11月10日にゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン(以下GM)は、東京都江東区の日本科学未来館で「テクノロジーセッション」を開催した。このセッションはマスコミ関係者を対象にしたもので、環境問題に注目している多くのモータージャーナリストも会場に集まった。

手前がGM最新の燃料電池車シボレー・エクイノックス。奥の大きなクルマがフルサイズSUVのタホをベースにした2モードハイブリッド

テクノロジーセッション最大の注目は、日本初披露の燃料電池車「シボレー・エクイノックス」とハイブリッド車「シボレー・タホ・ハイブリッド」の実車を見られる点だ。エクイノックスはGMの最新型で、従来の燃料電池車ハイドロジェン3から方向性を大きく変えたため注目されている。

ご存知の方も多いと思うがハイドロジェン3までは、GMはかたくなに液体水素を使っていた。理由は液化することでたくさんのエネルギーを搭載することができ、燃料電池車のネックである航続距離の問題を解決できる可能性があったからだ。それと効率よく発電できればバッテリーの二次電池を搭載する必要もない。システムが簡略化でき、コストダウンにつながるため注目されていた。

だが、この方式を採用する社は他になく、GMの燃料電池車は他社と足並みをそろえることになった。他社の燃料電池車と同じく、高圧の圧縮水素を搭載し、バッテリーを搭載している。それがエクイノックスというわけだ。セッションでは液体水素をやめた最大の理由を「ボイルオフ」と説明。このコラムでも以前エクストレイルFCVの試乗で紹介しているが、液体水素を使う場合もっとも困るのがボイルオフ。極低温の液体水素はどうしても気化してしまうので絶えずロスが生じる。トータルで考えると液化にもエネルギーを使い、貯蔵や使用過程でもロスが大きくなるため圧縮水素に変えたわけだ。それとインフラは共用したほうがいいわけで、GMだけが液体水素というわけにはいかなかった。

それではエクイノックスの試乗と行きたいわけだが、残念ながら今回は試乗できなかった。それは技術的なトラブルではなく"日本の役所"が障害になって実現できなかったのだ。何かといえば水素タンクの認証。タンクは経済産業省の大臣認定が必要だが、それが認められなかったという。GM関係者もセッションでは何度も「中国や韓国でも試乗が許可されたのに、日本では規制の関係で試乗していただけない」と残念そうに言っていた。

日本はクルマ関係の認証に手間がかかりすぎる。欧米では試作車であっても、自動車メーカーが責任を負うということで公道でのテストが許される。日本の基幹産業となった自動車が、このような規制を受けていては開発の競争力を奪われることになりかねない。以前からボクが提案しているのは、自動車メーカーだけに与えられる"特別なナンバープレート"。全責任を持つ代わりに公道で試作車などを走らせることができる。クルマの走りの味わいや細かい部分の開発に、大いに役立つはすだ。

ちょっと話がそれてしまったが、今回はGMの最新ハイブリッドカーのシボレー・タホ・ハイブリッドに乗れるからまあエクイノックスの件は忘れようと思っていた。タホ・ハイブリッドはダイムラーやBMWと共同開発した2モードハイブリッドを採用している。フルハイブリッドシステムで、2つの電気モーターと電子制御式の連続可変トランスミッション(ECVT)の組み合わせで、あらゆる走行状況に対応できる。ビッグメーカー3社が共同開発したシステムだから試乗が非常に楽しみだった。

だが、タホ・ハイブリッドにも試乗できないという。ベース車のタホは日本でも走っているし、ハイブリッドには特別な認可が必要な水素ボンベは搭載していない。「なぜ」とGM関係者に聞いたら、「仮ナンバーが許可されなかった」というではないか。世界トップクラスの自動車メーカーのアジア部門が、日本の公道で試乗するための仮ナンバーを申請しても許可しない役所というのは…。最近試乗のための仮ナンバーは交付されにくくなったという話は聞いていたが、それにしてもだ。

結局、このテクノロジーセッションでシボレー・エクイノックスとシボレー・タホ・ハイブリッドには試乗できなかった。代表取締役社長のリック・ブラウン氏の先進技術のビジョンや技術担当者による燃料電池とハイブリッド技術に関する話が聞けたからよかったが、できれば試乗したかったというのが本音だ。

しかし、GMもこれではまずいと思ったのか、すでに市販されているマイルドハイブリッドカーの「サターン・オーラ・ハイブリッド」とGMと協力関係にあるスズキの燃料電池車「SX4-FCV」を会場用意していた。これら2台にはなんとか試乗することができた。特に日本未発売のオーラ(それにしても大胆な名前だ)・ハイブリッドは、マイルドハイブリッドとはいうものの、その走行フィールが気になるクルマだ。

次回はこのオーラ・ハイブリッドとSX4-FCVの試乗記をお届けする予定だ。

東京湾岸エリアにある日本科学未来館でテクノロジーセッションは行われた。左からGM燃料電池事業本部(FCA)アジア太平洋地域担当ディレクター ジョージ・P・ハンセン氏、GMアジア・パシフィック・ジャパン代表取締役リック・ブラウン氏、GMアジア・パシフィック ハイブリッド・アプリケーション・エンジニアリングマネージャー マーティン・マーレー氏

日本に初お目見えしたシボレー・エクイノックス。出力73kWで最高速160km/hを可能にしている。圧縮水素であるCGH2は他社と同様の700気圧で3本のボンベに分けられて4.2kg搭載される。航続距離は320kmとまだ短く、日本勢のFCVのほうにまだ分がある

全長4796mm、全幅1814mm、全高1760mmとコンパクトなボディを持つ。日本車ではハリアーあたりとサイズが似ているが、全高はエクイノックスのほうが高い

バンパーにはゼロエミッションと小さく書かれている

SUVらしいリヤスタイルですっきりした印象だ。リヤゲートには大きくフューエルセルと書かれている

バンパー下部はディフューザー形状をしている。反応後の水は水蒸気として排出されるが、その排気管が見当たらない。スリットから排出するようにしているようだ

排気管はディフューザーの中に伸びている

リヤから下をのぞくとフルフラットに近いことがよくわかる。リヤのディフューザーはカーボン製だ

フロントフード下はこのようにフルカバー状態。最近はガソリン車も同じだが、何があるのかまったく見えない

最先端の燃料電池車だが、インパネデザインは平凡な印象。スピードメーターは最高速の120マイル(200km/h)まで刻まれているが、最高速は100マイル。中央の小さなメーターの右側が水素の残量計

ラゲッジルームの広さは確保されている。奥のフロアのふくらみは、3本搭載されるボンベの最後端の影響。リヤシートは6対4の可倒式

このリヤシート下に700気圧のカーボンコンポジット製のボンベが収納されている。立派なリヤシートが装備されているが、エクイノックスは4人乗りだ

燃費改善が求められているフルサイズSUVのタホを最初の2モードハイブリッドカーに選んだが、金融不安による景気衰退でフルサイズSUVはまったく売れなくなってしまった

ボディサイドには大きく2モードハイブリッドと書かれている。ダイムラーとBMW、GMが共同でパワートレーンを開発した

リヤスタイルもエンブレムやデカール以外、ノーマルのタホとほとんど変わらない

さすがアメリカ車。ハイブリッドであってもキャンピングトレーラーやボートトレーラーをけん引することが開発段階から考えられている。ノーマル同様にヒッチレシーバーが付き、6000ポンド(約2700kg)のトーイングキャパシティ(けん引能力)がある

エンジンは6LのV8で、もちろん伝統のOHV。だがオールアルミのエンジンは可変バルタイ付きで、332馬力の性能。ハイブリッドによって燃費性能はトータルで30%向上し、2.4LクラスのSUVに迫ることができるという

エンジン横にレイアウトされているのが「パワー・エレクトロニクス・システム」。ハイブリッド用バッテリーはリヤシート下に搭載されている。電圧は300ボルトだ

インパネもベース車とほとんど同じだ

タコメーター内にハイブリッドと書かれていることが違うくらいだ

動画
次回のコラムではスズキのSX4-FCVとオーラ・ハイブリッドの試乗記をお届けする予定だ。先行してSX4-FCVの走りを公開。走行音が小さく、クルマが近づくまでは鳥のさえずりのほうが大きいことに注目