連載「ワーママのモヤモヤ整理します」は、託児付きランチサービス「ここるく」の経営者で、育休復帰・働き方改革のコンサルティングも手掛ける山下真実さんが、ワーママが抱えるモヤモヤを整理・解消に導いていく企画です。

9回目となるモヤモヤ整理の相談者は、2人目育休中でメーカー勤務のあゆみさん。入社してからずっと営業職として活躍していますが、「本当に自分がしたい仕事なのか」と考えてしまい、モヤモヤしているといいます。

  • 「復職後も営業職」に誇りは持っているものの…… ※画像はイメージ

【今回の相談者】

あゆみさん(33歳) 長男、長女を育てる2児の母。大手メーカーに入社以来、ずっと同じ部署で営業職を担当してきた。若手の女性が少ない部署の中で、復職後も営業で働き続ける姿を後輩に見せたいと思いつつ、営業以外の職種にも興味を持ち始めている。

営業以外の仕事をしてみたいけれど……

山下さん: 「あゆみさんの抱えている悩みについて、教えていただけますか?」


あゆみさん: 「はい。今は第2子の育休中なのですが、復職後、どういう仕事をしていくか、どういう異動の選択をしていくかというところで悩んでいます」


山下さん: 「具体的には?」


あゆみさん: 「営業の仕事をする中で、社外のお客さまではなく、社内の人のためになる仕事をしたいと思うようになりました。復職後は、総務や人事など、社内の仕組みを作ったり、働きやすさを実現したりできるような部署への異動希望を出したいなと考えています」

ただ、会社としても世の中的にも、出産して復職して時短で営業を続けられる環境は貴重だと思っていて。私が異動希望を出した時に『やっぱり時短だから営業は厳しかったんだ』という見られ方をするのは、後輩のためにならないのではないかと悩んでいます。『ああいう働き方が出来たらいいな』という若い子たちの目線も意識して働く必要があるのか、モヤモヤしてしまいます」

営業は子育て中の女性に向いている仕事

山下さん: 「あゆみさんがどのような選択をするかは別として、それぞれの職種の特性をまず理解しておくといいかもしれませんね。これはあくまで私の理解と経験に基づく認識ですが、時短勤務や裁量労働の枠組みの中で、時間をやりくりしながらパフォーマンスを発揮し続けるという点においては、営業職って子育て中の女性に向いているんですよ。訪問数に比例して成功率が上がるという考え方はもちろんありますが、商談時間が1時間から2時間に増えたからと言って、売り上げが2倍になる世界ではないですよね。時間がないなりに、提案力やこれまで積み上げてきた経験・知識で、工夫できる部分が大きいんです

「 一方で、人事や総務といった事務職、特に事務処理を集中的に行うバックオフィス業務は、時短勤務でパフォーマンスを上げ続けるという点では不向きかもしれません」


あゆみさん: 「なるほど……。でも実は、私が人事や総務への異動を考えているのには他にも理由があります。1つの会社で、ずっと同じ部署で営業を続けていったら、今の部署でしか使えない知識を積み上げていくだけになるのではないかと不安なんです。今すごく転職がしたいというわけではないのですが、汎用性の高い、会社全体が見れるような仕事を経験した方がいいのではという気持ちもあります」


山下さん: 「私から見ると、あゆみさんの持っている営業スキルは、どこへ行っても通用すると思いますよ! 特に同じ業界であれば、どこでも転職できるのではないでしょうか。人事や総務は、どこの会社にも存在する職種で転職に有利というイメージがありますが、実際にはその会社固有のやり方や文化を反映しなければいけない部分も多いですよね。そう考えると、営業ってすごくいい仕事なんですよ! 私も元々営業をしていた身として、知っておいてもらえるとうれしいなと思います


子どもと仕事を天秤にかけることには無理がある

山下さん: 「ただ結論から言うと、自分の人生、やりたいようにやるべきです! やりたいようにやろうと腹をくくったところで、希望するポジションにいけるかどうかは、やってみないと分かりません。でもやらないでモヤモヤするんだったら、チャレンジしてみたらっていうのがアドバイスになります」


あゆみさん: 「でも考えてみると、本当に人事や総務の仕事がしたいというよりも、そんなに好きじゃないかもしれない営業の仕事をやり続けることに、自信がなくなってきたのかもしれません。子ども2人と離れてまですることだから、自分らしく、やりがいもあって、経済的にも自立できるくらいの仕事がしたいと、仕事に対する理想が上がっている気がします。ただ、時短という制約もあるので、ジレンマはありますが……


山下さん: 「あゆみさんと同じ感覚をお持ちの方は多いのではないかと思っています。でも、子どもの存在や、子どもと一緒に過ごす時間と純粋に対比させて、それに見合うキャリアや給与を考えていくと、なかなかそんな条件に見合う仕事ってないと思うんですよね。だから、仕事と子どもを天秤にかけない方がいい。子どものために一生のキャリアを捨てろという話ではありません。自分よりずっと大切な子どもを大切にするために、自分は何をしたらいいんだっけって考えてほしいんです

「私は出産後、この先の数十年にわたる親子関係を見通して、最も良い関係を保つために『子どもと過ごす時間が少ない今』だけを見てキャリアを考えてはダメだと思いました」

「子どもが大きくなるにしたがって、私が直接的に子どもにしてあげられることは減っていく。そんな中で、例えば子どもが迷っているときにアドバイスをもらえる人と繋いであげたり、何かを極めて世界で勝負したいと思ったときにその環境を用意してあげられるようにしたい。そのためには、自分もレベルを上げていかないといけない。そう思って、今の仕事をしようという結論に達したんです。子どもvs仕事じゃなくて、『子どもを大切にしたいと思っているあゆみさん自身の人生』と釣り合いのとれる仕事や働き方は何だろうって考えた方が迷いが晴れやすいと思いますよ


あゆみさん: 「言われてみると私自身、子どもの存在が大きすぎて、仕事はずっとしていくものだという気持ちすら飛ばしてしまいそうになることがありました。まずはこの根本的なところに立ち返って、考えてみたいと思います」


山下さん: 子どもたちの存在は優先順位のランキングに入れず、殿堂入りにしちゃいましょう。殿堂入りの存在を大切にするための自分の役割を考えたときに、異動を希望するのなら、総務に行っても人事に行ってもイイと思います。ジャンジャン手を上げたらいいと思う。後輩たちのことを思うなら、後輩たちにポジティブな影響が出るようにがんばればいいだけの話です。異動希望を出すか出さないか、考えることは自分にしかできません。納得できる答えが出るまで、ぜひじっくり考えてみてくださいね」

山下真実

株式会社ここるく 代表取締役・社会起業家・2児の母
米国留学によるMBA取得、米系投資銀行・金融コンサルを経て、ママになったことをきっかけに子育て支援という全くの新領域へ。人気レストランから選べる託児付きランチサービス「ここるく」を2013年にスタート。サービスを通じて集まる働くママのインサイトと、MBA・コンサルで得た専門知識の両面から、ママ向けサービス開発や育休復帰・働き方改革コンサルティングなども手掛ける。
『第14回女性起業家大賞』、三菱UFJ銀行主催『Rise Up Festa』最優秀賞受賞。