すでに各方面で話題になっているからご存知の方も多いと思うが、首都高速道路(以下首都高)は08年秋から距離別料金制に移行したいと発表している。ここで間違ってはいけないのは、この距離別料金制は確定事項ではなく、まだ導入や料金などの検討段階なのだ。首都高を走ると看板や垂れ幕などに「08年に距離別料金に移行」などと書かれているため、すでに決まったことと勘違いしている人もいると思われるが、反対するのはまだ遅くない。ボクも基本的に距離別料金制には反対だ。

この料金体系変更の事業は首都高速道路株式会社が勝手にやっているわけではない。事業計画として監督官庁の国土交通大臣の認可を受けて検討しているものだ。これは東京都民やその周辺の人だけの問題ではない。現在案として示されているままの距離別料金制ならば、事実上大幅な値上げになる。この波及効果は大きく、物流などのコストを押し上げるのは確実だ。さらにこの料金体系が認められれば、他の都市や均一料金を適用している区間で新たに距離別料金制が導入される可能性がある。

まず現在の料金を確認しよう。首都高東京線といわれる東京の中心部を中心に走る路線は普通車で700円、大型車1,400円だ。ところが導入を検討している距離別料金制では普通車の初乗りは400円、長距離を走ると最大で1,200円に変更される案。大型車はこの倍で初乗りが1,400円、最大で2,400円と案が示されているのだ。首都高側は今までのデータから推計すると値上げになる人は全体の46%だという。果たしてそうなのだろうか。プライベートで首都高を使う場合は、ドライブなど郊外の高速道路まで使うことが多いはず。乗る場所にもよるが距離別料金制だと現在の700円で走れる距離はたったの19kmまで(10kmから19km)。これ以上走れば距離に応じて料金はどんどんと上がり32.5kmからは上限1,200円でストップする。これでは事実上の値上げといわれても仕方がない。

では実質値下げになる650円で走れる区間はというと10kmの区間を走る人だ。今までのデータによると10km未満の区間しか利用しない人は、全体のたった22%だという。だから多くの人は値下げにはならない。なぜここで"値下げ"を問題にするかというと、首都高速道路が公団から民営化されたときの公約が料金値下げだったからだ。ETCで時間別や曜日別の割引を実施しているというが、これはETC利用者のみが受けられる割引で現金支払い者にはまったく値引きがない。料金値下げはすべての利用者が対象でなければならない。ところが距離別料金制は値下げどころか事実上の値上げだ。それに距離別料金制の適用を受けられるのはETCとそれに類似するもの(後述の首都高X)を装備するクルマだけで、現金支払いの場合は最高額の1,200円を支払わなければならない。もちろん一区間で首都高を降りても返金はされない…。

ゲームのネーミングのような「首都高X」って何!?

距離別料金制導入の1つのネックとなっているが降りた場所を特定すること。そのためETCなどでの利用以外は最高額の1,200円を払うということにしているわけだ。だが、これは首都高側のいい訳。実は各出口(降り口)にはすでにETC用のアンテナとカメラが設置済みなのだ。入り口で車両ナンバーを読み取っているからそれと出口での情報を合わせればどこで降りて、走った距離はいくらかがわかるはず。現金支払いで最初1,200円払っても、後から距離に応じた料金を精算して返却する方法は何とか構築できるはずなのだ。

首都高速の出口にはすでにETC用の無線通信(DSRC)アンテナとナンバーを読み取るカメラが設置されている。これを使ってナンバーから車両が降りた出口データをとれば現金支払いでも距離別料金にできるはずだ

各道路会社はどうしてもこのETCを普及させたいようだ。もちろん将来の路車間通信などを考えるとDSRC通信を使った端末は有効だと思うが、料金の収受だけならばほかにも方法があると思う

しかし、こうした方法を取らず、首都高はETCを付けなくても距離別料金制を適用可能なシステム、「首都高X(エックス)」導入を検討している。ETCを付けない人のためにポータブルタイプのETCといえる首都高Xを新たに利用しようというのだ。ゲームのような名前だが、これは現在の開発コードネームのため導入時に同じ名前になるとは限らない。だが、首都高Xも実は首都高にとってはジレンマ。苦肉の策といえるものなのだ。首都高はもちろん、各道路株式会社は自社のコストダウンのためにユーザーに負担を強いてETCの普及を進めている。だが、装着が簡単でほかのクルマにも付け替えられ、ポータブルで無線走行できる首都高Xが便利ということになれば、ETCの普及に影響が出かねないからだ。

そのため首都高Xのいびつな運用方法が考えられている。無線通信で料金所を通過できるにもかかわらず、入り口で収受員がいるゲートで一旦停止して電子マネーカードを手渡さなくてはならない。だが出口はETCと同様の無線通信で通過すというものだ。出口で無線通信できるから入り口でも通信は可能だが、そうするとETCと同じになってしまうから一旦停止させてカードを手渡すという作業をわざわざ増やしている。さらに首都高XはETCと同様の時間帯割引などは受けられず、使えるのも首都高速のみ。ほかの高速道路では使えないシステムなのだ。

実はこの首都高XはETCより機能的に優れていることがある。まず取り付けの容易さだ。シガーライターのコンセントに差し込むだけで電源が供給されるから、ETCのような面倒な取り付けがいらない。無記名、匿名で使えるからプライバシーの観点からも問題が少ない。ETCはクルマの情報からカード所有者まで特定できるから個人情報の管理という点で問題が多い。

先日行われた東京モーターショーに首都高Xはひっそりと展示されていた。グランツーリスモ5(GT5)のデモが行われていた後ろでETCのアンケートが行われていた場所に、隠れるようにして゛X゛があった

左側の電子マネーカードと首都高Xと呼ばれる通信端末がセットで有償貸し出しされる予定。もちろん返却すればデポジット料金は戻ってくる。それにしてもコンパクトでスマート。電源もシガープラグから取るから取り付けも簡単だ

首都高Xの導入が決まったわけではないが、先日行われた東京モーターショーで展示されていたプロトタイプを見ると完成度は高い。簡易ETCとして普及させるほうがいいと思わせるもので、本体サイズは縦69mm×横49mm×高さ13.5mm、重さ約65gとコンパクト。折りたたみタイプの携帯電話より小さい感じで、簡単に装着できるというのがいい。これに使う電子マネーカードはあらかじめ端末から入金が必要だが、これはETCカードも使えるようにすればいいだけだ。首都高Xを使わなくなったら返却すれば、最初に支払ったデポジットである保証金はもちろん返却される。この首都高X自体はETCに代わる端末として使える可能性は大いにあるが、道路会社はいろいろなしがらみがあるためETCの普及を進める。これもおかしな話だ。いい端末が開発できているのだから新タイプのETCとして導入するべきだ。

本体サイズは縦69mm×横49mm×高さ13.5mm、重さ約65gとプロトタイプでもかなりコンパクト。四角い部分だけ見れば、折りたたみタイプの携帯電話より小さい感じだ。取り付けが面倒なうえにデータを書き換えないと付け替えて使うことができないETCより便利

料金が引き下げられるよう、皆で声をあげよう!!

筆者は現在の距離別料金制の案には断固反対だが、内容を見直すならば距離別料金制への移行に賛成だ。まず最高料金は現行と同じ普通車700円にすること。さらに最低区間料金は50円からに設定する。これは渋滞緩和にも効果的なのだ。例えば入り口の渋滞表示が正しくなくて、実際に首都高に乗ってみたら渋滞だったとしても1区間50円ならば適当なところで下りて一般道を走って、渋滞がない区間から乗り直すということをする人が多くなるだろう。現在は均一料金制のため一旦乗ってしまったら、700円という高い金額を払ったこともあるのでなかなか降りない。渋滞していてもその先の区間のことを考えると降りづらいのだ。だが、1区間50円ならば状況に応じて首都高と一般道を使い分ける気にさせる。結果的に渋滞緩和策として効果が上がるはずだ。これは料金と区間が大切で、首都高案の一旦乗れば400円支払いというのでは効果がない。

それと首都高Xを新タイプのETCとして認め、電子マネーでもETCカードでも使え、全国の道路会社で使えるようにする。もちろん時間帯割引や通勤割引、マイレージサービスなどの各種の割引は現行のETCと同じにする。

これらのことが盛り込まれる距離別料金制ならば歓迎したい。そのためにも利用者の声が大切。首都高が言う08年秋の距離別料金制運用開始はあくまで予定だ。08年春には距離別料金制にするか最終的な判断がされる予定だ。それまでに距離別料金制に反対する人は声をあげよう。意思表示は首都高のホームページの「距離別料金について意見を送る」から簡単にできる。あなたが声をあげなければ、08年秋には首都高で1200円を支払うことになる。

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員