世の中「勝てば官軍」だから、成功者の言うことはみんな「正しい」って思ってくれるよね。このようなひねくれたことを公然と書いているワタクシの嫌いなことは、“きれいごと”。この世の“きれいごと”の最たるものは、「コツコツがんばっている人は、必ず幸せになる」という、女性が子どもの頃から刷り込まれてきたアレ。

言っておきますけど、そんなことないですから!

人生、重要なのは要領、もしくは作戦ですから!

そんな気持ちをこめて、婚活マニュアル本「間違いだらけの婚活にサヨナラ!」(主婦と生活社)を上梓しました。婚活がうまくいかない女性は「欠点の無い女性」「完璧な女性」を目指してしまいます。しかし、男性が求めているのは「メリットのある女性」です。 10個欠点があっても、メリットが1つあればOK。女性から見て欠点だらけの女性が、さっと結婚していくのは、男性から見てその女性にメリットがあるからだと私は思っています。もう1つのポイントは、思考のゆがみに気づくこと。知らず知らずのうちに自分を追い込んでしまう思考に気づいてほしいと思っています。

日本は女性を笑うことに躊躇のない国なので、独身女性は「ブスだから、結婚できない」「美人だけど、性格が悪い」といった上から目線にさらされることは、よくあります。努力しているのに、結果が出ず、追い詰められた女性がハマるのがスピリチュアル。気晴らし程度なら私にとやかく言う権利はないのですが、結構な金額をつぎこんだり、思考停止になっている女性がいることも確かです。

「守護霊があなたに学びを与えるために、わざと婚活がうまくいかせないようにしているってスピリチュアルカウンセラーに言われたんです」と報告してくださる方もいるんですが、じゃ、どうやったら学びが得られるか、カウンセラーさんはついでに聞いてくれよと思ってしまう。「守護霊の計らい」は「あなたが悪いのではない」のと同義なので、気が楽になるのかもしれませんが、私はおカネをもらう人は本当のことを言うとは限らないと思っているタイプなので、かける言葉がみつかりません。

それでは、スピリチュアルを信じていないかというとそうではないのです。 おそらく芸能人というのは、スピリチュアルな才能に恵まれた人がなるものではないでしょうか。特にそれを感じるのが、ユーミンこと松任谷由実なのです。

30年以上も前からスピリチュアル的な発言をしていたユーミン

日本にスピリチュアルを定着させたのは、2005年に放送が開始され、スピリチュアル・カウンセラーの江原啓之氏が出演していた「オーラの泉」(テレビ朝日系)でしょう。この番組の影響で、パワースポットや前世といった言葉は一般的な言葉となりました。が、ユーミンはこの番組が始まる20年以上も前から、スピリチュアル的な発言をしています。

ユーミンのインタビューをまとめた「ルージュの伝言」(角川文庫)は1984年に発行されていますが、その中でユーミンは「空飛ぶ円盤なんかも二回ぐらい見てるし」「ラップ現象とかもすごく経験してるよ、ジャカルタやなんかでね」「善光寺とか平安神宮とか、よく行く神社とかがあるんだけどね。そういうところへ行くと、やっばり磁場があるのね。パワーの密度が濃いということかもしれないし、土地自体がパワー持っているってことなのかもしれないけど」と、もろスピリチュアルな発言をしています。

しかし、私がユーミンって本当にスピリチュアルな存在だと思うようになったのは、違うエピソードを知ったからなのです。

  • イラスト:井内愛

歌手の小林麻美をご存知でしょうか? 竹久夢二の美人画に出てきそうな、物憂い美人ですが、ユーミンと小林は親友だったそうです。小林の代表作「雨音はショパンの調べ」は、ユーミンが小林のためにアレンジしたもの。大ヒットを飛ばした後、小林は女優としても活躍しますが、所属事務所の社長と結婚し、引退します。しかし2016年、「Ku:nel」(マガジンハウス)の表紙モデルとして芸能界に復帰したのは記憶に新しいところ。

周囲に祝福される結婚をし、引退して主婦になったと思っていた小林麻美ですが、「AERA」(朝日新聞出版)によると、小林も社長も独身であるのになぜか結婚という形はとらず、小林がたった一人で息子を産んだ(その後に法律婚をした)と書かれています。

周囲に迷惑をかけたと感じた小林は「禊として」、芸能界を引退することを決意します。芸能界のトップを走り続けるユーミンと、芸能界から遠ざかろうとする小林。安いドラマなら「私たち、いつまでも友達」とハグしあうところですが、この人たちは違う。ユーミンは「きっぱり親交がなくなりました。でもそれでよかった。友達でい続けるのは、それはそれで大変だったと思う」「尼寺に行くじゃないけど、昔はそういう別れがあったんです」と、熟慮した上で今生の別れを決断したことを感じさせます。

ユーミンの名言「気持ちはつながっていると思う25年でした。」

けれど、その別れを振り返って、「神隠しみたいに姿を消してしまったけれど、気持ちはつながっていると思う25年間でした」とも言っている。たいていの場合、会わなくなった人は忘却の彼方においやられて、もう二度と会おうと思わないはず(会わなくなった人を覚えているのは、傷つけられた記憶を持つ側で、それは覚えているというより、恨みに思っているからでしょう)ですし、頻繁に合う人を友達と認識するはずです。

元親友のカムバックを盛り上げるために、リップサービスとして「気持ちはつながっていると思う25年間でした」と言った可能性は大いにあると思います。けれど、上述したスピリチュアルな体質に加え、「輪廻転生」をテーマに、1983年にアルバム「REINCARNATION」を発売していることから考えると、やはりスピリチュアル的な発言ではないかと思うのです。

今会えないからといって、ずっと会えないとは限らない。
好きな人のことは、たとえ会えなくなってもずっと好き。

多くの人が友人の条件を「頻繁に会う人」と定義するでしょう。しかし、ユーミンにとって物理的距離は問題ではない。そうでないと「気持ちはつながっている25年」とは言えないと思うのです。

ユーミンが作詞・作曲した「時をかける少女」の中に、「過去も未来も星座も越えるから抱きとめて」というフレーズがありますが、ユーミンは昨日今日という短いスパンで人生をとらえていないのではないでしょうか。

「ルージュの伝言」で、ユーミンはかつての所属事務所、バックバンド、かつての友達、自分を取材してくれる出版社とのもめ事についても触れています。スターの宿命と言ってしまえばそれまでですが、嫉妬や利権争いに巻き込まれ、嫌な思いもしたようです。「あんまりウェットに仕事をするのはよそうっていう考え方だから」とユーミンは語っていますが、スピリチュアルなセンスに富む一方で、自分に必要のないものはきっぱりはねつける現実的なセンスも持っているようです。ビジネス上の決断に、スピリチュアルは用いていないようです。

スピリチュアルというと、今や仕事や恋愛、ひいてはお金を「引き寄せた!」といった具合に成功するための手段として扱われています。しかし、ユーミンを見ていると、そんな簡単に答え合わせができるスピードくじのようなものではないと思わされるのです。

いつやってくるかもわからない、もしかしたら来ないかもしれない未来すら信じることができる。つまり、結果を求めない心、それがスピリチュアルなのかもしれないと思うのでした。

※この記事は2018年に「オトナノ」に掲載されたものを再掲載しています。