前回(連載第2回)で述べた、リモートワーク下で求められる「支援型マネジメント」を進める第一歩は、部下の仕事の「責任の明確化」を図ることだ。
部下のキャリアに寄り添い、思いを聴く
ただし、「管理型マネジメント」にありがちな、部下に対し一方的に仕事と目標を示し、働きぶりを監視し、結果を評価する方法では逆効果となる。部下の自律性を引き出し、部下が仕事の目的や意義を感じ、自ら主体的に責任を引き受けようとするように、丁寧な動機づけをしていくことが大切だ。
そこで、新年度の期初には、部下との面談を行い、本人の仕事への思いやキャリア志向、また強み、弱みなどへの理解に努めることから始めたい。その上で、仕事の目的や意義を共有しながら、本人に任せる役割・仕事をしっかり決めていこう。
面談は部下1人1時間程度で、上司はシートを手元に置き肯定的な姿勢で傾聴していく。私が開発した「メンバー育成計画シート」を図示するので、活用するとやりやすいはずだ。以下、このシートをもとに面談の方法を詳しく解説していこう。
部下のキャリアヒストリーを概観する
「メンバー育成計画シート」の左側一列は、部下のキャリアヒストリーを整理する部分だ。部下との面談に先立ち、分かる範囲で本人の社歴(+転職歴)や現在の担当業務、そして将来のキャリア展望などを整理し記入しておこう。面談では、それらを確認・補強する形で本人の話を聴いていく。
担当業務で本人の将来につながると思える部分は、詳しく聴いておきたい。本人の将来のキャリア希望も確認しておこう。
会社への思い、現在の仕事への思いを聴く
シート右側・上段では、まず部下が会社に対して感じている満足感や充実感、また反対に不満や悩みを聴き取る。ポジティブな感想や意見は話しやすく、ネガティブな内容は話しづらいもの。率直な思いを語れるような雰囲気づくりを工夫しよう。
次いで、現在の自分自身の仕事・役割についての思いも、上記同様に両面で聴き取ろう。満足要因と不満・悩みの要因については、無理のない範囲で聞いておくことが、本人理解に役立つ。
部下の持ち味を知り、「強み」と「弱み」を共有する
「強み」を十分認め、「弱み」をフォローする
以上を踏まえて、シート右側・中段の本人の「強み」(長所)と「弱み」(短所)について対話を進めていく。上司が感じている内容は予め記入しておこう。部下からすれば、いきなり「あなたの強みは?(弱みは?)」と尋ねられても答えに窮してしまう。
そこで、まず本人の「持ち味」に着目しよう。これまで部下自身で成果が上がったと思う仕事や、好きな仕事は何か、反対に苦手は何かなどの話題から入り、対話を深めていく。本人の持ち味への光の当て方によって、強みや弱みが浮かび上がってくると考えるとよいだろう。
ここでは、まず部下本人が自覚する強みと弱みは何か、自己認識を開示させることが第一だ。そのうえで、上司としての評価も伝え、双方の認識や思いをすり合わせていく。本人が気づいていない強みは具体的に伝えて、励まそう。また弱みについては、往々にして強みと表裏一体であることも多いので、個性でもある旨を伝えると、本人も前向きに捉えることができる。
部下の強みはさらに伸ばし、弱みは本人の努力とともに周囲やチームで補完する姿勢が、「支援型マネジメント」の原則だ。すでに面談での対話から、部下への動機づけがスタートしている。部下自身の思いや自己認識の傾聴に努めながらも、適切なアドバイスや励ましによって、上司と部下の信頼関係の基礎をつくっていくことが大切だ。
将来への希望と期待をすり合わせる
将来への希望を聴き、期待を語り、共有する
シートの最終項目は、上司の部下に対する「将来への期待」である。これまでの対話を通して、部下の今後の仕事への希望や自己啓発の課題などが、より明らかになってきたことと思う。そこで部下の意向を十分に踏まえながら、上司としての期待を整理し、しっかりと伝えることが大切だ。
今後3年〜5年の将来を見据えて、部下にどのように成長し活躍してほしいのか。その一環として、どのような役割・仕事を任せるのか。成長・活躍の期待イメージはどうか。それに応じて、上司自身がいかにフォローをしていくか。日常や定期的な報連相の方法や、部下の自己啓発への支援なども含めて、上司としての関り方も明らかにしておきたい。
部下との対話では、全てが同意できる内容ばかりではないだろう。そうした認識のズレについても、上司として自覚しておくことが必要だ。その上で、そのズレをいかに前向きに解消していくか。部下に粘り強く働きかけていく事柄や、互いに調整や努力をし合う点は何か。また上司自らが改善し変わらなければならない点もあるはずだ。部下からも学び、共に自分も育つ「共育」の視点も大切にして、上司自身の内省を深めることにも留意しよう。
「あなたならでは」の役割・仕事に動機づける
チームの中での役割・仕事の位置づけを明らかにする
以上のプロセスを経て、部下に任せたい役割・仕事を明らかにしたら、それが組織・チームのなかでどのような位置づけになるかを言語化し、本人とチーム全体で共有することが大切だ。
例示した「中堅広告代理店 営業組織の仮想例」を参照してほしい。このような個性とウィットのある組織図を作成し共有することも効果的だ。ここではチーム全体に各メンバーを位置付ける意義とポイントを確認しておこう。
「仮想例」の中の面談相手の部下は、営業第二課の11年目の中堅社員の渡部さんとする。まずチーム全体では、次の上半期は営業本部全体で「お客様の販売30%UPで、売上目標30%UPを達成しよう」との組織目標を掲げる意義も共有。そのうえで渡部さんは、今期、東部エリア担当の営業主任に抜擢し、本人も受諾したところだ。
面談で上司からは、これまでの本人の仕事ぶりとキャリア希望を踏まえ、近い将来には営業第二課全体でのリーダーシップ発揮を期待する旨を語った。
「あなたならでは」の活躍に期待し、動機づける
上司のあなたは、リーダーを期待する渡部さんに「あなたならでは」の役割を担ってもらいたいと強調するのだ。渡部さんは、コツコツと顧客本位の提案営業を積み重ねてきたことで、お客様からの信頼が厚く、社内でも定評がある。また上司や後輩との報連相も丁寧で、チームの中で頼りにされる存在だ。
そこで、そうした自他共に認める「信頼関係作りのプロ」としての力と個性を今後も十分に発揮して、渡部さんらしいリーダーシップで組織に貢献し、大きく成長してほしい。そのことを本人に伝えると同時に組織図にも明記し、チーム全体で共有するのだ。
他の部下も同様に面談を通じて動機付けをしていく。こうして、部下一人ひとりの役割・仕事を組織全体の仕事の目的や目標の中に位置づけ動機づけると同時に、本人のキャリア希望に根差した自分らしい意義ある役割・仕事として動機づける。
そのことで、部下一人ひとりの活躍・成長と組織の成長が繋がり、主体的・自律的に仕事を遂行する姿勢が芽生えていく。それが仕事の「責任の明確化」となり、リモートワークで上司の常時のサポートがなくても、率先して自らの職務を果たそうとする行動に繋がっていくのだ。