ビー・エム・ダブリューが先日、車載通信サービス「BMWコネクテッド・ドライブ」を搭載したBMW車の日本での累計販売台数が10万台を突破したと発表した。

車載通信サービス「BMWコネクテッド・ドライブ」を搭載したBMW車の日本での累計販売台数が10万台を突破したという

このサービスは2013年9月に登場。10万台を突破したのは、エアバッグが展開するような重大な事故が発生したとき、自動的にSOSコールセンターに連絡する「BMW SOS コール」と、整備関連の車両情報をディーラーに送信する「BMWテレサービス」を組み合わせた「BMWコネクテッド・ドライブ・スタンダード」だ。

このニュースに呼応するかのように、ボッシュは年次記者会見の中で、救急通報システム「eCall」を日本で提供開始すると発表している。エアバッグの展開に連動してコールセンターに自動通報するシステムで「BMW SOS コール」と同種のサービスといえる。

さらにもう1件、自動車の救急通報に関するニュースがあった。埼玉医科大学が、事故車両内から被害状況をデータ送信する自動通報システム「D-Call Net」の試験運用を開始したというものだ。同システムはNPO法人救急ヘリ病院ネットワークが各地の病院に導入を提案している。

こういったニュースを見ていると、これからは救急への通報は自動車が行うのが当たり前になりそうな気配だが、「何をいまさら……」という人も少なくないだろう。なぜなら、救急通報システムはとくに目新しいものではなく、国内メーカーではBMWよりも先にサービスを提供しているからだ。

そうした既存のサービスと、ボッシュの「eCall」や「BMW SOS コール」はどう違うのか、あるいは同じものなのか。そこでまず、各サービスの概要を整理しておこう。

欧州では義務化される予定の「eCall」

「BMW SOS コール」は、事故発生時に車両から自動的にSOSコールセンターに接続し、オペレーターとの音声通話と同時に、車両情報や車両の位置情報がデータ送信される。同サービスはBMWが直接運営しているのではなく、テレマティクスによる救急通報を手がける日本の企業プレミアエイドがサービスを提供している。

ボッシュがこれから提供を開始する「eCall」も、その概要は「BMW SOS コール」と同様だ。オペレーターとの音声通話とデータ送信を同時に行う。ユーザーに無料提供することを前提としている点も同じだ。ボッシュはすでに欧州の41カ国で「eCall」を運営しており、十分な実績を持っての日本参入となる。

驚くべきことに、欧州では2018年4月以降の新型車に「eCall」の搭載が義務づけられる予定となっている。さらに、ボッシュは既存の車両に簡単に取り付けられる「後付けeCall」も提供する。詳細は不明だが、車両のシガーライターに差し込んで使用し、スマートフォンと連動するシステムだという。

一方、埼玉医大が導入をめざす「D-Call Net」は、当然ながら前述のサービスとはやや毛色が異なる。埼玉医大にはドクターヘリがあり、同システムはこのドクターヘリの運用を最適化するためのシステムとなっている。つまり、車両から衝突の激しさなどのデータを自動送信させ、その事故がドクターヘリを出動させるべきケースなのか迅速に判断するために役立てるのだ。

ドクターヘリは救急車と同列に考えられがちだが、根本的な違いがある。救急車は消防が所有しているのに対して、ドクターヘリは病院が運用しているのだ。出動には、まず消防に通報があり、消防から病院に出動要請をするという二度手間が必要となる。「D-Call Net」を使ってもそれは同じだが、事故の程度を判断する車両データは病院に直接送信されるため、出動までの時間短縮や、治療に必要な情報収集が可能になる。

これらの新しいサービスと、国内メーカーがすでに数年前から提供している救急通報システムはどう違うのか。現在、トヨタとホンダがサービスを提供しているが、どちらも運営しているのは日本の企業である日本緊急通報サービスであり、そのため、どちらも「ヘルプネット」という同じ名前になっている。

ヘルプネットそのものは、BMWやボッシュのシステムとほとんど同じで、エアバッグ展開に連動して自動で、あるいは手動でボタンを押してサービスセンターに接続し、音声通話とデータ送信が可能となっている。しかし、ヘルプネットはその提供方法がBMWやボッシュと大きく異なるといえるだろう。トヨタは「T-Connect」「G-Link」、ホンダは「インターナビ」というテレマティクスサービスを運営しており、ヘルプネットはその一機能として提供されていて、独立したサービスではないのだ。

既存のテレマティクスサービスは見直しを迫られる?

日本では15年ほど前に突如としてテレマティクスブームが起こり、トヨタ「G-BOOK」、日産「カーウイングス」、ホンダ「インターナビ」がさまざまな機能を競い合った。当初は「おいしいラーメン店を探す」など、柔軟な目的地検索やお店情報をメインにしていたが、その後は渋滞情報に重点を置いたり気象情報を取り入れたりと変遷している。

その変遷の中でトヨタとホンダがヘルプネットを採用したが、両メーカーとも「こんなこともできます」といった脇役的な扱いで、あまり積極的なプロモーションはしていない。自社開発のサービスではなく、他社との差別化を図れるわけでもないので、大きく取り上げる意味がないと判断したのかもしれない。ユーザー側から見ても、テレマティクスのサービス全体が複雑でわかりにくく、ヘルプネットといわれても、カタログの隅にそんなことが書いてあったな、という程度の認識がほとんどだろう。

対照的に、BMWはほぼ全モデルにこの機能を標準装備とすることで、強くユーザーにアピールした。ボッシュも救急通報サービス単体での展開に大きな可能性を見いだしている。特徴的なのは、どちらも非常にシンプルでわかりやすく、しかも無料だということ。この2つがそろうと、ユーザーへの訴求力は非常に強くなる。

誤解のないように書き添えておくと、ヘルプネットも無料ではある。ただし、その前提となるテレマティクスサービスを利用するために高価なメーカーオプションが必要だったり、通信料が別途だったりするケースがあるため、シンプルに無料ですとはいえない。「無料」の後ろに長い注意書きが必要になってしまうのだ。このような条件付き無料はユーザーにインパクトを与えない。

「ITS」「テレマティクス」「コネクテッドカー」といろいろな言い方があるが、いずれにしても自動車の通信機能はこれからますます重要な分野になる。日本の自動車メーカーはその重要性に早くから気づき、力を入れてきた。ただ、力を入れすぎたと言うべきか、ユーザーを置き去りにして空回りしている感は否めない。欧州勢に対抗することはもちろん、この分野でAppleやGoogleに飲み込まれないためにも、戦術の見直しが必要だろう。