昨今、リモートワークや業務効率化により、組織内での上司と部下の対話が減少しています。それにより、目先の業務以外で部下と何をどう話せばいいか分からないという上司も現れてきています。

そこで本連載では、組織内において部下の継続的成果と成長を支援し、さらにエンゲージメントを高めるために行う、対話のフレームワーク「すり合わせ9ボックス」を活用して、上司が「部下をダメにする話し方」について考察してみましょう。

  • 部下の弱みを人格と同一視していませんか?

    部下の弱みを人格と同一視していませんか?

すり合わせ9ボックスとは

すり合わせ9ボックスは、上司と部下が対話すべき3つの要素(業務・個人・組織)を、さらに3つの時間軸(過去・現在・未来)で分けた、計9つのテーマで構成したのです。5回目の今回は、「パーソナリティボックス」についてです。 

  • すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

    すり合わせ9ボックス 提供:日本能率協会マネジメントセンター

部下のパーソナリティを知ることこそ生産性アップの鍵

マネジャーとして、部下育成の役割を担っている人は多いでしょう。しかし、コンプライアンスによる残業規制やリモートワークによるコミュニケーション不足に加え、目の前の業務をいかに効率的に回すかに手一杯で、育成にまで考えや行動が至っていない管理職も多いのではないでしょうか。

このような環境下で効率的な育成を行うために、部下のパーソナリティの相互理解を行うことは非常に効果的です。パーソナリティとは、人が過去において先天的または後天的に獲得してきた「思考、行動、感情のパターン」のことです。つまり「性格、能力、コンピテンシー(行動特性)、強み、弱み」などです。

このパターンをまずは自覚できると、リスク管理ができたり、再現性を持った結果を出せたり、効果的なチャレンジが行えます。企業の中には、結果目標とは別に、コンピテンシー目標を立てて従業員の成長を促しているところも多々あると思います。

一方で、目標を立てたのはいいけれど、その進捗について確認しているのは業績や成果についてばかりで、コンピテンシーなど成果を出すまでの行動や思考プロセスを定期的に対話できている組織はまだまだ少ないのが現実でしょう。

しかし今、特にこの把握が重要な時代になっています。なぜなら、その人の強みと弱みに合わせたうえでの対応や配置転換をすることで生産性を上げることができるからです。ですから、部下のパーソナリティを知ることは時間がかかるかもしれませんが、結果として個人と組織の生産性を高めることができるのです。

ダメな上司は部下の弱みを人格と捉え、良い上司はパターンとして捉える

パーソナリティの代表的なものに、弱みや強みがあります。これらを相互に理解しておくことで弱みは克服に向けての対話が可能になり、強みはさらなる活用が期待できます。しかし、特に弱みや課題となる能力の相互理解のさせ方には注意が必要です。

例えば、部下のネガティブな行動パターンとして「仕事を抱えこみがち」という弱みがあるとします。それがボトルネックになって、ある業務が滞ってしまい、周囲からもクレームが上がってしまった。これはパーソナリティが問題を引き起こしたケースです。

例1)
上司「●●さんってすぐに仕事抱え込むよね」
部下「まぁ、はい」
上司「前からかなり言ってるけど、それ認識してる?」
部下「まぁ、そういうときもあるというのは認識してます」
上司「いや、すごく抱え込む人だと思うよ」
部下「……」

この時の上司の意図としては、インパクトを与えることで行動変容を促したい。だから厳しめのコミュニケーションを取る。というものです。

しかし、このような理解のさせ方に対して部下に聞こえてくるのは

「●●さんって、仕事を抱え込むダメな人だね」

というものです。

仕事を抱え込む、という行動が、人格と一体化してしまっているのです。上司としては、そこを一体化させることでマインドから変えていかせよう、と良かれと思ってしているかもしれません。

しかし、弱みを自分と一体化させて人格と向き合うことは、かなりエネルギーを要しますし、否定されることの耐性が低い最近の若手には効果的ではありません。

この場合は、本人の人格と弱みのパターンを切り分けて相手に客観的に建設的な解決法を考えてもらいます。すると、解決への合意が速くなります。

例2)
上司「また出たね。●●さんの業務好きすぎて離さないこのパターン」
部下「はい。そうですね。やっぱり抱え込みグセが出てきますね」
上司「これ、そろそろ変えていきたいよね」
部下「そうですね。僕もそろそろ真剣に変えていきたいと思います」

このように、部下のパーソナリティを自覚してもらうためには、行動パターンとして人格と切り離した客観的な認識を持ってもらう必要があります。目の前に、弱みのパターンを置いてお互いにそれを見ながら対話していきます。そうすることで、弱みについて客観視できてオープンでいられて、新たな能力獲得へとつながっていきます。そしてそれがパフォーマンス向上に結び付くのです。

一方、弱みを人格とつなげて認識させようとすると、人間は自分を否定したくないので認めたくなくなります。すると部下は無自覚に何度も同じ間違いを繰り返し、上司はその部下を「ダメな人」というレッテルをさらに貼ってしまう恐れがあるのです。

パーソナリティは理解だけで終わらずに変容を意識したアクションプランで終える

パーソナリティボックスの対話を効果的なものにするために大事なことは、行動変容を促すこと。このボックスでは、特にアクションプランを立てて対話を終えることを心がけましょう。上司は、具体的な行動を起こしてもらうための、詳細なイメージづくりのサポートを行います。詳細なイメージづくりをするためのポイントは二つです。

一つは、結果に至るまでのプロセスを明確にすることです。まず何をするか? 次に何をするのか? つまずかずにスムーズにイメージができることが大切です。

最初は、上司が時系列に、一緒にイメージのサポートをしてあげるとよいでしょう。「まず何から始めてみる?」「いいね」「次は?」「見えてるね」と、肯定表現を交えて励ましながら進めていきましょう。そうしないとかなりやらされ感が出てしまいます。

次に、そのプロセスが順調に進まない場合のリスクや障害を認識しておくことです。そうすることで、より現実的で一段深いアクションプランへと深化することができて、実現可能性が高まります。

注意する点としては、上司がアクションを意図し過ぎると、部下への強制感が生まれて、機能しない恐れがあることです。つまり、アクションプランありきで部下を誘導するのではなく、あくまで話の流れの延長に、アクションプランがあるのです。

そうしないと、部下の合意に基づいたものになりません。そのためには、対話中に、部下の新たなアクションに結びつくような「材料」を見出すべく、丁寧に対話していくことが必要になります。

ぜひ部下のパーソナリティについてじっくりと対話して、結果としてのアクションプランで能力開発のサポートを実践してみてください。