オープンカーというと夏に似合うクルマというイメージだが、実は本格派オープンカーフリークにとってはこれからがベストシーズン。そうしたことを熟知しているヨーロッパメーカーはさすがで、これからのベストシーズンに向けてオープンモデルをデビューさせた。アウディのA5カブリオレがそれだ。爽快な空気を感じて走ることのできるカブリオレで、一足早い秋を感じさせる神奈川・箱根でドライブを楽しんだ。

クーペモデルであるA5をオープン化したフル4シーターカブリオレ。とても美しいデザインだ

箱根は自動車メーカーの試乗会場としてよく使われるが、今年は秋の訪れが例年よりも早いようだ。9月上旬の試乗では紅葉を見ながらドライブを楽しむというのは無理と思っていたが、山にはうっすらと紅葉した木々が所々に見え、空気も乾いていてとても気持ちいい。まだ本格的な紅葉シーズンとはいえなかったが、何ともぜいたくな紅葉狩りをしながらの試乗になった。

その紅葉狩りドライブをいつも以上に楽しくしてくれたのが、フル4シーターのアウディA5カブリオレ。オープンモデルはいろいろあるが、フル4シーターはそれほど多くはない。国産車にはレクサスSCがあるが、リヤシートが狭くフル4シーターとは呼びづらい。家族や友人と爽快なオープンカードライブを楽しむなら、リヤシートのスペースがある程度広くなければならない。A5カブリオレはそうした楽しみ方ができるモデルだ。ルーフがあるクルマとはまったく違うドライブを楽しませてくれるのだ。

ソフトトップを閉めても美しいスタイルはそのまま。レッドカラーのソフトトップは、駐車中でもオープンであることが一目でわかる

後ろ姿もカブリオレらしくて美しい。フロントウインドーが近く見えるが、フロントシートでも開放感が高い

ソフトトップを上げた後ろ姿も、クーペのような美しさがある

フロント周りのデザインはベースのクーペモデルと変わらない

ベースとなったA5はクーペモデルだが、リヤシートスペースが適度に確保されているので、オープン化してもリヤに2人が乗ることに不満はない。むしろソフトトップ化されたことで頭上高が広くなっているため、クローズドでも狭さを感じることがなくなっている。もちろんソフトトップをオープンにすれば、頭上には無限の空間が広がるわけだ。

最近のオープンモデルはメタルトップを採用する例が多いが、アウディA5はソフトトップを選んだ。その理由は2つあると思う。1つはオープンカーらしいエレガントなたたずまいを、ルーフを閉めた時でも見せたいからではないだろうか。もう1つは軽量化と操作性だ。このカブリオレはトップを上げたままでもじつに美しいデザインに仕上がっている。とくに今回試乗したアイビスホワイトのボディカラーにレッドのソフトトップの組み合わせは絶妙なカラーコーディネートといっていいだろう。あえてオープンにせずに街を走りたいという衝動にかられるほどスタイルがきれいだ。たとえ駐車中でも一目でカブリオレとわかるのもいい。ソフトトップには定番カラーのブラックも用意されているが、カブリオレならではのプレミアム感を演出するにはこれくらい大胆な色遣いが好ましい。ソフトトップのカラーはこのほかにもブルーやブラウンがあり、合計4色も用意されている。ちなみに日本仕様は標準で断熱・遮音性に優れる「アコースティックソフトトップ」を採用している。欧州仕様ではオプションとなるソフトトップだ。アコースティックソフトトップは3層構造が特徴。まず一番外側の耐候性と耐久性が求められるトップクロスはなんと1.4mmもの厚さを持っている。通常のソフトトップよりかなり厚い。その下には12mmから15mmのフォームレイヤーが入れられていて、高い断熱性と遮音性を確保している。室内側のヘッドライナーにはLEDランプも付けられ、ハードトップ並みの快適性を得ているのがアウディA5カブリオレの特徴。

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軽量かつ高剛性のソフトトップは、50km/h以下のスピードなら走行中でも開閉可能だ

軽量なソフトトップは操作性の面でも効果をもたらしている。コンパクトで高剛性な開閉メカニズムは、素早くルーフを変化させることに成功。オープンにかかる時間はなんと15秒。クローズもたった17秒で行える。さらに走行中でも50km/h以下のスピードなら開閉が可能というのもすごい。メタルトップでも10km/h前後のスピードでも開閉可能なクルマもあるが、市街地を走るスピード域で開閉できるのはソフトトップならではだ。急な雨でも停車せずにルーフを閉められるため、とても使いやすいクルマだと言える。実際に走行中に操作してみたが作動は停止時と同じでスムーズに動き、不安なく操作できた。ルーフを格納中に50km/hをオーバーすると自動的に格納作業は停止されたが、50km/h以下になってから再度操作すればトップを折りたたむことができた。駐車中はリモコンキーで離れた場所からルーフを開け閉めすることも可能だ。

ソフトトップのメリットにはトランクスペースの広さもある。メタルルーフはメカが大掛かりになる上にトランクに収納したルーフがかさばる。その結果トランクスペースには小さな荷物しか入らなくなるが、A5カブリオレは違う。ソフトトップは柔軟性があるため最小限のスペースしか取らない。クローズ時380Lのトランクスペースは、オープン時でも320Lを確保している。ルーフが占領するスペースはたった60Lだというから驚く。実際トランクを見ると余裕があるし、リヤシートが可倒式のため長い荷物を積み込むことも可能だ。もちろんリヤシートはトランク内のレバーを操作するだけで倒すことができる。

トランクスペースはA5とほとんど変わらない。トランク内上のルーフ収納部分は、手で強く押し込めばスペースを広げられる

リヤシートをトランク側から倒すことができる操作レバーを装備

リヤシートをたためばゴルフパッグを縦に収納することが可能だ

両側を倒せば結構大きな荷物を積むこともできる

フル4シーターのカブリオレだからオープン時のリヤシートの快適性は重要だ。リヤシートバックはやや立ち気味だが、窮屈な感じはない。こうしたモデルでは、シートバックが垂直のようなデザインのモデルもあるが、A5カブリオレは快適性を確保しているため、大人4人でドライブを楽しめる。

リヤシートへの風の巻きこみも快適性を左右するポイントだが、A5カブリオレはその点もうまく処理している。60km/hぐらいまでなら、前後のサイドウインドーを上げておくだけで、リヤシートには大きな巻き込みは発生しない。もちろんロングヘアーの女性は帽子を被るなどの対策が必要だが、ショートヘアーなら巻き込みの風はそれほど気にならないはずだ。最近のオープンカーはリヤからの風の巻き込みを防止するため、エアディフレクターを装備するクルマもあるが、A5カブリオレは空力特性がいいためその必要がない。もちろんオープンのままでの高速走行では、リヤシートに座る人はつらい思いをするが、市街地走行レベルなら爽快なドライブを楽しめる。2人だけのドライブならサイドウインドーを下ろして、適度に風を感じる気持ちいいドライブが堪能できる。空力特性がいいため100km/hでもフロントシートは風の巻きこみが意外に少ないのだ。

フロントウインドー周りも美しいアルミでデザインされている。こうした丁寧な作りがプレミアム感に結びつく

シートは本革のミラノレザーが標準。この本革は特殊加工が施されていて、直射日光に当たっても赤外線を反射することで表面温度を最大20℃も低くできるという

クーペと同じく、着座時にシートベルトをしやすいようにガイドが出てくる

クーペのA5とデザインはほとんど変わらない

バング&オルフセンのサウンドシステムは、15万円のオプション装備

フロントシート間のスイッチを操作すればルーフの開閉ができる。最新のルーフシステムだけあり、ソフトトップのロックなどの操作は一切必要ない

これがアウディドライブセレクトのスイッチ。効果が高いだけに標準装備にしてもらいたい

このレバーを操作するだけで、簡単にシートが前に倒れてリヤシートに乗り込みやすくなる

オープンモデルは万が一の転倒時の安全性が気になるが、A5カブリオレは多くのオープンモデルと同様にロールオーバーバーが立ち上がるように工夫されている。通常はリヤシートとトランクの間に2本のバーが収納されているが、転倒時にはこのバーが立ち上がって乗員の生存スペースを確保する設計。アウディはバーの作動方法がユニークで、強力なスプリングを作動力に使っているのだ。収納時は強力なスプリングを圧縮収納していて、万が一の時には電動アクチュエーターがアルミブレースをリリースして瞬時にスプリングがバーを持ち上げる。スプリングの力で持ち上がったバーはロックされ、衝撃が加わっても縮むことはない。火薬を使うインフレーターなどと異なり、シンプルなメカニズムだ。

オープンモデルはベース車と比べるとボディ剛性感が弱く感じられるモデルもあるが、A5カブリオレの剛性感は極めてしっかりしている。路面の段差を乗り越えたときにサスペンションにかなり強い入力があっても、フロントウインドーまわりはミシリとも言わない。剛性感が不足しているクルマだとはっきりとフロントウインドーが揺れるのがわかるものもあるが、そんな感じは一切ない。さらにドライバーが剛性不足を感じやすいのがステアリングポストの揺れだ。フロントウインドーまわりに近い、ステアリングハンガーが揺れることでステアリングにも揺れが伝わってくることがある。だが、このクルマはそうした揺れがない。この感覚が剛性感につながり、ドライビングの安心感にもつながるわけだ。

リヤシートヘッドレスト後方に立ちあがるロールオーバーパーは、スプリングの力を利用したユニークなメカだ

ソフトトップのメカは軽量だが高剛性のため、走行中の開閉が可能だ

遮音性に優れたアコースティックソフトトップは欧州ではオプションだが、日本仕様は標準装備

高剛性感は操縦性にも表れている。ワインディングロードをオープンカーに似合わないほど攻め立ても、終始安定した正確なハンドリングを示す。これはアウディのお家芸でもあるフルタイム4WDシステムのクワトロのおかげでもある。近年のアウディはクワトロシステムの制御を変えることで見違えるようなハンドリングを獲得。従来は積極的にコーナーを攻めるような走りでは、どうしてもアンダーステアが強くなる傾向があった。だが、最近のクワトロはリヤに駆動力を多く配分することで、操舵輪であるフロントタイヤのコーナリングフォースをしっかり確保することで旋回性能を高めている。このモデルも同様でリヤタイヤには最大80%の駆動力を配分。ここでポイントなのがスタビリティシステムであるESPのセッティングの高さだ。リヤに駆動力を多く配分することで高い旋回能力が得られるが、リヤタイヤが滑るとスピンしかねない。これを防止するESPのセッティングが絶妙。ドライビングの邪魔を一切しないのだ。スポーツ走行をするような場面でもESPが介入することで走りがギクシャクするようなことがなく、気持ちよくスムーズにドライブすることができる。

特筆したいのがオプションで用意されるアウディドライブセレクト。32万円と高価なオプションだ。これはスイッチ1つでクルマの性格を4パターンに変えられるものだ。インパネセンターに付けられたスイッチでコンフォート、オート、ダイナミック、インディビジュアルを選ぶことができる。コンフォートは優しい乗り心地でゆったりドライブする時に最適。サスペンションの設定はもちろん、エンジン出力特性やシフトスケジュールまでも変化するのがポイント。そのためダイナミックを選ぶとスポーティモデルのような性格のクルマに変身させることもできるのだ。

オープン時にはシートをクロームのモールで囲むようにデザインされていてとても美しい

フル4シーターらしく、リヤシートの快適性も十分だ

4人乗車で爽快なドライブが楽しめる

7000回転まで一気に吹け上がるV6直噴エンジン。アウディダイナミックドライブを装備すれば、スポーティカー並みの走りも可能だ

3.2L・V6のFSIエンジンもそれに応えるスポーティさを持っている。低回転域から十分なトルクを感じさせ、アクセルを踏み込めば一気に7000回転を極める。よどみなく吹け上がるフィールは、ドライビングしていてとても気持ちがいい。さらにスポーティさを倍化させるのが7速Sトロニックミッションとパドルシフト。変速スピードが速いデュアルクラッチのミッションと操作性のいいパドルシフトは、スポーティモデル顔負けの楽しいドライビングを提供してくれる。

オープンモデルでコーナーを攻めるのは似合わないが、そうした走りもこなせるパフォーマンスを秘めているのもA5カブリオレの魅力の1つといえるだろう。爽快なドライブを楽しめるフル4シーターモデルで、スポーティな走りもこなせるカブリオレはそう多くはない。