連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。
サラリーマンの方が自分の給与明細を見ると、毎月の給与から所得税・住民税が差し引かれているのがわかります。このうち、住民税は前年の1月から12月までの所得に基づいて計算された税額を12分割して6月から翌年5月までの給与から差し引く仕組みになっています。一方、所得税は1月から12月までの所得にかかる税金を、その年に支払うことになっています。
1年間の所得額は12月末にならないとわからないはずなのに、年の初めの1月給与から毎月所得税が源泉徴収されているのはなぜでしょうか。
1年分の税金を計算し直して過不足なく納税する仕組みが「年末調整」
毎月給与から徴収されている所得税額は、仮で計算された概算の金額なのです。もし毎月徴収せずに、所得が確定する年末にまとめて納税するルールにすると、多額で払えない人が出てこないとも限りません。そのため、給与や賞与の支給時に仮に計算した概算額をあらかじめ差し引いておき、その年の給与総額が確定する年末近くになって確定した納税額をちゃんと計算し直して、事前に源泉徴収した額との差額を追加徴収したり還付したりするのです。会社とサラリーマンが行うこの一連の手続きを「年末調整」と言います。
本来「納税」は個人に課せられた義務。個人が自ら「確定申告」をして納税をするのが本来の姿です。しかし、徴税漏れを防ぐためや事務作業を円滑にするために、サラリーマンの納税は、個人に代わって会社が行うことになっています。
しかし、年収2,000万円超の方や、会社の給与以外に一定以上の所得がある方、複数の会社から給与を得ている方などは、自分で確定申告(翌年の2月中旬から3月中旬)をして最終的な調整をしなければなりません。
年末調整で税金の負担を軽減する「所得控除」を確定!
11月から12月になると会社から「扶養控除等申告書」と「保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」の2種類の年末調整書類が配布されます。 この申告書に記入して提出することによって、個人的な事情に配慮して税負担を軽減する「所得控除」の一部を確定させます。
所得税や住民税は所得の額によって決まりますが、例えば、同じ所得の人でも複数子供がいて老親も養っている人と、独身の一人暮らしの人とでは、家計の状況がかなり異なります。
このような個人的な事情に配慮して税金を軽減する仕組みが「所得控除」です。 わかりやすいように簡単な数式等で示すと以下のようになります。
■所得控除の仕組み 例:所得額100万円、税率10%の場合###年末調整に対応した所得控除は? 「所得控除」は全部で14種類ありますが、そのすべてを年末調整で申告する訳ではありません。 会社から配布される「扶養控除等申告書」と「保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」をつぶさにみると、下記表中の「年末調整対応」の欄が「○」と記載されている所得控除が細かい文字で記載されているはずです。 所得控除の額は、家族の人数や年齢、収入(所得)、同居・別居の別、1年間に支払った保険料の額や医療費の額、社会的弱者かどうか、などによって異なっています。 税制はこのように、私たち個人や世帯の事情や状況に配慮した仕組みになっています。ちなみに近年話題になっているのは、専業主婦の働き方に大きな影響を及ぼすと言われる「配偶者控除」です。 「年末調整」をきっかけに、暮らしや働き方に大きな影響を与える税金のことを少し考えてみてはいかがでしょうか。
控除前の税金……100万円×10%=10万円
例:所得額100万円、税率10%の場合で所得控除額が30万円の場合
税金は所得額100万円-所得控除額30万円×10%となるので、
控除後の税金……70万円×10%=7万円
所得控除によって、税額は10万円-7万円=3万円軽減されます。
執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)
ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。
「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)
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