生保など機関投資家の新年度の計画が決まってきました。

「オープン外債」って、ご存じですか? オープン外債とは、為替ヘッジのためのドル売りを外債購入時に同時に設定せずに、まさにヘッジなし(オープン)で外債を買うことです。もちろん、為替リスクをもろにかぶることになります。

しかし、円債は利回りが出ませんし、ヘッジ付き外債だとヘッジコスト(2国間金利差から発生するコスト)がかさみ、利回りが急低下してしまうため、苦肉の策とはいえ、生保各社は結構やっているもようです。

  • 「オープン外債」を知っていますか? (画像はイメージ)

例えば、大手の生命保険会社の中には、新規運用額の約40%が、為替ヘッジをせずに運用する、つまりオープン外債でやる方針のところがあるほどですので、結構なリスクを負っています。

それでいて、あまり円安を見ているわけでもないようで、予想レンジの上限を112~120円ぐらいで見ています。そのため買うと言っても、105円以下の押し目買い狙っているもようです。

しかも、希望としては、「すぐ下げてすぐ戻る相場がいい」と虫の良いことを言っているようです。

確かに、105円以下で生保各社がこぞって買ってきたら、はじめのうちは反発するものと思います。しかし、それも広くマーケットで知られるようになると、誰も、105円以下で力を込めては売らなくなります。その点においては、反発力は、暫時弱まっていくものと思われます。

財務省・日銀の大量介入によるマーケットの動き

2003~2004年頃、財務省・日銀が、大量介入したことがありましたがそのときのことを思い出します。

当局によるあまりの大量介入に、誰も立ち向かって売るマーケット参加者はおらず、むしろ一緒になって買うようになりました。

そのため、マーケットは右も左もロングになり、その後2003年8月から2004年3月までの間に、介入が出ながらも、16円も円高ドル安になったことがありました。ですから、どんなに大量買いをしても、それでマーケットがロングになれば、落ちるものなのです。

そのことは、生保各社も気づいているようで、最近のドル/円の上値が異様に重いのも、押し目で買ったドルを放置するのではなく、上がったところをしっかり売ってきているもようです。

そのため、予想レンジの上限を112~120円ぐらいとかなり控えめに見ているものと思われます。その点は、生保各社も、過信せず臨機応変に対応しているもようです。

1980年台、生保各社は活発にオープン外債をやっていました。その頃、日本の生保も「ザ・セイホ」の名で、世界的にも一目置かれる存在になっていました。しかし、それは、外債を買ってそのまま放置するという実に乱暴なオープン外債でした。

そのため、バブル崩壊とともに、大きな損失を出すことになり、オープン外債からの撤退を余儀なくされてしまいました。それから、失われた20年が過ぎ、その間リスクを嫌って円債一辺倒となりました。

しかし、誰もが円債に参入してくると利回りが出なくなり、2014年にGPIFが投資配分を変更し、外債や外国株式に積極参入してくると、生保各社もそれを追うように外物(そともの/外債・外国株式)に投資を移してきました。

そして、その後の生保各社の外物への取り組みを見ていますと、過去の苦い経験を生かし、機動的に売り買いをするようになってきていることがわかります。

つまりは、生き残っていくためには創意工夫を怠らないことを、生保各社の行動は教えてくれているように思われます。従いまして、マーケット参加者である以上は、そうした知恵を絞る不断の努力が誰しも必要だと考えます。

そういう意味で「道を究める」という言葉はなく、常にさらなる先を追及することだと思います。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら