世界が注目するパーパス経営は日本型経営の原点

いま欧米を中心に、多くの企業が自社のパーパス(目的、存在意義)の明確化と、パーパスに沿った経営をいかに進めるべきか、注力し始めている。それは、SDGs(国連の持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、企業統治)重視の観点で、企業経営のあり方が根本から問い直されていることと軌を一にしている。

企業は株主利益第一の「株主資本主義」から脱し、従業員や、取引先、顧客、地域社会などあらゆる利害関係者の利益に配慮し、自らの社会的パーパスを果たすべきと再認識され始めたのだ。

この世界的な潮流から、日本でもパーパス経営への関心が高まっている。こうして、パーパス経営といわれると、新しい概念と思われがちだ。しかし、私は何ら目新しいものではないと考えている。

そもそも、どの企業にも設立の目的があり、その実現に向けてビジネスモデルや事業・組織と商品・サービスを作ってきたはずだ。ところが資本主義社会のもとで、各社が利益第一主義にまい進した結果、社会的弊害が顕在化してしまった。そこで、あらためてパーパス重視が唱えられていると捉えるべきだろう。

元来、日本では、渋沢栄一の「論語と算盤」や、伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛の「三方良し」など、社会貢献型の経営理念や実践が尊ばれてきた。すなわち、パーパス経営とは日本型経営の原点であるともいえるのだ。

20〜30代の若手社会人が語った理念経営の大切さ

私は、先日、大学で担当するキャリアデザインの授業で、教え子だった若手社会人2人を招き、就活に向かう学生たちに仕事のリアルを直接語ってもらった。名づけて「キャリア白熱教室〜教え子が教える連鎖の好循環へ!」。

ゲストの30代女性Ⅿさんは、20代で教育系企業のリーダー職を務めた後に転職と独立を経験。現在、フリーランスで広報の仕事をしている。一方の20代のT君は、大手企業に就職し、その後、外資系企業に転職。営業職の傍ら副業でコーチング業も営んでいる。

パネルトーク形式で、2人が仕事を通して得たものや、目指す目標やキャリア、企業選びへのアドバイスなど、自由に話してもらった。

印象的だったのは、2人が各自の体験から「理念に共感できる企業を選ぶことが大切」と強調したことだ。企業が掲げる理念やビジョンは、抽象的で綺麗な言葉にまとめられていて、一見似たように見えがち。しかし、それらをよく見比べて企業情報とも照らし合わせていくと少しずつ違いが見えてくる。

さらに、OB・OG訪問などで実際に働く人に接し、質問や会話を交わせば、掲げた理念が本物かどうかもわかってくる。そして、働く自分自身が「自分の中で譲れないもの」を持ち貫くことが大切だと、力強く語ってくれた。

若い教え子の2人が、パーパス経営を重視し、自分のキャリアとしっかり関連づけて働いていること。そして、学生たちがその姿に強く感化されて見る見る目の色が変わっていく様子に、私は感無量だった。

経営者のみならず、すべての組織リーダーが取り組むべし

先見の明のある企業トップほど、パーパス経営の重要性に着目し、自らの組織理念に立ち返りつつ、さらに新たなビジョンを打ち出し、自社の存在意義をより高めるための改革に歩み出そうとするだろう。だが、こうした時に現場では、経営が推し進める取り組みを「上から降りてきたもの」と捉えがちだ。

しかし大切なことは、現場で働くリーダーすべてが、経営者任せにせず、自組織やチームのパーパスは何かを主体的に考え見出すことだ。そして、それを自分自身の言葉でメンバーに伝えることが必要である。

企業で社員が働く現場や顧客接点の最前線で、「お客様第一」「地域密着」「社会貢献」など、大きく掲げたスローガンを目にする。気になるのは、社員全員がこの言葉を自分自身の中に落とし込み、具体的な日々の仕事や行動に表せているかどうか。組織上層部からの指示で貼り出しているだけではなく、自分事にできているかだ。

組織のパーパスをメンバー間でしっかり共有し浸透させていくには、現場を束ねる上司層が、定例ミーティングや会議などの折々に、また普段の日常会話の中で、対話していくことが大切だ。自組織での具体的な仕事を取り上げ、パーパスに照らしてどう考え、改善や工夫をしていくか、語り合うことが重要だ。

希望を胸にした新入社員や、異動や転職などで入ってきた部下を迎え、組織も心機一転する新年度。その初頭にあたり、ぜひ皆さんも「自社のパーパスとは何か?」をあらためて問い直し、自身のチーム・マネジメント向上に活かす挑戦をしてみてはいかがだろうか。