「"無限"とは"時間"や"時空"ではなく、"想い"なのだと感じています。限りの無い"想い"。それは"永遠"と呼んでもいいものだと思います」

俳優・木村拓哉にとって『武士の一分』(06年)以来、約10年ぶりの時代劇主演となる映画『無限の住人』。沙村広明氏の人気漫画が初の実写化、さらに木村と三池崇史監督の初タッグということもあり、メディアは大々的に取り上げた。SMAP解散騒動で日本中に激震が走った2016年1月、木村は不死身の侍・万次をようやく演じ終える。2015年10月5日、映画化が発表されたあの日から、どれだけの人がこの作品を話題にしてきたのだろうか。冒頭にあるのは、「無限とは?」に対する木村の答えだ。

公開初日を迎えた2017年4月29日、舞台あいさつの壇上で「客席の皆さまのものになりました」と引き締まった表情で呼びかけた木村。今回の連載は「∞」になぞらえ、8名のスタッフの証言をもとに、『無限の住人』が「皆さまのもの」になるまでの「無限の想い」をまとめた取材記録である。

8人目は、木村の起用ありきだったと語る三池崇史監督。連載第19回は、木村の人物像について。撮影を終え、あらためて彼をどのような人物として捉えているのか。

三池崇史監督 撮影:荒金大介

細やかで心遣いができる人間

――木村さんとの初タッグはいかがでしたか?

同じ時代、同じ国で過ごしているはずなんだけども、他の人間と比べると「こうも違うか」ということだらけですね。同じ現場にいても違うように見えてしまうというか、風景すら違った色になるというか。

ただ……孤独でしょう。あの立場で生きてきて、時にはネット上で叩かれてしまう。誰かに「助けてくれ」とも言えない。彼はそれをずっと、人知れず続けてきたわけですから。根は本当に細やかで心遣いができる人間です。ただ、それを媚びるためには使わない。ある壁を作っていて、それを突き破るなり、飛び越えるなりできる人たちと付き合っていきたいという潔さを感じます。

――これまで「運命的な出会い」の兆しはなかったんですか?

「この役を木村拓哉で」と本気で思ったことは、今まで一度もなかったですね。

『無限の住人』を映画化するんだったら、木村拓哉を主演にするぐらいの気合いがないと。映画化するだけでも大変なはずなのに、業界の人間は「主演・木村拓哉」と聞いて、さらに驚く。そうならないと面白くないですよね。

「あえて茨の道を選ぶ」役者

――監督として構えてしまう部分はありましたか?

初めての役者は、「どんな人なんだろう?」という興味が先に湧きます。前もって考えてもしょうがない。結婚するわけではないので(笑)。どんな最悪な状況になっても、撮影自体は2~3カ月で終わるわけですよ。それに、だいたいどんなことでも、振り返ってみると「面白かったな」と良い思い出になる。

「やりやすさ」「やりにくさ」というのは、別に大したことじゃないんです。その点、彼は監督にとっては理想的な役者でしたよ。要求したものに応えられないことがゼロなんです。どんなことでもやってのけちゃう。または、やってのけようと最大限の努力をする。彼はそれを「自分の武器」としています。

――『無限の住人』以前と以後で彼の印象は変わりましたか?

全然違います。「すごい役者」であることは確かです。普通やらないだろうということを、彼の中にはこだわりがあって、あえて茨の道を選ぶ。もっと楽な方法があるはずなのに……その姿を見ると、誰もがそう思う。でも、彼は「到達すること」に目的があるんじゃなくて、「どういう道を通って到達するか」に重きを置いている人なんだと思います。

■プロフィール
三池崇史(みいけ・たかし)
1960年8月24日生まれ。大阪府八尾市出身。『十三人の刺客』(10年)がヴェネチア国際映画祭、『一命』(11年)と『藁の楯 わらのたて』(13年)がカンヌ国際映画祭に出品されるなど、海外でも高く評価されている。主な作品は、『オーディション』(00年)、『殺し屋1』(01年)、『クローズZERO』シリーズ(07・09年)、『悪の教典』(12年)、『土竜の唄』シリーズ(14・16年)など。公開待機作品に、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない第一章』(17年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(18年)がある。

(C)沙村広明/講談社 (C)2017映画「無限の住人」製作委員会