目を置かれる「日本酒通」ならではの、パワーセンテンスをそっとお教えします。

■本日のパワーセンテンス

「和らぎ水をください」

■その意味とは?

「和らぎ水(やわらぎみず)」とは、日本酒を飲む合間に飲む水のこと。洋酒を飲むときの「チェイサー(追い水)」と同じ役割です。気分をスッキリさせ、酔いを和らげ、深酔い・悪酔いを防いでくれます。

日本酒こだわりの飲食店で日本酒を注文すると、お願いしなくても「和らぎ水」が出てくることもあります。ぬるま湯や白湯だとさらに効果的ですが、冷水でもOK。とにかく必ず「和らぎ水」を飲む習慣を心掛けましょう。

このセンテンスを使えば、あなたは「日本酒の味わいを楽しむだけでなく『和らぎ水』という作法まで知る、なんて通な人だろう」と思われるでしょう。

■解説

ゴクゴク飲んで体内に摂取されたアルコールは、胃ではゆっくり吸収され、小腸に入ると速やかに吸収されると言われています。そのため「和らぎ水」を飲み、食べながら日本酒を飲むなど、アルコールが胃にあるうちに薄めることが大切になってきます。

それでは、「和らぎ水」にどのような効果があるのか、ひとつずつ詳細を見ていきましょう。

・脱水症状にならないために

アルコールには利尿作用があり、お酒を飲んでいるとトイレが近くなってくるのはこのためです。アルコールは、飲んだ水分量以上に尿として排出されてしまいます。また体内に入ったアルコールを分解するためにも、多くの水分を必要とするのです。

脱水症状は、軽度だと「頭痛」「立ちくらみ」、重度になると「意識障害」「循環不全」「昏睡」、さらに悪化すると死に至ることもあるので、こまめにお水を飲むように心がけましょう。

・ひと休みするために

酔っ払ってくると、無意識に盃を上げ飲むという仕草がクセ(習慣)になっていたり、目の前の人が飲む姿につられて飲んでしまったり、ということはありませんか? 同じ仕草をしていても、水の入ったグラスに持ち替えればリズムは崩れず、ひと呼吸置くことができますよ。

・悪酔いしないために

短時間にお酒を大量に飲むと、肝臓でのアルコール代謝が追いつかず、最悪の場合は急性アルコール中毒を発症してしまいます。アルコール健康医学協会では、目安として「アルコール15%の日本酒1合(180ml)」までを爽快期~ほろ酔いとして、それを超えると急性アルコール中毒を引き起こす可能性が高まる、と忠告しています。悪酔いをしないためにも、和らぎ水を飲むことで、酔いの速度をゆっくりにしましょう。

・味覚のリセットをするために

日本酒の味わいや香りは、とても繊細です。繊細な中にもさまざまな違いがあって、飲み比べしていると無意識に集中して、鼻と舌が疲れています。リセットするためにも、一度お水で口を洗うのが有効的です。

日本酒造組合中央会や全国の酒蔵、飲食店が推奨している「和らぎ水」。あなたの健康を守り、楽しい時間を過ごすためにとても重要なものなのです。

■女将からひとこと

以前に女将経験もある著者から最後にひとこと……。

ぶっきらぼうに「水下さい」と伝えるのではなく、優しく問うように「お手すきでいいので、和らぎ水をください」と言うと、より丁寧な印象に。「和らぎ水」を必ず出すようにしている飲食店であっても、催促されているというよりも「日本酒好きの人なんだなぁ」と感じます。

こういう小さくて柔らかな交流から、飲食店の女将や大将、日本酒担当者などは「この人にこそアノお酒を飲んでほしいな」と心傾き、冷蔵庫の隅っこの方に裏返していたとっておきの日本酒を出してみたくなったりすることも(笑)

「お手すきでいいので、和らぎ水をください」と、自分の身体にも、周囲にも優しいパワーセンテンス、ぜひ酒場で使ってみてくださいね。