東京モーターショーは10月26日(金)から11月11日(日)までの17日間(一般公開は10月27日(土)から)、千葉市・幕張メッセで開催されている。ちょうど開催期間の中間となる日曜日である11月4日の入場者数は13万6200人。これまでの累計入場者数は85万2900人というから今のところ順調な来場者数といえるだろう。

トヨタのプレスブリーフィングも黒山の人だかりで会場に入れなかった。しかし、発表された内容には新しいものがなく期待はずれ。FCHVの今後が気になる

インプレッサWRX STIの発表も10月24日のプレイデイに行われた。ベールの下で登場を待つのは308馬力の心臓を持つSTIだ

今年の東京モーターショーの特徴は、国産スポーツカーの発表と復活、エコ関連技術の発表だろう。開催日前に報道関係者に公開されるプレスデイの10月24日には、日産GT-Rとスバル インプレッサWRX STIの発表が行われたため我々は大忙し。発表の舞台を世界から注目を浴びる東京モーターショーに選びたいメーカー側の気持ちはわかるが、各メーカーのトップがコメントを発表するプレスブリーフィングを追いかけながらの取材はかなり困難だ。

ベールを脱いだSTI。先代のセダンボデイとは違いハッチバックに変身した

ボクが何とか潜り込めた2階席から見た風景。マスコミ関係者で会場は一杯。発表会終了後も数時間はステージ前には近づくことができないほどだった

なにしろ世界中からプレスが集まるプレスデイでもかなりの人数で、各メーカーのブースは満員御礼状態。特に日産のブースは朝一番から各社が取材スペースを確保するためスタッフを配置。過去の経験から混雑を予想して、ボクはブリーフィング開始1時間前に日産ブースに行ったが、何とか潜り込めたのはステージから遠い2階席。特等席であるステージ前の席は、会場がオープンされた朝の時点ですでに満席状態。後から同業のジャーナリストに聞いた話では、30分前に日産ブースに来たというがすでに会場内は満員で、通路のモニターでGT-Rの発表を見ていたという。

発表会終了後にインフォメーションでGT-Rのカタログと資料が配られたが、取材陣が殺到して収拾がつかない状態になった。一方通行にして資料を配布すればいいものを狭い場所で配布したものだから、資料を受け取った人の出口がない。けが人が出なかったことが不思議なくらいだった

GT-Rをゆっくりと見られるようになったのは当日の夕方近く。それでも数人がクルマのあちこちを見ているという状態だった

このようにGT-Rが注目されるのは、日産の宣伝方法の戦略効果でもある。通常のクルマだと報道関係者には発表1カ月前に実車を見せることは珍しくないし、場合によっては事前試乗会まで開催する。それに対してGT-Rは発表直線まで一切情報を公開しなかった。なにしろ日産関係者でもGT-Rの情報を知る人は極一部に限られていた。それだから余計にマスコミ関係者の熱気も高まり、過熱気味の報道合戦になった。クルマの仕様詳細が発表されたのはモーターショーでの発表の前日、23日だった。それも異例の夕方から夜遅くまで開催する"事前説明会"。普通はこうした説明会は昼間に開かれるが、直前の夕方から開催というのは今まで聞いたことがない。それもこの事前説明会にすべてのマスコミ関係者が呼ばれているわけではないし、GT-Rが華々しく登場するショーの映像が必要ということでショー会場が殺気立ったわけだ。

日産では自らGT-Rをスーパーカーと名乗るが、V6ツインターボでスーパーカーというのは…。777万円というのもスーパーカーとしては…

マツダの代表取締役会長 社長兼CEO(最高経営責任者)の井巻 久一氏はノルウェーの水素エネルギーのインフラ整備を目的とする国家プロジェクトであるHyNor(ハイノール)に協力することを発表した。来年から順次30台の水素ロータリーRX-8を納入するという

実際会場では小競り合いが散見された。場所取りのために荷物を置いていても、あまりの人込みのため後から来るとカメラのスタンドをセットできないのだ。こうなると言い争いになる。さすがにほとんどが報道関係者のためケンカになることはほとんどないが、それでも火花がバチバチと飛ぶほどヒートしていた。日産ブースの発表は、GT-Rがドイツ・ニュルブルクリンクサーキットでタイムアタックをする映像からはじまった。7分38秒台という好タイムでアタックのビデオが終わり、カルロス・ゴーンCEO自らがGT-Rをドライブして登場した。

一般公開日の10月30日にもモーターショー会場に足を運んでみた。意外に人気だったのはミツオカのブース。オロチ・カブトが出品されていたが、ベースそのものはすでに販売されているオロチだ

平日はそれほど会場内は混雑していない。だが、特定のブースはクルマを見られないほど混雑している

ゴーン氏のコメントで目新しい内容がなかったのが残念だが、それはほかの国産メーカーでも同様だった。各メーカーのプレスブリーフィングを必死で追いかけるのは、東京モーターショーに合わせて今後の方針や大きな発表を行うことがあるからだ。特に期待していたのはトヨタとレクサスだったがサプライズ発表はまったくなく、燃料電池自動車であるFCHVの今後の予定も語られなかった。

11月3日の文化の日にもショー会場に行ってみた。レクサスブースも満員御礼。奥のLF-Aはクルマが見えないほど混雑している

スバルWRカーコンセプトも人気を集めていたが、モーターショーはコンパニオンを見るのも楽しみの1つ。クルマを撮る人もいればコンパニオンだけという人もいるが、それでもショーに来てくれるのはありがたいことだ

それに対してホンダとマツダは新しい今後の活動内容が発表された。すでにホンダは06年の年末の社長記者会見で燃料電池専用車であるFCXコンセプトをベースとした新型燃料電池車を、2008年に日本とアメリカでリース販売すると発表していたが、今回のショーではその市販予定車を11月(16日から25日までの開催)のアメリカ・ロサンゼルスオートショーで発表すると発表した。今まではFCXコンセプトだったがロサンゼルスオートショーで見せるクルマは、市販(限定的な市販)するそのものだという。まずアメリカで売り、その後日本でも発売するという順番も発表された。FCXコンセプトからとのように進化しているのか興味は尽きない。しかし、このビッグな発表にもかかわらず実車がないためか大して話題になっていないのが残念。トヨタはFCHVと呼ぶ燃料電池車をリース販売しているが、これは市販SUVモデルのクルーガーをベースにしている。その点ホンダのFCXは燃料電池専用車で、パッケージングもメリツトを追及しているはず。その市販モデルがいよいよ登場するのだ。

マツダはRX-8水素ロータリー車が話題だ。すでにガソリンと水素を切り替えて走ることができるバイフューエルのRX-8は公道走行も行われているが、水素のみで走るRX-8を開発したという。さらにそのクルマでノルウェーの水素エネルギーのプロジェクトに協力するというのだ。これはノルウェーの水素インフラ整備を目的とする国家プロジェクト"HyNor(ハイノール)"で、オスロからスタバンゲルまでの主要道路の580kmに水素ステーションを設置するというもの。マツダは来年から順次30台の水素ロータリーRX-8を納入するというのだ。こうした実証実験に参加できるというのは多くのノウハウを得ることができ、今後のマツダ水素ロータリーの開発に弾みがつくことは確実だ。世界でも稀なスポーツカーの水素自動車が日本でも走ることを期待したい。

東京モーターショーは今月11日まで開催されている。小学生以下は無料なので子供を気楽に連れて行けるから、ぜひ見に行ってほしい。

ちなみにボクの一押しのコンパニオンはホンダブースのCR-Zに登場する

レクサスIS Fのターンテーブルは世界初のサイドドライブ方式なのだという。通常クルマを載せるターンテーブルは中心にモーター駆動部があるためフロアよりも高くなるのが普通。レクサスは低く構えるスポーツモデルをより美しく見せるためターンテーブルまで新開発。テーブルをサイドから駆動することでフロアとの面一化を実現している。また、エンジン音や走行音がよりリアルになるように車体下から聞こえてくるように設計されている。これは他メーカーの担当者も興味があったようでBMWはわざわざシステムを見に来たという

いよいよFCXコンセプトから進化した市販バージョンのFCXを見ることができる。東京モーターショーで発表しなかったのはホンダは日本市場よりも北米市場に重点を置いているからだ。それにしても東京でFCXが発表されなかったのは残念。東京モーターショーの世界的なプレゼンスが低下しているということの表れかもしれない。アジア地区では上海モーターショーが重要視されつつある

これは11月3日の日産ブース。GT-Rを見るためには通路まではみ出した長い列に並ばなくてはならない。スタッフがロープで規制するようになったのは"カイゼン"だが、長い時間待たなくてはならないためほかのクルマを見る時間がなくなってしまう

コンパニオンの写真を撮る人(カメラ小僧=カメコ)に人気なのがオーディオ館。自動車メーカーのブースがある場所とは別で会場が狭いため暑いほどだ

自動車メーカーのブースよりもおもしろいのが部品メーカー。今後採用される装備などがひっそりと置かれていることも珍しくない。これはタカタの歩行者保護用のボンネットエアバッグ。市販車の採用が近そうだ

ダンロップは石油外天然資源比率97%の新世代エコタイヤENASAVE 97を2008年3月から発売することを発表した。石油をほとんど使わないタイヤというのは画期的。早く試乗してみたいタイヤだ

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員