連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。


医療保険に入るときは、主要項目に絞って検討する!

現在、多くの保険会社がさまざまな医療保険を販売しています。それぞれが特長を競っているため、詳細に比較して優劣をつけるのはとても難しいのですが、検討すべき項目はある程度限られています。

おもな項目は、保険期間、保険料の払込期間、1回入院の支払限度日数、入院給付金日額、手術給付金、付加できる特約(オプション)等の種類、保険料の水準などです。保障内容を仮に決めて毎月支払う保険料を見積もり、保険料が高くて家計を圧迫しそうな場合は一部の保障を削減するなどして、最終的に決めることになります。

ポイントは、医療保険ですべてカバーしようと思わないこと。保障に優先順位をつけて、カバーしきれない部分は貯蓄で対応すると割り切ることです。

【医療保険に入るときのおもな検討項目】

保険期間は"終身"、入院給付金日額は5千円か1万円。

個々の項目について考えてみましょう。なお、保険を選ぶときの判断にはさまざまな考え方がありますので、ここでは私(FP中村宏)の考え方をご案内したいと思います。

■保険期間

医療保険の保険期間は大きく2つに分けられます。ひとつは一生涯保障が続く「終身型」、もうひとつは、最長85歳や90歳まで10年ごとに更新できる「10年更新型」です。高齢期になるほど病気やけがで入院、手術をする可能性が高まることを考えると、「終身型」を選ぶのが安心です。

また、「終身型」は契約時の保険料がその後もずっと変わらないため、収入が少ない老後も安心です。いっぽう「10年更新型」は、契約時の保険料は終身型よりは安いのですが、更新のたびにその時の年齢で保険料が再計算されて高くなり、長期的には負担が大きくなってしまいます。

■保険料払込期間

「終身型」の医療保険は、一般的に保険料の払込期間を「終身払い」と「短期払い」から選択することができます。

「終身払い」は一生涯かけて保険料を払い続ける払い方。長生きすればするほど多くの保険料を払う必要がありますが、ひと月分の保険料は安くなるメリットがあります。

「短期払い」は、「60歳まで」、「65歳まで」、「70歳まで」など、保険料を払い終わる年齢を選択できる払い方です。一生分の保険料を一定の年齢までに払い終えることになるので、ひと月分の保険料は「終身払い」よりは高くなりますが、長生きをすれば「終身払い」よりも有利になります。

選ぶ上での目安は契約時の年齢です。私はお客様にアドバイスをする時、40歳までの方には「短期払い」を勧め、できれば60歳までに払い終えるよう申し添えています。そして、40歳以上の方には「終身払い」を勧めています。

40歳以下の方は、保険料を払う期間が20年以上あるため、ひと月分の保険料が家計を圧迫するほど高くならず、かつ、60歳の定年後、少ない収入から保険料を払う必要がなくなります。40歳以上の方が「短期払い」を選択して払込終了年齢を60歳や65歳までに設定すると、ひと月の保険料が高額になり家計を圧迫してしまいかねません。そのため、安い保険料を生涯払い続ける「終身払い」を勧めるのです。

■1回入院の支払限度日数

医療保険は何日入院しても給付金がずっと支払われるものではありません。

1回の入院で「30日」、「60日」、「120日」などと決まっています。たとえば「30日型」の場合、入院してから30日間の入院給付金は支払われますが、31日目以降は支払われません。その後約半年間は同じ病気やけがが原因の入院には払われません。支払限度日数が長いものほど一般的に保険料が高くなります。

かつては「120日型」が主流でしたが、現在の主流は「60日型」です。背景には、入院日数が短くなってきていること、さらに、家計への負担が小さい保険料の安い保険が求められていることなどがあります。

商品によっては、特定の生活習慣病やがんを原因とする入院の場合に、支払限度日数が無制限になるものも出てきています。

■入院給付金日額

サラリーマンの場合、入院給付日額は5千円か1万円でよいでしょう。

医療保険のほとんどのパンフレットは、入院給付金日額1万円の例が記載されていますが、入院給付日額を半分の5千円にすると、毎月の保険料も概ね半額になります。サラリーマンの場合、入院などをして4日以上働けずに収入がなくなった場合、健康保険から傷病手当金が支給されるため、生活保障目的で医療保険に入る必要はありません。また、医療費の自己負担額には“高額療養費制度”による上限が設けられていることもあり、入院給付金日額を5千円に設定しても、費用の相当な部分はカバーできるはずです。カバーできない費用は貯蓄で補えばよいのです。

なお、かつては4日以内の入院には対応していないものが多かったのですが、入院の短期化が進んでいることもあり、「日帰り入院」から給付金を支払うものが主流になっています。

また、短期入院に対応して、5日までの入院には一律5日分の給付金を支払うものも出てきています。

■手術給付金

手術給付金は、入院給付金日額を決めると自動的に決まる場合がほとんどです。なぜなら、手術給付金の額を「入院給付金×○倍」としている商品が多いからです。

かつての手術給付金は、保険会社が指定した手術をした場合にのみ払われていましたが、最近は公的医療保険に連動したものになっているためわかりやすくなっています。ただし、入院を伴う手術と、外来手術とでは給付水準を変えています。

給付の形態は、商品によって、手術の種類にかかわらず入院給付金の一定倍率のものと、手術の種類によって倍率を変えているものがありますが、どちらがいいというものでもありません。なぜなら高額な医療費がかかる手術でも、自己負担額には“高額療養費制度”で上限が設けられているからです。

■先進医療特約

先進医療特約とは、厚生労働省が指定する先進的な医療を受けた際に、その技術料の実費を保障するものです。先進医療の技術料は公的医療保険の対象外のため、全額が自己負担になってしまいます。そのため最近ではほとんどの医療保険についています。先進医療だからといってすべてが高額な治療になるとは限りませんが、この特約を付加しても保険料はさほどアップしないため、万が一のときのために付けておけばよいと思います。保障額は通算、1,000万円や2,000万円のものが多いようです。

なお、商品によって、先進医療特約の保険期間が終身のものと、10年更新のものがあります。10年更新のものは10年ごとに保険料がアップするため、終身のものがおすすめです。

がん保険に別途入る必要はない! 医療保険でカバーする!

最近の医療保険は、三大疾病やがんに対応したものが増えてきました。これらの疾病で入院した場合、基本保障として1回入院の支払限度日数を無制限にしているものも出てきています。また、放射線治療にも対応したものもあります。

かつては、がんは特別な病気で、治療には長期入院と手術が必要なため、医療保険とは別にがん保険に加入しておいたほうがいいと言われていましたが、現在は、医療保険にがん特約を付加すれば、十分に対応できます。いまやがんは治る病気だと言われています。また、治療は入院を伴わず、通院治療だけで対応する場合もあります。医療保険にがん診断一時金特約、がん通院給付金特約を付加しておけば、がんも十分カバーすることが可能です。

最後に保険料を検討する!

保障内容を決めたあとは、保険料を検討します。十分な保障を付けたおかげで保険料が高くなって家計に支障を来すようだと、長期的に払い続けることができなくなります。

保険料を払いながら、しっかりと貯蓄もできるように考える必要があります。保障内容が変わらない場合は、保険料の安い商品が有利です。会社や商品によって保険料水準には大きな差があるため、必ず複数の商品の見積もりをとって、比較・検討して決めるようにしてください。

執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。(株)ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)

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