世の中はめまぐるしく変わっていきますが、ちぃとも変わらない分野もあります。

先日、若い女性に人気のコラムニストが新米パパの育児参加について語っていました。彼女曰く、「男性はリスペクトされたいんだから、ほめてあげて」。ここで私は椅子からどたーんと転げ落ちるくらいの衝撃を受けたのでした。昭和から言われていること変わらないやんけ。

人間の妊娠期間は長いと言われていますが、つわりなど数々の体調不良を乗り越えて、女性は出産します。私の従姉妹は「生んだ後の方がつらい」と言っていましたが、体力だって落ちるし、ホルモンバランスも乱れて精神的にもつらいでしょう。なんでそんな状態の女性が、肉体的・精神的に無傷の男性を、まるで天才大物アーティストのように扱わねばならぬのか。むしろ女性をリスペクトすべきだろと思ってしまうわけです。

女性の立場が低いからと言ってしまえばそれまでですが、「女性を褒める文化」が日本には全く根付かないと感じています。歴代の総理大臣が就任直後にイメージアップを狙って「いつもありがとう」と妻にちょろっとアピールして終わり程度でしょう。私に言わせると「ありがとう」は挨拶であって、誉め言葉ではありません。

有名人で妻を褒める人と言うと、思い浮かぶのが俳優・三浦友和です。妻はあの山口百恵さん。結婚直後に「徹子の部屋」(テレビ朝日系)で、百恵さんのことを「頭がいい」とほめていたことがありましたが、これは当時としては本当に珍しいことだったと思います。

友和の後に「妻を褒める男」は長いこと不在でしたが、ようやく現れたのが、ミュージシャン・DAIGOです。第74代内閣総理大臣・竹下登氏の孫で、妻は女優・北川景子です。今年の4月から「DAIGOも台所」(ABCテレビ)のMCに就任し、「徹子の部屋」(テレビ朝日系)に出演した際は、8歳年下の妻の精神性を尊敬していると言い、「僕がついていきたいなって思ってますね、ずっと」と話したのでした。

DAIGOの名言「僕がついていきたいな、ずっと」

  • イラスト:井内愛

妻をほめるキャラは貴重ですし、時代にも合っている。でも、「DAIGOも台所」を見ていると、「男についてこられる女」もまあまあ大変なのだとわかります。これまで料理を全くやったことがないDAIGOが「娘のお弁当を作る」ことを目標に料理修行に励んでいるわけですが、本当に作業はゆっくりです。テレビはショーですから、急にテキパキできるようになったら“見せ場”がなくなってしまいますし、DAIGOが総理大臣のお孫さんだったことから考えると、お育ちゆえにできなくても仕方ないと視聴者も好意的に受け止めてくれるでしょう。そんなこともあって、わざとゆっくりやっている部分もあるのかもしれませんが、トークも結構だらだらして、好き嫌いが別れるところだと思います。

でも、ダメな自分を見せることに躊躇がない。これが「褒める男」なのだと思うのです。ここでイラっとする女に、男はついてこない。「ついていきたい」と男に言わせたからには、どんな結果も受け止める覚悟が必要なのかもしれません。実際、妻の北川景子は5月25日放送「TOKIOカケル」(フジテレビ系)に出演し、夫の料理について「めっちゃ遅いんです」とコメント。だよね。「器具を探すところか“ピーラーってどこに入ってったっけ?”ってところから。“ここだよ”って。もうすごい、丁寧に丁寧にやってる。いろいろ見ていると口を出したくなっちゃうので、あんまりキッチンに入らないようにしています。“貸して!”って言いたくなるんですよ、それはしないようにしています、今は」と笑いながら明かしていました。「女を褒める男」に必要なのは、できない相手にキーキー言わない度量が求められるのかもしれません。

元祖褒める男・三浦友和さんと百恵さんの場合

元祖褒める男、友和と言えば、浮気こそしなかったものの(というか、既婚者が浮気しないのは当たり前のことですが)、お金の面ではそれなりに百恵さんに苦労をかけています。友和は2020年7月30日号「週刊新潮」(新潮社)のインタビューに答えて、「30代から40代にかけては本当に生活ぎりぎりのお金しかなく、35歳で国立市に立てた家を売ろうと思ったくらい」と難しい時代があったことを告白しています。

青春スターが大人の俳優にシフトするときに、今までのように簡単に役がもらえなくなるというのは、よくある話のようです。そこで「仕事がねぇ」とクサってふて寝する男もいるでしょうが、友和はお子さんのための離乳食を自分が手作りするなど育児に取り組み、百恵さんも「仕事ないの?」と言わなかったそうです。百恵さんは歌手でしたから、外で働きに行かなくてもまとまった歌唱印税が入るなど、まったく無収入でなかったこともあったことは見逃せませんが、俳優のようにオファーがあって成立する仕事は、自分の意志や努力ではどうにもならないことを、百恵さんが誰よりもわかっていたからかもしれません。

誰にだって苦手なことはあるし、うまくいかない時期もあります。それをケタケタ笑える明るさ、もしくはすべてを包みこめる強さ。「ほめられる女」は「デキる女」ではなく、「たやすく幻滅しない女」を指すのかもしれません。